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四日目…二日酔い

 朝が来る前にチョコあるいはレミは部屋を出て行ったらしく、目覚めたときには私は布団の中に頭まで潜り込んでいた。その布団の中のこもった香りは明らかに女性のものだった。服を着て階下に下りると、女将が帳場から「朝食はどうする?」と訊いた。どうやら今はレミのようだった。


「食欲があまり無くって」と私は、答えてテーブルについた。昨日の酒が頭と胃の中で暴れまくっているのだ。

「パンとスープと目玉焼きだけだがな」と女将は、私の返事を聞いていなかったように、言って帳場から出てきた。

「スープだけでいいです」私の腹の中は、なれないほどの強い酒のせいで荒れまくっていた。固形物を入れたら、そのまま吐き出してしまいそうだ。

「昨日はかなり呑んでいたからねぇ、薬をもっていないのかい?」女将は、私の前を通って奥にある調理場のカウンターに入った。

「薬?」私は、痛い頭を押さえながら訊いた。「いい薬があるのですか」

「もちろんさ、ここに居る間は必要だからね。アルコールの機能はそのまま、胃と肝臓はしっかり守ってくれるし、二日酔いも心配ないってすぐれものさ」女将は、コンロに火をつけて鍋を置いた。

「その薬はどこでも売っているの?」私は、頭痛に耐えながら訊いた。

「薬局でもコンビニでも売っているよ」女将はじっと鍋を見ながら言った。「ドランカーズフレンドっていう薬さ。一箱買えば一月は持つし、のんべえには、お土産にもぴったりだね」

「後で買うよ、でも今日のところは寝ていたほうがよさそうだ」私はとうとう頭をテーブルの上に乗せて伸びてしまった。

「ほらほら、そんな格好じゃスープが置けないよ」と女将は、私が頭を上げるを待ってからテーブルの上にスープボウルを置いた。私はため息をついてスープをそっとスプーンでかき混ぜた。何か具があったら消化できる自身がなかったが、それは全く具の無いスープだった。

「飲んでみな」女将は、私の前に座っていた。「このステーションの奴ならだれでも知っている特製スープだ。二日酔いには最高だよ」

 私は、それを口に入れた。すると胃が爽やかな感覚に包まれ、活発に動き出しそうな気がした。その上、頭痛も治まってきた感じもした。

「本当だ。」私はゆっくりとスープを飲んだ。一口ごとに生き返った気分がした。

「そうだろ、でも飲んでから暫くは寝ていたほうがいいよ。調子がよくなったと思って食いすぎるとろくなことが無いから」女将は私の顔色を見ながら言った。丁度、この勢いでパンも目玉焼きも頼もうかを思っていたのを読まれてしまったような気がした。

「そうします」と私は、スープだけでもお代わりできないかなと思ったが、女将は「それがいい」と席を立って帳場に戻ってしまった。

 私が、二階に戻ろうとすると、男がふらふらしながら私と入れ違いに出て行った。また飲みに行くのだろう。朝から晩まで飲み続ける生活にどっぷりと浸かっている以外に生きる方法を知らないように思えた。


 ベットに戻って寝たり起きたりを繰り返し、本格的に調子が戻ったのは昼を少し過ぎた頃だった。私は人気の無いがらんとしたホールを抜け、ホテルを出ると。ふらふらとおのぼりさん気分であっちこっちを眺めながら街に出た。


 その辺りには飲み屋が余り無く、小さい小売店が軒を連ねていた。パナケイア 薬局と通路に看板が出ている店の引き戸には、色々な薬の名前が効用と共に紙に手書きで書かれたものが、所狭しとテープで貼ってあって店の中の様子が見えない有様だった。


 ここでいいか…と思って引き戸を開けると、左右の壁には天井に届きそうな棚にぎっしりと薬の箱が押し込まれ、中央の小さい棚には女将の言っていた薬ばかりが詰まれていた。突き当たりには、低いガラスの棚があってその向こうに、老婆が編み物をしていたが、私には未だ気づいている様子がなかった。

「あの」と声をかけても老婆は編み物を続けており、大声をだしてやっと顔を上げた。

「ドランカーズフレンドを」と大声でいうと、ぼそっとした声で10クレジットと答えた。私は、カードをガラスの棚の上に置いたが、老婆は顔をしかめた。

「カードかい…現金は無いかい?」と訊くので、私は、無いと答えた。すると老婆は、まったくもうと小声で呟きながら、カードの読み取り機を取り出して、棚の上に置くと、老眼鏡をかけて取り扱い説明書を読みながら、装置のキーを押した。その度にエラーらしい音がピッと鳴った。

 たかが金額を押すだけなのになんでこんなに手間がかかるんだと、思って見ればどうやら、どこかで誤ってセットアップ用のキーを押してしまったらしい。いいですいいです、どこかで現金に変えてきますから…と言ってあわてて店を出て宿に戻ると、運良く女将が帳場で本を読んでいるところだった。


「ああ良かった」とそこに駆け寄ると

「なんだい」と女将は顔をあげた。私が薬局での出来事を話すと、「ああ、そうだねここは辺鄙だからね。まだ現金がかなり使われている所もかなりあるんだ。」女将は、私が差し出したカードを受け取ると、「いくら換金する?」と訊いた。今後のことを考えて10000と答えると、「そんなに持ち歩くのは、物騒だからやめておきな、必要になったら換金してやるから、今日のところは500にしておきなさい」と勝手に500と入力した。

「おや、これは認証レスかい」と女将は、機器の画面にパスワード画面が出てこないことに首を傾げた。「色々持っているんだねぇ」

「買い物用ですから」答えるとカードを私に返して「これも大事に身に着けておきなさい」と付け加えた。

「あと婆さんは時々つり銭も間違えるから、きっちりと払うんだよ、そうでなきゃ、若旦那の女房が居るときに行きなさい」私は、またホテルを出ると、老婆の居た薬局に入った。


 しかし中にいたのは、中年の女性で、丁度一人の若者が袋を持って入れ違い出て行くところだった。女性は、婆さんと同じくレジのある所で、カウンターに置いた軟膏を元の場所に戻しているところだった。


 私は、女性に「ドランカーズフレンド」と注文を言うと、女性は「お徳用でいいですか?」と訊いた。

「それはどれくらいあるのですか?」と訊くと「あら、旅行者の方ですか?」と訊いてきた、そうですと答えると「ご滞在はどれくらいですか?」「多分、150地球日くらいになると思います。」「故障ですか、大変ですね」と女性は言って中央の棚から大きな箱を一個取り出した。

「これがお徳用で、90日分で300クレジットになります。」すると婆さんは、何の金額を言ったのだろうと思って現金を出すと。箱を袋に入れて私に渡した。「この薬はここだけのものですから、あとでお土産にもいいですよ」と女性は笑みをみせた。


 ホテルの部屋に戻ってそれを部屋において中を開けると、粉の入った袋がそこに詰め込まれていた。私はその一つを取り出すとそれを持ってロビーに降りた。女将が何かの本を読んでいたが、ちらと顔をあげて私を見た。

「水を…」と袋を掲げて言うと、「テーブルにある水差しに入っているよ」とそっけなく答えて、手にした本のページをめくった。


 ロビーには、他に老夫婦が一組、若い男が一人ひっそりと座っていた。私は、空いている席に座り逆さに置かれたコップを手にしてそれに水を注いでから薬を口に入れた、その瞬間、異常なほどに苦い味が口中に広がりあわてて水を飲み込んだ。

「はっはっ、苦いだろうそれ」女将が甲高い笑い声をたてた。「それに、もう飲みに行くのかい?」

「いえ、ちょっと試してみたいだけですが、酷い味ですね」私は、文字通り苦笑いをしてみせた。

「どうせなら、飲みに行ったらどうだい?効き目が分かるぞ」女将は、私をけしかけた。「そうですね、どこかいいですか?」と訊くと「そうだな、すずらん通りの、お染がなかなかいいぞ…」

「すずらん通り?」

「この前、シャトルのチケットを買いに行った途中の通りだよ」私は、そういわれて汚い路地を思い出した。

「ふうん」とうなずいて、行くかどうか逡巡したが、女将が勧めるなら行っても問題はなかろうと、私は空になった薬の包みを丸めてテーブル脇の小さいゴミ入れに放り込んでから立ち上がった。

 ドアの近くで女将は「晩まで飲んでいるかい、こっちで食べるかい」と訊いた。

「軽く一杯だけにしておきますから、戻ってきます」

「ふぅん、駄目そうなら連絡しておくれ。」私はその声にうなずいて外に出た。



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