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婚約破棄された地味な結界調整士ですが、追放先の辺境で静かに暮らしたらなぜか感謝され続けています  作者: 篠宮しずく


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第48話 思い出した夜

 その夜、ルークは護衛を下げた。


「単独で巡回する」


 反対の声は上がらなかった。

 彼は結界政策の中枢にいる。危険はない。強度は十分だ。


 王都の外縁へ向かう。


 層は厚く、魔力の流れは力強い。

 触れれば震えるほどの強度だ。


 理論通り。

 完璧な構造。


 それでも――重い。


 通りを歩く人々は足早で、灯りは多く、夜でも活動は止まらない。


 結界が強いからこそ、止まらない。


 維持班の一人が、壁に手をついて息を整えている。


「問題はありません」


 そう言って敬礼するが、顔色は良くない。


 魔力循環は負荷が高い。

 それを分かっていて、ルークは目を逸らす。


(必要な犠牲だ)


 城壁に手を当てる。


 脈打つ魔力。

 完璧な厚み。


 だが、耳の奥に違う音が蘇る。


 薄い結界。

 小さな焚き火。

 人の声が、自然と低くなる夜。


 あの村だ。


 かつて視察で立ち寄った、辺境の小さな村。


 層は薄かった。

 強度は低かった。

 だが、揺らぎはなかった。


 ――急がないからです。


 誰かがそう言った気がする。


 思い出したくない声だ。


 さらに記憶が遡る。


「結果を出せない支援は不要だ」


 婚約破棄の場で、自分が言った言葉。


 あのとき、自分は正しかった。

 支援は数値で示すべきだ。

 成果がなければ意味がない。


 だが、あの頃の王都の夜は、今より静かだった。


 なぜだ。


 外縁部で小さな揺らぎが走る。


「層を追加しますか」


 部下が尋ねる。


 ルークは答えられない。


 追加すれば、数値は上がる。

 だが、安心は上がらない。


 拳を握る。


「……現状維持だ」


 初めて、追加を止めた。


 部下は驚いたが、命令に従う。


 城壁を離れ、ルークは夜空を見上げる。


 王都は強い。


 だが、整っていない。


 その違いが、はっきりと言葉になりかけていた。

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