女将ーボディガードの仕事2
何時の間にか、私達は夢の中に突進していった。彼女の肌の暖かさが、独りが長かった冷たい時間を溶かしてくれている様な気がした。
朝というか昼というか、人が生きるために動き出す時間と生活圏に明かりが差し込んでしばらくのちに、私は目を覚ました。
彼女は、既にどこかに行った様だった。私は、宿を出ると、さびれた宇宙ステーションの中に溶け込んでいった。
明るい時間からの一杯というのは、非常に魅力的だ。居酒屋で度数の強いビールを頼むと、つまみに唐辛子が丸ごとでてきた。それをかじりながら一杯やる。血管が凍りそうになる夜を、また一夜、無事を越えた奇跡に感謝しつつ、昼過ぎから居酒屋は人々で賑わう。
宿の亭主も居た。既に、カウンターに頭を乗せていた。私は、ふらりと席を立って彼の後ろから近づいた。挨拶をしようと口を開いた瞬間、目前に突然銃口が現れた。よく見れば、銃口に詰め物がされたおもちゃの銃であることはよくわかった。
「後ろから来ないでくれ」彼は、まだ泥酔している訳ではなかった。
「どうも、宿で世話になっている者です」私は、どきどきしながら両手をあげた。まわりの男達がくすくすと笑っていた。どうやら、こういう情況は何時もの事なのだろう。
「ああ、そう。」彼は私には興味さなそうに銃をしまった。「宿のことなら、レミに言ってくれ。俺じゃ役に立たない」
彼は、とりつく島も与えないような雰囲気を辺りに振りまいたまま、手元にあるビールを飲んだ。、私は、唖然としたまま自席に戻るしかなかった。
夜、女将は酒を部屋に持ってきた。「あのバカオヤジに居酒屋で逢ったんだって?」彼女は、私の寝床に入ってきた。
「ああ、おもちゃの銃をむけられた」私は、女将を抱き寄せた。
「どこまで話したっけ・・」
「ポンコツになった車で、林道を爆走している所までかな」
「ああ、そうね」女将は、天井を見ながら話始めた。「あれからとりあえず上空からの監視を逃れる為に村に入ったの」
☆☆☆
ひどい村だったわ、彼女は話を続けた。地図上だけの村、はっきり言って廃村だね。修理屋なんか無い、村全体がくず鉄置き場さ、多分、不法投棄もされていたしね。
車は村内にあった納屋に入れて、一時だけどそれで隠れた格好はついたけど、時間も部品も無いから、悠長に修理なんかできやしない。
「なんだかんだと大した車だな」チャンは、ハンマーやバールを使って。今にもはがれそうな部品を無理やり剥ぎ取った。
彼の長い髪が大げさに揺れ、ボンネットもトランクも外されエンジンも丸出しになって、当然バンパーもなし、車本体以外で残ったのは4枚のドアと屋根だけだった。
シドは、チャンの仕事を手伝う事もせず、銃を分解して元に戻す作業をしていた。静かな時間が持てるとき、点検と集中力を高めるための彼のルーチンだ。尤も車を分解中の騒音が静かと言えるかと言えば、微妙だ。
「駆動部分は健在だ。未だ十分これで走れるが、これじゃまるで屋根のついたエンジンだな」
「ま、いいんじゃない?」私は、アンドロイドの頭を抱えたまま答えた。どうせ動けないなら、アンドロイドの重い体は不要だし、今のところ頭さえあればよかった。首から下はシドに頼んで村のくず鉄置き場にそのまま放り込んだ。まぁちょっと高価な品物の不法投棄と言うべきか。
「どうせ、ランチャーの一発でも食らえばお仕舞いだわ、軽い分だけ速く走らないかしら?」
「ま、ちょっとは早くなるけど、ボンネットが無いからエンジンに直接一発貰ったら最後かもな」チャンは、ちょっと部品を探してくる言って納屋の扉を開けて一旦頭を外に出してから、すぐに頭を引っ込めて扉を閉めた。
「どうした」シドは分解した銃を元に戻し終わり、耳に指を突っ込んで耳栓を抜いた。
「ランドクルーザが来た。」シドは銃に弾を装填すると、すくっと立ち上がった。「いよいよだな」
「ここで迎え撃つの?」私は、膝の上でアンドロイドの頭を撫でた。
「止めた方がいいわ、せめて、サイドワインダーが車外に出るまではね」
「何でだ不意打ちを突くには絶好だ」チャンが言った。
「あの車両は、軍事用よ。自家用風に見せているけど、あれを潰すなら、戦車か重機動歩兵でも使うしかないわね。それとも鐵鋼弾を使って銃身をおしゃかにする」
「ライア…知っていたのか?」シドの顔が曇った。
「今さっきね」チョコは、偵察衛星から既に情報を取得していた。私がそれを言わなかったのは、彼らに怖じ気付いては困るからだった。
「さて、われらが頭脳のライアさんはどうするつもりだい」チャンは、腕組みをして言った。地響きがして、車の通り過ぎる音がした。
「サイドワインダーとA128ZZ8は、明らかにこっちの動向を知っているわ、多分、あせって追いかけているつもりだと思う。車と車の戦いならこっちが装甲で負けね、でも、もし、先回りをして車で道を塞げば?」
「まあ、用心しつつ車から出て来るしかないな、しかし、軍事用だし。体当たりをしかけて、潰して通る可能性もある」シドが銃をしまった。「私達の愛する車には、爆弾を仕掛けておきましょう。」私は、笑みを浮かべてみせた。「自爆装置は、既に組み込んであるわ」
「しかし、どうやって先回りをする。ここからは一本道だ」チャンは頭の中に地図があるような人間だ。
「まぁ、ステキな運転手さんは、この車をこんなに裸にしておいて、未だ本当の姿が見えないのかしら」
「なに?」チャンは、じっと車をみた。
「確かに余分そうな機器が確かにあったが…」
「追手は、焦って行ってしまったけど、探索しつつなので、そんなに速度は上げていないわ、私達はゆっくり登山をして向こう側に出るのよ」
村の背後の山は、途中まで草に覆われた林道なので、四輪でも十分に登ることまでができた。それは、採石場までの道であり。採石場では、キャタピラ車かワークレイバーのみしか走行できないような、急斜面とガレ場が広がっていた。私達の車は、当然そこで立ち往生した。
「さて、行き止まりだぜ。ライア」チャンは、ハンドルから手を離して、両手を挙げた。「四輪でここを走るのは困難だというか、不可能だ。確かに、ランドクルーザーが走っている林道は川沿いに進み、道は大きく迂回してこの尾根の向こう側を通る、しかしこの先はどうやって行くんだい」
「ハンドルをチルトして一番上に持ち上げて」私は、指示をしてあげた。
チャンがその通りにすると、車体が大きく上に持ちあがった。そして二本のレバーが、ハンドルの付け根からにょきっと伸びてきた。
「6本足の多足歩行機能付きってやつ」私は、ふふっと笑ってみせた。「運転はできる?」
チャンは黙った。そんなもの運転できるかよってことだろう。
「二本のレバーを前に倒せば前進、後ろに倒せば後進、左だけを前に倒せば右旋廻、右を倒せば、左旋廻。左を前にして右を下げれば、その場でくるくる回るわね」
チャンは、無言のままレバーを操作した。途中何度も操作を試すために、回ったり、バックしたりしてみせてから、緊張した表情から珍しいオモチャを見つけた子供の様な表情になってきた。そして尾根を登りだした。
「いけーー!!」私は、叫んだ。血が湧き踊るみたいだった。背中はシートに押し付けられて、景色は空しか見えなかった。
シドは、銃を持ったまま、辛そうなうめき声をあげた。登りはまだいいけど、下りは最悪だった。体を支えるのがシートベルトしかないから、これが食い込んで痛いし、景色は奈落にまっ逆さまに落ちるみたいなんだものね。チョコは逐次、ランドクルーザの位置を教えてくれた。
私達は、ランドクルーザを出し抜いて車を横向きに止め、斜面の上に陣取ったわ。ほとんど間を置かずにやってきたデカぶつは、躊躇していたわ。こういう情況を上から見るのって楽しいのよ。
ランドクルーザー側としては当然、そこで車から降りれば狙撃されるはずだし、だからといって強引に突破するにも気が引けるのでしょうね。シドは、ケースを開いて銃身を伸ばすためのものと、一発の奇妙な弾丸を取り出したわ。まるで、ダーツの矢のような弾丸だった。先端が細く鋭くて不思議な形だったわね。
私達は、崖の上から敵を狙っていた。シドは私に肩を貸すように指示し、長くなった銃身は私の小さい肩の上に乗せられた。銃声がして、弾丸はランドクルーザーのフロントガラスを破り、アンドロイドの胸を突いた。ランドクルーザーは発進した。
「ふうん、サイドワインダーを狙うと思っていた」私は、シドを振り向いた。
「手が滑った」彼は答えたが、私はそれは違うと思った。ガンマンとしての誇りが許さないのだろう、もし、正面から一流のサイドワインダーを倒せば。彼が一流の仲間に入れるのだ、狙撃して倒しても名声にもならない。衝突の手前10メートルほどで、助手席のドアが開き。中から一人飛び降りた。ランドクルザーは、私達の車に衝突し、私達の愛すべき車は大きな爆発をした。
それでも、相手の車は耐えるだろう。しかし乗車している奴にとって、その爆発による熱は耐え難いものになるだろう、それは、大きな熱を放出する爆弾だった。炎に包まれながら2台の車は、もみくちゃになった。
「さて、出番だ」とシドは、銃を持ち替えて弾を装填した。
「サシでやるつもりなの」
「ああ、そうでなければ俺は何時までも二流だ」彼は、身を低くしながら降りていった。サイドワインダーは、林道の傍らで体を二つに折っていた。シドは、道に下りると銃でサイドワインダーを狙いながら近づいた。
「どうした、サイドワインダー、車から飛び降り損ねたか」シドの声が聞こえた
「さっさと撃て」しわがれたサイドワインダーの声がした。私も少しづつ、降りた。シドはゆっくりとサイドワインダーに近づきつつあった。
「立って銃を持てよ」とシドは言った。
「ガンマンというのは、相手がなんら武器を持っていなくても撃ち殺せないと一流になれないぜ」
「そうかい」とシドはさらに近づきつつあった
何かある。違和感を私は覚えた。一流ともあろうものが、こんな状況で諦めるはずがない私はネットの中のチョコを通して上空からの映像を求めようとしたが、それは雲と衛星の位置が悪いせいで出来なかった。
すると、後は林道の各所に設置されている防犯用のカメラの映像ぐらいかと思ったとき、チョコが私が何気なく見ていた二人の周りの光景に一つのものを発見した。木の陰に金属の箱のようなものがあった。リモートの弾丸発射装置だ。
サイドワインダーは身を丸めて、手を隠している。にやりと、サイドワインダーが笑みを見せた瞬間私は飛び出して、シドを突き倒した。銃声が深い木々の中に木霊した。
「くそ」とシドは私を払うようにして立ち上がった彼は、足から血を流していた。
「ライア、有難うな」と彼の大きな手が私の頭の上に置かれた。サイドワインダーは、既に銃を構えていた。シドの銃が吼え、その銃を吹き飛ばした。
「一流どころが、そんな策を講じるのかい」彼は、次の一発で確実に仕留められるように銃を構えていた。
「言わなかったかい?お互い殺してなんぼの世界で食っているんだ、殺ることに対して手段なんか選べるものか」サイドワインダーの応えにシドの銃が再び吼えた。
「これで、貴方はガンマンの世界ではトップクラスで、私達の用心棒は宇宙一の腕っこきとなったのね」私は、彼の腕にしがみついた。
「それだけ今度は狙われるのさ」シドは、私を払い片足を引きずりながらサイドワインダーの傍に歩いた。
「そして今度は俺を倒した奴が、この世界で一流になる」
「しかし、なんでこいつはわざわざ奇妙な道具を使ったんだ?そのままでも勝てたかも知れないものを」私は、一撃で生命の全てを失った遺体の傍に寄ってみた。チャンが上から降りてきた。サイドワインダーの後頭部には、ニューロンインタフェースが仕込まれていた。そして腕には極度な筋肉改造の跡が見られた。
「こいつ、もうガタがきていたんだ」シドは、足先でそっと倒れた男の腕をつついた
「一流であり続けるために、あちこち改造をしたのね。それでももう限界がきていた」私は、シドの腕を掴んだ。
「貴方は、こうなるのを耐えられる?」
「ガキに言われる筋合いはない。たとえどうあろうと俺は奴を倒したシドだ。そして生き延びてみせるさ」
「朝日を見るのがなんとも嬉しい人生になりそうね」
そして、奴が炎上する車からでてきたのさ。




