女将ーボディガードの仕事3ー
「朝だね」と女将は体を起こした。「さて、旦那が生きているか確かめないと」
私は、まだなまめかしい体温の残るシーツにしがみついていた。妙に体がだるかったからだ。結局一日中布団の中で、悶々としていた。トイレに立つと、足元が妙にふらついた。寒気もした。そして、布団の中に頭までしっかり潜り込むと、今度は蒸し風呂状態になった。これを人は発熱という。
「風邪みたいだね」女将は私のおでこに手をあてて言った。「連日連夜のお勤めで疲れたかな?しかし、アポトーシスが異常になったあんたでも普通に風邪を引くんだね。」
「人を化け物みたいに言わないでくれ、これでも病気にもなるし、ナイフで刺せば血も出る。出血多量ならそのままあの世にも行けるんだ」
「いや、一般人から見れば充分に化け物の一歩手前だけどね、そんな化け物にも効くいい物を持ってきてやるよ」そう言って女将は部屋から出てゆき、再度部屋を訪れたときには、湯気をほんわか立てている取っ手のついたガラスの容器を大事そうに持ってきた。
私は、女将から暖かなホットワインをもらった。そのベッドの隅に女将は座って、話を続けた。
本当に慌てたさ、あんなホットなアンドロイドをどうすればいいんだい。
「あのアンドロイドはさ」とチャンが、ゆっくりをこっちに向かってくる火まみれの機械人形を眺めながら言った。「ラリー向けに炎上や大破に耐えられる仕様で作られているんだよ」
「運良く武器は持っていないな」シドが私に寄りかかりながら弾を込めた。
「丈夫さでは、敵わないとおもうよ」チャンが手を伸ばしてシドの銃口に手を置いてを下げさせた。
ゆっくりとではあるが、炎まみれのアンドロイドは、合成の皮膚がどろどろと流れて剥がれ落ちるままに任せながら進んできた。
「止める術はあるのかい、いくら丈夫でも同じ場所に何発も打ち込めば倒せるだろ?」
「無理だろうね。」チャンは、首を横に振り私達はゆっくりと後ろ向きに歩いた。
「熱くなって、CPUが暴走してくれないかしら?」私は、いろいろ考えていた。武器が必要だ。強い武器が。
<チョコ、あのアンドロイドに関する情報を集めて。>
<ちょっと待ってね>
<かなり丈夫ね、宇宙にあるマイクロ波ビーム砲でも使う?>
<すぐに使える?>
<直ぐは無理ね、移動するのに時間がかかりそう>
<どれくらいかかる?>
<30分かな>
<ちょっとかかり過ぎね>
<他にあの型の弱点とかある?>
<後頭部にある車との接続コネクタを破壊できればダメージをかなり与えられるかな>
<それはいけそう>
「ねぇ」と私はシドに言った
「あいつが後ろを向いた隙に後頭部のコネクタを破壊できる?」
「誰があいつを振り向かせるんだい?」チャンが言った。
「それに、インタフェスコネクタを破壊しても奴はスタンドアロンで動くだけだ」
<まって!時間がない、こっちに車が向かっている>チョコが伝えた。
<敵?>
<90%の確立でそうよ>
「スタンドアロンで?」私は聞き返した
「そう、やつの本体の半分は車そのものにダウンロードされている」チャンは、私達と共に後ろに下がりながら言った
「したがって、この2体は常に通信しているんだ」
<そうか…それなら常にネットワークにアクセスしているかも>
「なるほど…」私はポケットから一つのコネクタを取り出した。
「そうなら、奴をハッキングするわ」それからシドに向かっていった
「こっちに車が来ている、多分敵よ。迎え撃って足を手に入れてね」
そして私は、自分のコネクタにルーターを挿した。
全ての感覚が無限の広さを持つネットに広がった。チョコが私の案内を務めた。相手が近い場所に居るからといって、ネットの上での距離が近いとは限らない。しかし使う中継器は距離の制限を受ける。
私は、触手を伸ばすようにしてあちこちに入り込んだ。そして、倒れた私を抱きかかえるチャンの映像とごついオフロード車がやってくる姿が見えた。
アンドロイドにハッキングした私が見ている映像に間違いない、私は、アンドロイドを立ち止まらせた。シドは向かって来る車の前に立ち、両手でハンドガンを構えていた。
それでも突っ込んでくるところを見れば、車のガラスは防弾なのだろうそしてシドもまた、それを突き破る自信があるのだろう。激しい銃声が響いた。シドは後ろ向きに倒れそのまま、道路脇に転がった。車のガラスには、一本の鏃のようなものが突き刺さっていた。ドライバーのにやけた顔が見えた。勝ち誇った顔だ。
そしてブレーキを踏んだと思われた時に、いきなりその鏃が暴発した。驚愕の顔をみせる運転手の顔の真ん中に血の染みが広がった。私に向かってきた車を、丈夫なアンドロイドは見事に受け止めた。4枚のドアが即座に開き、ドアを盾にして男達が銃を撃ち放とうとした時に、アンドロイドである私は一人の体を掴み放り投げた。
敵が身近に迫った彼らは、私に銃を放った。チャンの言ったとおり、その弾丸は跳ね返るだけだった。私は一人づつ、殴っては悶絶させた。
それから、アンドロイドのメモリ内に時限発動のウィルスをコピーしてから自分の体に戻った。アンドロイドは、一瞬我に戻ったが、やがて両膝を地面に着いてからうつ伏せに倒れた。
「嬢ちゃん、あんたは何者だ?」チャンが私に言った。
「可愛い、お嬢ちゃんよ。でも、ここにお手洗い…無いわよねぇ」私は、チャンの腕から逃れると、木陰に走って行った。




