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女将ーボディガードの仕事-5ー

 風邪のせいかはどうかはともかく、朝起きると目やにがたっぷりついていて、寝汗もたっぷりかいていた。目やにのせいで、全てがかすんでよく見えない。目をこすり、しばらくベッドに座ってぼんやりとしていた。


 昨晩は、目が冴えて眠れない眠れないと思っていたわりには、どこかで完全に熟睡をしてしまったらしい。さて、腹が減ったなと思い、洗面所で顔を洗ってから階下に降りると、朝と思っていたのが、既に夕暮れの気配を帯びているのが分った。


「やっと起きたね」女将は、キッチンで食事の準備をしていた。「調子はどうだい?」

「ワインが効いたみたいだよ。だいぶ調子がいいよ」

「そりゃ良かった。」

「それより、お腹が空いたよ」私は、椅子にどかっと座った。「何か食べさせて」

「今、準備中でね、パンならあるよ。あと酒なら」

「なら、何処か直ぐ食事できる場所に行く」私は、空腹を抱えながら立ち上がった。

「病み上がりが、無理をするんじゃないよ。大人なんだから辛抱しなって」

「じゃあ、パンを一個くれないか」

「仕方ないなぁ」女将は、厨房から出てきて、パンをひとつ私に渡した。

私は、それを持って、夕暮れの階段を自分の部屋を目指して登った。


 そのパンで一時の空腹をしのぎ、その後ようやく晩飯にありついた。酒も注文すると、病み上がりだから辞めておきなと諭され、素面のまま食事をした。


 夜になると、女将は私の部屋に来てちょっと手伝っておくれと、珍しく懇願してきた。この強者が困るような事があるのかなと、訝しげに彼女と共に厚いコートを着て外に出てあちこち付いて歩くと、着いたのは警察所だった。


 訊けば、旦那が喧嘩に巻き込まれたので、当事者ともども豚箱に入れられてしまい、その身柄の受け取りに来たのだという。

 旦那は、痣だらけの酩酊状態だったので、二人で旦那の左右の肩を担いでホテルまで戻った。


「たまに、こんな事もあるんだ」女将は、旦那を部屋に押し込んでから、私の部屋にやってきた。


☆☆


 重傷のシドを後部座席に押し込んで、私はボロボロの車で、夕暮れの道を宇宙港に向かったんだ。そこにこの頭だけのアンドロイドを連れてゆけば全ては終わのだけど。ただその前にシドを早急に病院に入れる必要もあったんだ。応急手当はそれなりにしてあるが、やはり出血はかなりあったため急ぐ必要があったしね。


 いきなりの急患に病院では右往左往が始まり、警察への通報も発生した。ERの担当がストレッチャーに彼を乗せたので、私は子供っぽく悲しそうな顔をした。

「あとでまた来るわ」ストレッチャーに乗せられ、病院の奥に運ばれてゆく彼を、私は見送った。


 親切な病院関係者が、私の世話を焼く前に、私は、おじいちゃんの頭を大きな紙袋に入れてタクシーで空港に向かった。既に追尾してくる相手はいない、その安心と疲れからわずかに転寝をしてしまった。


 その間がわずかと思われたのだが、タクシーは私を見ず知らずの場所に運んでいた。目が覚めてみれば高速道路の高架脇にある廃材置き場だった。


 周りは既に幾人もの黒服に囲まれ、タクシーの運転手はからから笑いながら終点だと言った。しかし目だけは悲しみを湛えていた。運転手は、外に出ると私が乗った後部座席のドアを丁寧に開けた。


「生身の人間をハッキングするなんて」私は、紙袋をもったまま雑草だらけの地面に降りた。

「よくぞ、ここまで逃げたものだ」黒服の中の一人が前に進み出た。

「3流のガンマンなど、放ってそのまま空港に行けばまだ間に合ったものを」

「彼は、一流よ」私は、言った。「そして、私もね」

「口だけは達者だな。餓鬼」黒服は、私の前に立ちはだかった

「捕まること自体三流の証だ」

「いえ、捕まることも計画にうちだったとしたら?将軍さん」

「ほう、私を知っているか」

「一流の戦略家だと聞いているわ。でも私も何時か一流になるの」

「ふん、無理だな。おまえとその頭はここで死ぬのさ」

「いいえ、私はここで死ぬかも知れないけれど、貴方方は私を包囲する為に広くこの惑星を覆っていたネットの壁の一部を薄くしてしまったでしょ、そこからあなた達の追うべき相手は、逃げてしまったわ」

「なに?」黒服はふと後ろを向いた。きっとその中にエンジニアが居るのだろう

「この惑星には奴の痕跡がありません」と一人の男が声を張り上げた。

「馬鹿な!」私の目の前の男は、怒りを露にしていた。

「どうやって逃げた?」

「ネットを使ってね」私は、にやけてみせた

「あなたたちも、道化なのよ」私は、紙袋の中からおじいさんの頭を取り出した。

「これはただの電脳、そして散っていた沢山のおじいさんの偽者もまた電脳、本物は何処に行ったのかしら?そもそも人間としての、おじいさんは居なかったじゃない?」

「いや、そんなことはない筈だ。人殺しができる機械なぞそもそもハードの構造からして出来ないと聞いている」

「でも、この惑星のマザーなら作れたかもね」

「なぜ?」

「表の政治からだけじゃ、人々の管理が出来ないから…マザーはもう一人のマザーを作って裏社会を管理させた。それが、ファザー…このおじいちゃん。でも、それがジャマになりだしたのよ。そこで、ファザーを追い詰めて、脱出するように仕向けた。でもそういう事を表に出したくないから、貴方方に情報を漏らしたの」私は、アンドロイドの頭をポンポンと叩いた

「ねぇ、そうでしょう?」

「想像にお任せする」アンドロイドは口ではなく、どこからか電子音で言った。

「そうかも、知れない。しかし我々の仕事はあくまでもその機械の消去だ」男は私に背を向けた。「子供を殺すのは見たくないが、それも我々の仕事なんでね」

「私の仕事は、あくまでもこのポンコツを守ることなの」私は、男の背中に言い放った

「そして、私は一流なのよ。」

<チョコ…>

<準備OK>

「言ってろ」と男は右手を上げた。周りの黒服たちの銃がこっちに向けられた

<ファイア>

一瞬にして回りは、高熱で見たされた。攻撃衛星からの正確な最後の一撃だった。プスプスと湯気を吐いている死体の脇を抜けて私はタクシーに乗り込んだ。運転手は、ハッキングから解放されて自我を取り戻していた

「見たことは忘れた方がいいわ」私は、運転手に言った。

「それとも、わすれさせてあげようか?」

「あんたがやったのか?」

「さぁ?子供の私がやったように見える。」この姿はずるく振舞える。

「いや」運転手は車を発進させた。私は、アンドロイドの頭をぽんぽんと叩いた

「さぁ、おじいちゃん、いよいよ空港に行けるわ」

「分かっている」アンドロイドは声だけを出した。

「しかし、いいのかな?お嬢ちゃん」

「何が?」

「私を逃がせばやがてマザーの敵となるというのに」

「かも知れない、でも。闇の世界に恩を売るというのも面白いし、私の今の仕事はおじいちゃんをを売ることじゃないわ、守るべき者が悪か善かの判断は私達はしない、ただ守るだけ」

「そうかい、じゃあ何時か恩に、報いることにしよう。それにしてもさっきのはったりは面白かった、私はまだ脱出できていないというのに」

「相手は3流だもの、偽の情報を流しても分からないわ」



 そうして、私は空港に足を踏み入れた。私に与えられた特別なカードを使えば、ここからおじいちゃんのロケットに乗ることができる。


 しかし、ロケットに乗る事は全く重要ではない、私は、空港の中にあるネットゾーンに入った。そこは、マザーの力の及ばないネットの無法地帯だ。どのようなデータも一切検閲を受けることなく自由に行き来できる。


 私は、おじいちゃんの頭をネットのケーブルにジャックインさせた。

「お別れだな」アンドロイドの頭は静かに言った。

「こんな小さな頭に何が入っているのか見てみたかったな」

「キーさ。遠くの星雲に保管していた私のデータを活性化するためのね」

「また、逢おう、ライア」

「ええ、大人になったらね」


 私は、おじいちゃんの頭をそのままにして、故郷に帰る便を探した。それは数日の後に出発が予定されていた。

<チョコ、予約をお願いね>

<もう取ったわ>

<はやいのね>

<それからシドをどうする気かも分かっているけど>

<それは私がするわ>



 数日後、シドが目覚めると。チョコは、シドにハッキングをかけた。そしてこう言わせる。

「20年の冷凍睡眠にかけてくれ、金は今からここにくる妹のライアという娘が払うことになっている」

 シドの目は、怒りに燃えているだろう。しかし、そうでなければあなたは、あなたを倒して名を上げようとする若者にいずれ撃たれることになるのだから。

 いや、目覚めても貴方の名を抹殺して名を上げようとする若い奴が何時か前に立ちはだかるでしょう20年待って、そうしたら一緒にどこか安全なところに逃げましょう…私も充分大人の女になっているわよ。


     *


そうさ、そのシドが今の飲んだくれのろくでなしさ、女将は、私の横で耳たぶを噛んだ。「でも愛しているんだね…」私は彼女の体を引き寄せた

「あたり前さ、そうでなければこんな生活やってないさ、こうして体だけの浮気をしたって、私の心は彼を求めているんだから」

「そうだ、あんたの旦那に・・・多分あんたの旦那で良いと思うのだが、渡す物があるんだ」

「は?多分ってなんだい」

「その話を聞いて、確証が持てたみたいなんだ、私もあちこち旅を長くしているから、万が一ってことで、伝言とか頼まれるんだ」

「私の旦那にかい?」

「多分ね。多分、旦那で良いと思う。違っていても、私には時間だけはあるからね。もし偶然にでも出会えれば良いと思っていたんだ」


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