女将ーボディガードの仕事1ー
ホテルに帰ると、もう遅くなっていた。女将は、テーブルについて一杯やっていた。ほら夕食に遅れただろとにやにやしながら言った。私は、酒瓶を間にして女将の向かいに座ると酒場で逢った男の話をした。
「ああ、あいつかぁ…何時も酔うとあの話をするのさ…」と女将はつまらなさそうに言った。それから真顔になって…その話なら他の話も知っているけど訊くかいと言った。
「ええ、是非とも」と好奇心満々に言うと、
「そのうちね」とそっけなく返してきた。そしてドアが突然開いて酔っ払いが転がり込んできた。
「その前に昨日の話の続きをしないとね」女将はそう答えて席を立って酔っ払いの脇に寄り添って奥に向かった。
私は自分でゆたんぽを準備すると、部屋に戻って、そのまま眠りに入った。
ドランカーズフレンドが効いたのか、体調としては朝も昼も夕も快適なままだったが、なぜか外に出る気になれず、ただ何処へ遊びに行こうかと考えるだけで、ベッドの上でこのステーションの案内地図を眺めながらごろごろと時を過ごしていた。
やがてそのまま夜を迎え。レミは私の部屋にやってきた。旦那は、相変わらず飲みに行ったままなのだろう。
私は、あれこれ習ったわ。沢山の知識に、武道まで。レミは同衾しながら言った。そうね、そして、仕事をすることになった。私を買った組織は、高い値段で危険な仕事を請け負う会社だったのよね。最初の仕事はボディーガードだったわ。家からスペースポートまで短時間の護衛…本当ならつまらない仕事よ。普通ならね。小さい女の子が大の大人を守るってのが、私も合点がいかなかったのだけど、実際は、雇った所が、お金をケチったから私が寄越されたみたい。
それにしても、普通子供に仕事をさせるなんて、法律違反と思わない?いくら私をお金で買ったとはいえねぇ。
要人には違いないけど世間ではヤクザとかマフィアと呼ばれている人だったから、狙う奴が多いのなんのって対立する組織は5つ、そのうち3つが暗殺者を送りこんでいるの。それだって、私を雇った組織が調べた範囲だけ。まったくどれくらいの奴が狙いにきていることやら…って状態だったわよ。
だから、はっきりいって四面楚歌の気分だったわ。ルートは車で高速道路に乗って一気にスペースポートに飛びこんでしまうのが一番早いルート、全部下道でのんびりと行くルート、電車も含めあれこれ交通機関を使いまくって一般人に紛れ込んで行くルートなどなど、まぁよりどりみどりだったけど、結局複数のルートでダミーを使うことで、混乱させる事にしたの、しかも、だれが本物を守っているかボディガードも知らない有様でね。
私は、組長の愛妾の娘という触れ込みで車に同乗することになったの、でさ、出発の際に、もうあちこちでもう物騒なガンを持った連中が遠くから狙っているのよ。
そんなもの衛星からの映像で鮮明に見えるというのにねぇ。私の最初のお仕事は、そういう輩の所にこっちから出向いて、一人づつ棍棒で頭を叩いていったことかしら。奴らの武器も多種多様でね、狙撃用追尾ミサイルは可愛いもんねグレネードにレイルガン、酷い奴は軍事衛星さえもハッキングしていたもんね。戦争でも始まるのかと思ったわよ。
まぁこっちは、子供の姿でしょ。おじさん何しているの?って可愛い声を出して話しかけると「なんだこいつ!」と怒鳴るけど、警戒心のかけらもないものだから、かるーく電気ショックを与えて、私の後ろから付いてきた親分の部下にさし上げたのよ。これで、出発時点での憂いが無くなったから、後は、今後移動しながら狙っているやつらか、進路で待ち伏せしている奴しか居ないってことね。
「さぁ、お父様片付いたわよ、ドライブに行きましょうか」とレミは言った。
「そうだな、でもちょっと待ってくれまいか、折角お前が生け捕りにした獲物を放っておくこともあるまいて」はっきり言ってお父さんというより、お爺さんと呼びたかったわよ、あの耄碌爺、私が捕まえた奴らを部下に渡してなにやら指示してさぁ、後で聞いたらのうみそをすっからかんにして放りだしたみたい。
ドライブ組は、先ずいくつかの囮だか本物を先に出発させたわ、私達は最後の一つ前、ドライバーは気持ちは一流って奴だし護衛のガンマンは偉そうな割には、酒をこっそり飲んでいるしねえ、先が思いやられたわよ。
黒い街乗り4駆車は、本当にヤクザ向けって感じのでかいものだったわ。私はもっと洒落た車で移動したかったけど、脚は丈夫な方が良いってお爺さんのお薦めだったの。
「さて、これから目的地までは貴方方をドライバーさん、ガンマンさんと呼べばいいのかしら?私はライアと呼んでもらえると嬉しいけど」まぁ、そんときの名前はライアって挨拶されていたしね。
「チャンだ」ドライバーは、ゆっくりとアクセルを踏んだ。景色が流れはじめた。
「シドだ」ガンマンは助手席で、銃を点検していた。
「さて、チャンさん。私達はどのルートで目的地に行くの?」
「R156からR157に入ってそれから林道で山の中に入り大きく迂回して宇宙港には北ゲートから入る。時間はかかるが、山の中の移動が多いから空からも見つけにくい」
「もし発見されたら、逃げ道はある?」
「地図にも載っていない道が縦横にある筈だ、それにこの車はちょっと他とは違ってね。結構どこでも走ってみせる。ま、タイヤが使えるところならね」チャンは、この車に乗るときに、ボディをなで回してニコニコしてたけど。特別仕様である事は、私にだけ知らされていた。車としては本当に隠し玉だ。仲間であろうと有効な情報は最小限に知らせるのが、教育で受けた一つだった。
「今、高速を走っている先頭の車が撃破されたわ、本物のおじいちゃんで無ければいいけど」私の頭の中には、その映像が伝わってきた。
「かなり手厳しい挨拶だわ。一台づつ壊す気かしら?」
「早めに山に入ろう」シドがドライバーに言った
「ライア、この先のルートに怪しいものがないか衛星から見てくれ」
「はいはい、シド。」私はチョコを通じて、近くの偵察衛星から画像を盗んだ。R157の山の入り口付近にあるSAに大きなランドクルーザーが止まっているのが気になった。
SAに設置されているカメラをハッキングし詳細を見ると、前シートには黒服の男が二人、後部座席には大きな銃器らしいものの一部が見えた。
再度衛星の画像を盗り、こちらのルートで使う林道上に障害物が無いか捜索してみた。しかし、木立に見え隠れしていて鮮明ではない。
もし、このSAを突破されたとなると、車を隠す為にも最初の街に刺客を置くことになるだろうが、そこまで人が手配できているようにみえなかった。
「R157の山の入り口のSAに怪しいランドクルザーがあるわ」私は、前のめりになって大声をだした。親分が乗る車の割りには、妙にロードノイズが煩いのだ。「その先の林道は上空から視認するには木立が邪魔になっている」
「どうする?」チャンはシドに聞いた
「出来るなら、撃ち合いは避けたいな、可能な限り隠密に突破したい」
「しかし、ばれれば後ろに付かれるぞ」
「その時は、俺が始末をつける」シドは、銃をひざの上に置きため息をついた
「ライア、ランドクルーザーの乗員が誰だかわかるか?」チョコは、いつの間にか警察のデータベースで調べきっていた。
「本名は不明、属名サイドワインダー。専門の殺し屋さんね早撃ちも一流、狙撃も一流。と本人はそう思っているのかしら?もう一人は、え、なにこれアンドロイド?A128ZZ8って??」
「相手に不足は無しか」シドは、上を向いた。「遺言を書いてもらった方がいいかもしれない」
「一流か?」チャンは、アクセルを吹かしていた
「早撃ちなら俺の負けだ」シドは、小声で言った。「現在、トップのガンマンだ」
「俺は、あのアンドロイドと運転で競ってみたいな、そして負かしてやりたい」チャンが大声で言った。
「自信があるんだな」シドは、相変わらずの小声でチャンの横顔を見た。
「ああ、車の故障さえなければ俺はラリーで奴の前を走っていた筈だからな」
「さて」シドは、ため息をついてポケットに手をいれた。何かをまさぐっている様子であったが、ためらいがちに手をポケットから出した。その手には何も握られては居なかったが、暫く硬く握り続けていた。
「ルートだが、R156から脇道にそれ、それから林道を使ってR157のSAより向こう側に入る」チャンは、シドに言った。「それでランドクルーザの前に出ることが出来る。」
「ライア」シドは後ろの私を振り返って見た。「ランドクルーザーの動向を調べてくれ」
「了解」朝は、始まったばかりだ。
☆☆☆
老人は、静かに目を閉じたまま何も言わなかった。恐怖で口も利けないのか、冷静に状況を判断しているのか分からなかった。私は情報収集に忙しくシドは片手をポケットに入れたり出したりの繰り返し、チャンは、運転に集中している。
交通量の多い156号は、平野部をまっすぐに進み4つの大河を渡り10の小都市を結ぶ幹線道路だ。高速道路を除けば、宇宙港に行くならもっとも早くつけるルートには間違いない、既に多くの車が行き来をしている。
囮の何台かは、この道を先行している。撃破された車はこの道に並走する高速道路を行っていた筈だった。157号は、山河を迂回しながら小さい開拓時代の宿場を繋ぐ道として発達した昔ながらの道だ。国道扱いにはなっているが、宿場が廃れてしまったので整備は長い間されていない。
ランドクルーザはこっちの動向に気がついていないようだ。来ない車を待っているだけで終わって欲しいが、果たしてそんなにうまく行くのか、問題は相手がこっちの囮をどれほど掌握しているかだ。トレースされているのか、いないのか。されていればその情報源は何処なのか。私は、チョコにそれを探らせた。
チョコは、ネット上に多数のトランスポンダーを放った。それは不特定多数のコンピュータに取り付いては、ネットを行き来するパケット情報を拾い上げ、有効な情報があればそれをチョコに送信するものだった。そして、情報はまるで雨の様にチョコのCPUの中に降り注いだ。彼女は、高速に静かにその情報をふるいわけ更にトランスポンダーを放った。
そして、あっさりと追尾されたのが分かった。国道156を走れば当然といえば当然だ。監視衛星はしっかり私達の映像を捉えていた。
「監視されているわ」私はチャンに言った。
「後ろか上か?」
「上よ」私が言うと、ハッキングされた映像が私達の車をアップしているのが分かったその映像には十字線まで付いている。
「照準されているわよ」アップされている映像は、さらに大きくなり明らかに後部座席を狙っている。
「ミサイルか?」
「この照準だと、なんらかのビームでピンポイントで後部座席を狙っているわね、でも未だロックオンされていないわね」
「じゃあ、ちょっと乱暴な運転するぞ」チャンはアクセルを吹かした。加速でシートに押し付けられる。そしてそのまま車線変更を繰り返した。激しいクラクションがその度に鳴らされ、ドップラー効果で遠ざかっていく。映像は、ズームアウトされていくが、センターにはしっかり私達の車が映っている。
「だめ、まだ捕まっている」と言った時唐突にズームインされた、前に車が居なくなり行く先を予測しやすくなった為だろう、そして更に鮮明になった。
「車線変更!」私は叫んだ。チャンは言うとおりにした。その直後横でドン!と激しい音がした。後部座席から後ろを振り向くと道路の上に大きな穴が空いていた。
「うわっ間一髪」叫んだものの照準は、まだ私達を追っている。「また来るわ!」
チャンは、アクセルをさらに吹かした。そしてハンドルを左右に切った。その度にあちこちに道路に穴が空いた
「相手が上じゃ振り切れないな…」シドは、指で銃の形を作って上にむけるとバーンと言った。そうか、と私は思った
<チョコ>
<何?>
<周りに他の攻撃衛星いない?>
<一機そっちに向かわせえているけど、時間がかかりそうよ>
<どれくらい?>
<20分かな?>
<えー、無理ーっ>
<仕方ないじゃない、無いのだもの。これでも気を利かせてやったのよ>
<うーーん、分かったわよ、どうにかして20分も時間を稼がないと>
「上から見えないところないかしら?」
「山は未だ先だしな…トンネルは無いぞ」チャンがハンドルを左右に切りながら答えた。その度に道路に穴が開いた。
「国道を降りてよ、もう酔いそうだし」これは半分本当だった。
「いいのか?」
「周りに建物があれば、障害物くらいになるでしょう」
「そうだな」とドライバーはうなずいた
車は、インターを降りて市街地に向かった。思惑通りに、画像は時折建物に阻まれた。
「ねえどこかにショッピングセンターは無いかしらね?」
「あれがそうだと思う」チャンは、前に見える大きな建物を指した。「あそこに行くのか?」
「洋服とサンングラスでも買って変装するのか」シドが、面倒そうに言った
<ごめん>とチョコが割り込んできた
<なに>
<制御を奪われた。衛星を持っていけない>
<ショッピングセンターで変装するわ、それで時間を稼げればいいけど>
<運を祈るわ>
ショッピングセンタの建物自体が格好の逃げ場所になった、映像は再びズームアウトしていたが、それは私達が動き出せばまた捕らえる自信があるからだろう。その上そのズームアウトされた画像の隅から4台の車が急いで入ってきた。
「追っ手も到着したわ」私達の車は、立体駐車場に入った。
「ここを出たところをズドンかな」シドが言った
「運が無いとね」追っ手のうち1台は立体駐車場の出口に回った。もう1台は入口に止まり残りは駐車場に進入した。
「さて何処かに止めようかしらね」
「待ち伏せるか?お嬢ちゃん」シドは、ダッシュボードから銃を取り出した
決して明るいとはいえない駐車場の中で一箇所だけ、明かりが消えているところがあった。私は前に乗り出してあそことドライバーに指示した
「後は任せようシド」チャンは指示通りに車を暗い一角に入れた。
「チャンさん、アームレストの上を開けて」彼は私の言うとおりにした。そこには、トグルスイッチが幾つも並んでいた。そのスイッチのひとつひとつに赤、青、緑色の付いたテープが巻かれている。そして後部席に近い方にロータリスイッチがある。
「なんだこりゃ…」チャンは驚いて後ろを向いた
「いいから、色のついたスイッチを前に倒して」彼は、スイッチを入れた。
「ちょっと待って。」と私は外に出た。そこで車の横に立って、ロータリースイッチを回す様に指示した。すると車の色がたちまち変化して白く変化してしまった。綺麗な白になったところで私はストップと言った。
「綺麗よ、上出来」私は車に戻った。「最後の仕上げに、ロータリースイッチを一回押して」
その途端、一台の黒い車が前からやってきた。ゆっくり、ゆっく舐め回すように前進してきた。
「来たわ」
シドは撃鉄を上げてそれを膝の上に置いている。
「出るか?」チャンが訊いた
「いえ、ここはやり過ごしましょう」
じわりじわりとそれはやってきた。私達の前を通る奴らは、窓から顔を出して、車を上から下までなめ回すように見て居た。
「どうやら、車種と色とナンバープレートにしか用が無いみたい」彼らに聞こえないのをいい事に私は、通り過ぎてゆく車を見送った。その後ろを小さい普通の車がじれったそうに付いていた。私達は、その小さい車の後ろについた。
出口でも邪魔は入らなかった。彼らが追っている車は閉店になっても出て来ないだろう、
「このまま157にいけないかしら?国道は上から丸見えだもの」
「そのつもりだ」チャンは、早く移動はできないものの、障害物が多い街中の道を進んだ。そのまま157まで行くつもりだろう
やがて、河の畔で車は国道に入った。
<うまくまいたわね>チョコが言った
<衛星はどう?>
<混乱しているわ>
<まぁ、車の色は変化できても、形まで出来ないからいずれ気が付くわ。でも相当の時間は稼げると思う>
車は、国道を逸れ山道へと入っていった。葛篭折を繰り返しつつ標高をあげて行く、道幅は序所に狭くなり、とうとうすれ違うのがやっとという幅になった。木々は鬱蒼と茂り日差しが入ってこない、この惑星の木々はどれもとんでもないほどに大きくなるのだ。はるかどこかの原始林には、木のうろに一家がすんでいるコミュニティもあるということをふと思い出した。もし、生まれ故郷がこんなに緑が多い処ならば、両親と平和に暮らしていたかも知れないと、私は昔を思い出していた。しかし今は、同乗している彼らが私の家族のようなものだ。
「ねぇ、あなた達はずっとこの親分の下で働いていたの?」私は、ちょっと興味半分で聞いた。
「いや」チャンが答えた。「今回はスポットで雇われた、シドもその筈だな」
「ああ、しかし後ろの奴さんは、一流どころを全部手中に収めたかったようだがな」シドは、とうとう手に握っていた酒壜を取り出した。
「今は、やめておいてくれ。」チャンが片手で壜を押さえた「この先待ち伏せがあると、この道を戻る事ができない。あんただげか頼りだ」
「悪いが、その為にもちょっと飲むよ。」そういうシドの手がかすかに震えていた。そしてシドは、一口だけ命の液体を胃の中に注いだ。口の端から一筋の酒が垂れ、手の甲でそれを拭ってから「ふ、アル中のガンマンに、できそこないのドライバーに、そしてガキのボディガードか」と自嘲気味に言った。
「ガキで失礼ね、でもチャンが何でできそこないのドライバーなの?」
「インタフェースが無いんだ」チャンは首の後ろに手を置いた。
「ふぅ、それは最新の車なら致命的ね。じゃその、コネクターは飾り?」
「今ではね、いずれ落ち着いたら話そう。今じゃ・・おい、なんだあれ」狭い道路には、一台の黒い車がとまり二枚のドアを開いていた。そのドアを盾にして4人の男達が銃を構えていた
「チョコ!なんで分からなかったの?」私は、目を見開くほかになかった。<ごめん!>とチョコが私の頭の中で詫びた。
「伏せていろ」シドは、ダッシュボードから、小さなマシンガンを取り出してドアの防弾ガラスを開けた。
私は、爺さんの体を倒し、防弾布をかぶせてその上にのしかかった。すさまじい音がして、シドのマシンガンが先ず火を噴いた。彼の腕の筋肉が、一気に変形して盛り上がったようにみえた。片手だけを外に出しての連射は、盾になったドアに小さな穴を開けたに過ぎなかった様に見えたが、その後ろの男たちは、次々と倒れていった。
「やるじゃないか」チャンは、安堵のため息をついてアクセルをふかした。
「機械まかせの、仕事だ。誰にでもできる」
「では、前進ですな」チャンは、山側のコンクリートで固められた斜面をバンクにみたてて、銃撃をしかけた車の脇を登ってドスンと道に戻った。狭い道だけに後ろから狙われるのはゴメンっていう気分だ。「うわぁ、こんな処でランチャーで後ろから狙われたらやだなぁ」と後ろを振り返ると。私の視野に、穴だらけになった車のトランクから、大きな武器を取り出した男が見えた。
「うそ。ランチャーよ!」私は叫んだ。運良く相手は下手糞なのか負傷していたのか狙いが外れ爆発が右手の木の幹で起きた。
「くそ!」シドは、前かがみになったまま、足元で何かを操作していた。
今度は、真後ろで爆発が起きトランクの一部が宙に舞い、車がふらついた。
「まったく頑丈な車だ、こんなでも未だ走りやがる」チャンは大声で喚いた
シドは額から流れる血を手の甲でぬぐうと、くるりと振りむきリアウィンドウに銃口をむけた、
「え!まって。」と私が言う前に激しい音が車内に響いた
防弾である筈のウィンドウには穴が穿っていた。
そして、ランチャーを構えた男はうつぶせになって倒れていた。
「安物の防弾ガラスでよかったな」シドは、耳栓を抜いた。
「なによそれ」私はまだ耳の中がマヒしている感じがした
「ハンドガン仕様のHVAPだ、火薬の量が多くなっている。もっとも今ので銃身にガタが来てしまったがね」
「今度使うときには、一言言ってからにしてくれる?暫く何も聞こえないわ、でも何で銃なのよ、他にもスマートで良い武器があるでしょうに。ビームとかレイルガンとか」
「趣味の問題だ。意味は無いさ。」
チャンは、しばらくそのまま走り続け、私はお爺ちゃんをかばう格好をづっと続けた。時々頭をあげて後ろを見るが、舗装されていない林道の中をこの車から立ち上がる砂埃が舞っているのしか見えない。後は巨大な木々が見えるだけだ。くねった道を何度も曲がり、標高をあげたり、下げたりしながら村の入り口付近でやっと車は止まった。道路の両脇には数戸の家が並んでいる。エンジン音がなくなると、鳥の声やどこかのせせらぎの音が聞こえた。
二人の男は、警戒しながら外に出た。私は、ゆっくりと爺さんを揺さぶったが、まるで金属の様にびくともしなかった。防弾シートをそっと持ち上げると、目を開いたままの爺さんが、なにやら口をぱくぱくとさせていた。血は出ていないが手をそっと後ろに回すと、首の付け根あたりに大きな裂け目が出来ていた。その上には、うまくシールで隠蔽してあるインタフェースコネクタが指先に触れた。そのシート部分のシートに裂け目があった。きっとランチャーで飛んだ破片がシートを突き抜けてお爺さんの首を切り裂いたようだ。シドの台詞ではないが、あちこちで手を抜いた装甲に覆われているようだった。最も、乗せているのが本人で無いとすれば尤なことだ。
<すると、これも囮かしら、いずれにしろこのチームの作戦は失敗で、ここまでみたいね。>私は、小さく呟いた。<二人に言って帰ろうか>
<どうかしらね>チョコが、陽気そうな感情で反論してきた<でもこの作戦はまだ終わっていないみたい、そのアンドロイドと通信してみたいわ>
<え?>
<時間が無いわ、急いで>
私は、コネクタをポシェットから取り出して、そそくさと自分の首の裏にあるコネクタにケーブルを差込み反対側を爺さんのに接続した。私の体を、脳をチョコが制圧した。私の意識は、遠くで自分を見ているようだった。そして、情報が自分の中に泉の様に湧いてくるのを感じた。チョコは情報を収集するが、私は決断をしなくてはならない
「さぁ、行こうか」チャンは、ボコボコになった車に乗り込んできた。シドもため息をひとつついてシートに座った。
「最初に言っておくわ」私は、爺さんの動かない頭をポンポンとたたいてみせた。
「爺さんは囮だったわ。で、現状は動かない状態になっているわよ」
「まぁ、そんなものだろう」チャンはハンドルに顔をうずめた。
「で、どうする?それでも攻撃の手は止まないぜ。白旗をたてて爺さんが囮であることでも知らせるのか?」
「攻撃はあえて受けるわ、私達の役目は攻撃の分散って意味もあるのだから、生きて宇宙港まで行ってみせる。」
「虚しい逃避行だなぁ、ランドクルーザが来ないことを祈ろう。しかしランチャーでかなり手痛い被害を受けているから先ずは近くの村で車を乗り換えるか修理をしないと先には進めないな」
「奴と撃ち合えるなら俺は本望だ。」シドは銃の激鉄を下ろし安全装置をかけた。
「ゆっくり行ってかまわないぜ」それから、ふりむいて私の顔を見た。
「相手は一流だ。あんたの命まで守れる保障はないぜ」
「子供は撃たないわよ」私は、笑ってみせた。
「なら、お祈りでもしてろ」
良い車も酷い音を立てながら走りだした。こわれかけた部品が時々音を立てて道に落ちてゆくたびに私はこのまま先に進めなくなるのでないかという不安におののいた。この山道を延々と歩くのだけは勘弁してほしかったからだ。道の振動が激しく腰に伝わってきた。チャンが「このポンコツやろうが!」とわめきながらも慎重にしかしそこそこのスピードで車は山の中を騒音を立てながら突進し続けた。




