ある意味で腐れ縁の始まり
BLではない
王都の治安は実はあまり良くない。より正確に言うなら、子供一人でフラフラ出歩いていると人攫いにあうようなところから、定期的に王都を守る王国軍の人間が見回っているので何かあればすぐ兵や騎士が駆けつけてくるようなところまで色々ある。
ユーニスの住んでいるのは所帯を持っている兵士の自宅の集まっている地区だから、王都の中では比較的治安のいい方ではある。貴族のタウンハウスの集まっているエリアや、その貴族に贔屓にされている商家の集まっている商業地区なんかは当然警備に金がかけられている。
治安が悪いのは職を失った者や難民なんかの集まっているスラム化している地域だ。治安を担う者の目が行き届いていないし、犯罪者が我が物顔で紛れ込んでいる。国の中心であり最も豊かな都市であるべき王都にそんな場所があることを国の上層部は問題視していたが、市井の人間までそんな考えが浸透しているわけではない。そこはかとない閉塞感と何となく明るい展望の浮かばない未来に、それでも日々を懸命に生きているばかりだった。
ユーニスは高等教育を受けてきたわけではない。貴族や領主、王族などの上に立つ人間の考えはわからない。けれど善良な性根をしていたので、周囲の人たちが笑顔で幸せに過ごせたら良いと思っていた。
「甘っちょろ過ぎんだろ」
「君は確か…ジーク、だっけ?」
「…ジークムントだ。ユーニス・クォレン」
「俺のことを知ってるのか」
「フン、何かと目立ってるからな、お前」
ジークムントは訓練所の同輩だ。といっても、年頃はユーニスと同じくらいだが、彼より剣の修行を始めた時期が早い、先輩であるともいえる。栗色の短髪をして、いつも不機嫌そうに眉根を寄せている少年だ。顔の造形自体は整っているが厳しい顔をしていることが多く近寄りがたく思う子供が多いのか、あまり人の輪に入らないでいることが多い。
「俺のことが何やら気に入らないようだが、何かしてしまっただろうか」
「…ストレートに本人に聞くか?」
「俺には心当たりがないからな。自分でわからないなら、わかるやつに聞くしかないだろう」
「お前の周りには、さぞ良い奴ばかりが集まってたんだろうな」
「ああ、俺は人に恵まれている」
「皮肉も通じやしねぇ…」
ジークは眉をしかめたがユーニスは本気でそう思っていた。王都にやってきてからは特に、困窮した人間が悪事に走るところも見かけている。他の人間に親切にするというのは誰もが当たり前にできることでもないのだ。
瞬く間に剣の腕を上げ、人の輪にすっと入ってしまうユーニスに対して悪感情を抱く子供たちも当然いた。主に嫉妬といわれるやつ。その強さであったり、好きな子の関心が向かっているからだったり、あんまり苦労してなさそうに見えるところだったり。まあ色々、よくある話。
ストレートに本人にぶつかっていくタイプなら、彼の人の良さに毒気を抜かれたり、そういう面が目立たないだけでちゃんと努力してるんだってわかって己の矮小さを恥じたり、単純に好感を持ったりすることになるケースが多いのだが。思い込みだけで好き勝手鬱屈していくような奴らはその傲慢な嫉妬を肥大化させていた。
その頃には(本人はそんなつもりはないが)ユーニスは訓練所内の一大派閥の中心人物になっていた。平民中心に、将来は兵士か騎士になりたいと努力している者たち。緩いグループである。仲良しグループの類ではあるが、中心たる彼に剣に対してストイックな面があるので訓練を疎かにする者はおらず、寧ろ自主練を意欲的に取り組むくらいだ。自然と単純に戦闘能力の高い者が多く集まっている。家族に言われて嫌々訓練所に来てるようなのはついていけてない。
そんなある日、彼を妬む者の嫌がらせで彼は治安の悪いエリアに足を踏み入れなければならなくなった。個人的な用事だからと友人の同行は断った。彼自身用事を済ませたらさっさと退避するつもりだったし。
しかし案の定トラブルが発生してピンチになった。そこに偶然通りがかっただけです、みたいな顔で現れたジークが助力して、一緒にトラブルを退けた。
「ありがとう、ジークムント。助かったよ」
「別にお前を助けたかったわけじゃない」
「それでも俺は助かったから」
「…フン」
しかし実のところジークが此処に来たのは、嫌がらせというか陰湿なやり方で彼を傷つけようとした連中が気に入らなかったからなので、実際助けるために此処に来たようなものだった。本人は絶対認めないが。
ジークはユーニスが気に食わないが、そうはいっても実力を認めている。ライバルのようなものだと思っている。ある意味で、憧れてすらいる。本人は認めないが。
この出来事をきっかけにユーニスはジークに自分から話しかけるようになり、ジークも話題によっては普通に話したり同行したりするようになった。主に鍛錬関連の行動を共にしているとジークはしかめ面や舌打ちが多いが、意外と面倒見がいいことがわかり、他の友人達も話しかけるようになった。ジークの方も強引に避けたりはしなかった。
一年もすれば、ユーニスとジークはお互いを親友と呼ぶくらいに仲良くなっていた。成長過程で捻くれてはいるが、ジークも理想に理解がないわけではない。現実のままならなさを知っているというだけで。




