女将ーボディガードの仕事-4-
朝になってトイレから部屋に戻って、女将から借りた体温計で体温を測るとかろうじて平熱に戻っていた。それでも未だ体はだるく。この僻地のステーションを徘徊することは出来そうに無かった。
そのため、ベッドの中で天井ばかり眺めていたが、同じ姿勢で寝続けていたので、背中が痛かった。寝返りを打っても、見えるのは狭い部屋の調度だけだ。
退屈なので、階下に降りると、誰も居なかった。女将がいつも仕事をしているカウンターの裏に行くと。彼女は、椅子に座ったままうたた寝をしていた。どうやら、夜まで話し相手も居ないらしい。
私は、調理室に入り込むと、籠に入っていたパンを二つポケットに入れて、部屋に戻った。
昼にゴロゴロしたり、うたた寝を続けていたので、寒い夜は目が冴えっぱなしだった。女将は、私の部屋に入るなり。湯たんぽを私に渡すと。「パンを奪っただろう」とにやにやしながら言った。
「起きてきたのか?」
「レミは寝ていてもチョコは起きているのよ。それにこんなボロなホテルでも、カメラぐらいはあるわ、で、熱はどう?」
「平熱になったよ」と私は、借りていた体温計を返した。レミはそれをじっと見つめてからぺろっと舌を出した。
「ああごめん、これダメなやつだわ。何時も36.5を示すのよ」
「どうりで、未だだるいわけか」
「どうかな」と彼女は、私の額に手を当てた。「まだ熱いわね」
「昼も寝ていて、目が冴えているんだ、話の続きをたのむよ」
「もちろん、そのつもりで来たのよ」
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チャンは、奪った車に乗り込み、ハンドルを握った。進行方向には、私達の愛車だったものと、ランドクルーザーがもつれあったままでとても通れそうにない、彼は狭い林道の中で車を切り返しながら方向転回したわ。
「なんで車にジャックインしないの?」私は、ヘッドレストで隠れて見えないが、チャンが首の上にコネクタをこしらえているのを見て居た。たしかゴミが入らないように大きめのカバーが装着されている筈だった。
「慣れないのは、嫌なんだ。この車のソフトにそれにウィルスが仕込まれている可能性もある」彼は、慎重に山道を運転した。ここから廃村までは一本道であり、ひたすら来た道を戻ることになる
<二つばかり報告があるわ>チョコが割り込んできた
<なに?>
<ひとつ目は、いいものじゃないわ、前からまた嫌な車が来ている>
<お手上げね>シドは出血と痛みでかなり弱っていた。私は、腿の上においたアンドロイドの頭をポンポンと叩いた。こいつのせいで、私の人生が終わろうとしているのだ。
<で、二つ目は>
<依頼主からの助け舟よ。あるパスワードを頂いたけど使ってみる?>
<何の?>
<さぁ?わかんない。ただ、そのポンコツにピアツーピアで接続してみろと言ってきているの>
<なにか、楽しい招待券でも当たるといいけど>
私は、腿の上のアンドロイドの頭に接続した。
そこは混沌とした初めて見るような仮想空間だった。
<ようこそ>と声がした
<我が宇宙へ>
車は、急停車した。前には黒塗りの、ごつい高級車が止まっていた。4つのドアは全て開かれ、その陰からは銃口が4つこっちに向いていた。
「準備がいいことだ」シドは、ふらつきながらも銃を握った。
「ダメよ」私は、彼が外に出るのを止めた。
「銃を向けられたらこっちも向けるのが、ガンマンの宿命さ、それに、俺は1流だ、逃げる訳にもいかない。さらに、お前さんを守らないと男が廃る」
「死ぬ気?」
「いや、生きて見せるさ」彼は、身を屈めドアを楯にして外に出た。そのドアに弾丸が続けざまにぶつかった。貫通しないあたり、素晴らしい車だ。
「投降しろ!」と声が相手が大声で言った。ここで穴だらけにされると思っていただけに、すばらしい交渉だ。
「俺は投降したいね」とチャンは、ハンドルに顔を埋めた。
「いいえ、一寸待って」私は、シドとチャンに言うと。おじいちゃんの頭を持って、後部座席から外に出た。
「撃たないで!」と大声を出して。頭を両手で抱えたまま、車の前まで歩いた。そしてその頭を掲げた。「こっちのおじいちゃんはダミーだったの。あなた方の狙いは、もう何処かに行っているか、この世に居ないわ」
止っている車で、囁きが聞こえた。
「良いのか?」助手席側のドアを盾にして、かがんだままのシドが小声で言った。「お前が此所で投降すれば、俺たちの仕事も終わりだ。」
「頭をこっちによこせ」一人が言った。
「分ったわ。どうすればいい?」私は、訊いた。
「まず、ガンマンは、銃を置いて両手を挙げろ。そのガキは、頭をこっちの車の前に置いてから戻れ。」
シドは、彼らに従うのは嫌そうだった。私は振り返り、彼に言う通りにして、と頼んだ。やっと一流の名を手にしたばかりなのに…銃を置いたとたんに、相手が彼を撃たない保証はこれっぽちもないのに。
しかしシドは銃を置かず、手に持ったまま両手を挙げた。相手は、そこで姿を現わして、4つの銃口が全てシドに向けられた。腕に自信がある連中ばかりなのだろう。そこで、私は、そのまま歩き、頭を地面に置いてそして車まで戻り、後部座席に座った。
相手の中の、助手席側の男が前に歩き、そしておじいちゃんの頭に手を伸ばした時、唐突に、おじいちゃんの白髪がピンと逆立ち、まるで怒髪衝天を漫画にしたみたいになった。そして、いきなりその白髪が消えて、おじいちゃんの頭に手を出した男は、前のめりに倒れた。ドアから、身を露わにしていた男達も、思わず身を丸くした。
おじいちゃん曰く、もしもの時の為のニードルガンとのことだ、致死性は低いが、痛いことこの上ないらしい。
「シド!」私は、大声を出した。後部座席のドアにいた男が発砲したが、それは助手席のドアに当たった。シドは、ハンドガンを前のドアに隠れていた男に向かって放った。
いくらなんでも、無理だろうと思ったが、ドアの向こう側の男が、うめき声をあげて倒れた。後部座席の山側の男が、なにやら大きな銃を持ち上げたが、素人目に見ても動作が鈍くなるだけだ。その男はすぐさま私達のガンマンの餌食になった。
谷側に居た後部座席の男は、ドアに隠れつつ、藪の中に逃げ込んだ。そして藪に隠れつつ、そこから撃ってきた。
「奴を足止めする。その間に、嬢ちゃんと頭を送り届けろ」シドは、助手席に一旦座ると。弾を装填した。
「いやだ」と私は言った。
「何故だ?」とチャンが言った。
「ダメだ、二人で行け」シドは再び外に出ようとした。
「一寸、銃を貸して。」私は手を伸ばした。
「子供が触るものじゃあない、護身用が欲しければ小さいのが、グローブボックスに入っている。」とそこを開けて小さい銃を私に渡した。
「デリンジャーだ。至近距離なら、充分当たる。もっとも誤射を防ぐために、トリガーは重いぞ」
「あっそう」と私は、両手でそれを握り銃口をチャンに向けた。
「おいおい」とチャンは、あぶないだろうと、言ったが私はそのまま引き金を引いた。
「裏切り者とは行けない」うめき声を上げるチャンの後ろ髪を掴み、たくしあげると、彼のコネクタには、防塵用のカバーがあったが、それを抜き取ると、カバーとしては不要な筈の金色の小さなピンが何本もコネクタ部分にあった。簡単な構造だが通信装置が付いていたのだった。
「車にジャックインできる訳がない、こんな追尾装置をつけていたのだもの、常に私達の位置を敵に教えていたのよ」
チャンと名乗っていたドライバーは、声にならない声をひとつあげてから事切れた。
「私を送ってくれるドライバーが居なく無くなったわ」私は、銃をシドに返した。シドはため息を付いて、デリンジャーに再び弾を入れて、私に渡した。
「勝手にしろ」シドは銃を片手に持って出た。
「お土産をあげる」私は、ポケットから取り出した小さな通信装置を彼に放り投げた。
「なんだ?」彼は片手でそれをキャッチした
「正確さを極める為にね」彼は、それをシャツの胸ポケットに無造作に入れ、そこからのびたイヤホンを耳に挿した。
私は、上空に来ていた衛星の画像をネットから得ていた。敵は森の中にある一本の木の幹に潜んでいた。相手もシドの動きは既に察知しているようで、彼が車の陰から飛び出した途端に銃声が響いた。しかしそれらは、全て外れた。この間にシドもまた、木の陰から陰に移動しながら、敵に近づこうとしていた。
「敵さんは、おおよそ11時の方向よ」私は、チョコの与える情報を元に彼に教えた。彼は、それに反応してゆっくりと動きだした。銃弾が敵が身を潜めている木の幹に食い込んだ。
「すこし左に行ったところに盾になる岩があるわ」彼は、その岩がどれか検討がついたようだ。いきなり駆け出して岩の後ろに滑り込んだ。撃たれた脚が痛い筈なのに、それを感じさせない早さだった。その岩に立て続けに3発の銃弾が当たった。
「そこからほぼ、40メートル先の12時の位置」彼は、敵の位置は掴んでいたようだった。銃口を陰から出して狙った位置は相手の居る木だった。それに呼応するように相手の弾も岩に当たった。敵もまた、銃をしっかり向けたまま動こうとしていない、どちらかが先に仕留めたほうが勝つのだ。
「木に当たったわ、30センチほど左」私は言った。彼は2発目を撃った。敵の手前の土にそれはめり込んだ。
「方向はいいけど、もう少し後ろ」相手の銃弾が彼の頬を掠めた。3発目の前に、再度銃弾が彼の耳を掠った。集中するシドは銃弾を放った。
それは、相手の肩に直撃した。
「肩に命中」
利き腕を封じられた相手は、もう一方の手に単銃を持ち替えた。よろめいている姿は、シドにも見えている筈だった。相手は、彼が近づくのを待っているのだろう。
シドもまた、木々の陰に隠れながら接近を試みた。しかし、足を撃たれているだけに、今度はすばやさに欠けていた。そこを突かれた。彼もまた、肩を射抜かれ、地面にころがった。
まだ、利き腕じゃない方だったのは幸いだったが、短銃にしては、普通当たるような距離ではない二人のガンマンは距離を縮めることに集中していた。
やがて、二人の距離は10メートルほどになった。そこで何か二人の間で会話がなされた。二人は、互いの姿を現し向き合った。銃は、ガンフォルダにしまいこまれ、互いの手はいつでも銃を引き出す状態にあった。何を合図としたかは知らないが、二人は同時に銃を抜き同時に倒れこんだ。
シドが生きて戻ってきたのは、私の与えた通信装置に相手の弾が当たったからだった。弾は、通信装置を破壊して潰れていたが、大きな衝撃は彼を気絶させ、深い傷もそこにあった。血が流れ続けていたので、自分の服をちぎって畳むと、傷に押しつけた。そして、シドのズボンのベルトを外し胸に巻いてベルクロを閉めて止血のため圧迫した。
相手の倒れた場所に恐る恐る近づくと、男は腹から血を流していた。そっと男の頭を爪先で突いても何も反応が無かった。気を失っているのか、死んでいるのか…
私は、シドの両足を持ち、引きずりながら、車まで運んだ。そこで彼は、呻きながら意識を戻した。彼は血まみれのまま、自ら後ろのシートに横になった。
私はさらに彼の応急手当をしてから、チャンだった死体を道に放り出した。目の前でニードルガンの餌食になった男は、おじいちゃんが致死性は無いと言っていたにもかかわらず事切れていた。車の周りの遺体は、引きずって道路脇によせた。
私達の車の前に止っていた高級車は邪魔だったので、バックさせて藪の中に突っ込ませて進路を空けた。エンジンがかかっていたので、ハンドルを曲げてアクセルを思い切り踏んだだけだけど。
私は、乗っていた車にジャックインして運転を開始した。坊主頭のおじいちゃんの頭も、拾って後部座席に放り込んだ。
「運転できるのかい?」シドは後部座席で頭を持ち上げた。
「ジャックインできればなんとかね」
「さっきの奴がサイドワインダーだったよ」彼は、小さい声で言った。「最初の奴は偽者だった。名を騙りたかったのだろう」
「その傷は一流の証ね」
ボディが穴だらけで、フロントガラスもない車で、山道の中をのろのろと動いた。早く走りたかったが、小さい私には前が良く見えなかったからしょうがない。




