三日目ー女将の話ー
翌朝、女性は旅立ち。私達は小さな荷物を持った女性を、ゲートまで見送った。宿に戻ってからカウンターのテーブルで女将と差しで酒を飲んでいるとき、ふと女将は「ベーヴァって惑星を知っているかい」と訊いた。
私は、長い間あちこち旅をしていたものだが、その惑星は未だ行った事が無かったので、いいやと答えた。
「だろうね、とても辺鄙なところにあるし、何も無い惑星だ」と女将は、グラスの底を覗き込むようにして言った。
「私は、最初の頃の開拓民でね、ひい爺さんが森を切り開いたんだ。今でこそ大きな街も出来たものだけど…」と女将はぼそりと話を始めた。その顔は若さには欠けるが、歳のせいというよりも長らくの苦労のせいのように見えた。女将は、ぽつりぽつりと昔話を始めた。
今の様になるまでは、その惑星も只の開拓地でさ本当に何にも無かったよ。木を切ってそれで家を建てて、切った跡地に野菜を植えてさ、ひたすら明日の糧を求めるのが精一杯だったものさ。でも、なんとか生きてはこれたよ、地球年の6歳まではね。少なくてもその歳までは食いはぐれることは無かった。
その年の冬は、寒くて長かった。いまでも忘れられないような寒さだった。蓄えていた食べ物も尽きて、春に植える種の一部さえ口にしてしまった程だったよ。それでもなんとか、春が来てさ、借金して種を買って植えることもできてね、なんとか収穫の目処が立った矢先に、虫の大群がやってきて悉く食べてしまったんだ。
ひいじいさんが命がけで開拓した農園は、気が付けば土が剥き出しの更地になっていたよ。苦労すれば報われるとか言っても、そんなことは嘘だとおもったね。どんなに努力や苦労をしても、自然は、私達家族を打ちのめしてくれた。ひもじくて土の上に残された虫の死骸や、作物の小さな根っこ、木の皮を削って食べたりしてさ、それでも頑張ったさ、でも蓄えなしで冬が越せると思うかい?借金も借りる当てが無くてさ。親父もお袋も、心中を考えていたみたいだったよ。
食い扶持を少しでも減らさないとだめだし、お金も無いから、私は養子に出されたんだ。しかも裏ルートのね…要は人身売買ってことさ。冬を前にした寒い日だったよ。両親共に泣きながら私に詫びていたよ。
でも私は捨てられたって思いで悲しくって寂しくってさ、そりゃ毎日毎日泣いてばかりいたさ。そして女衒のオヤジに連れられて色町にあちこち紹介されたものの、どこもかしこも私と同じような境遇の者ばかりでさ、どこに行っても貰い受ける店なんか無かった。
「内蔵でも売るか」と女衒は真面目に私に言ってたよ。腹腸ほど金になるものは無いからね。でも私を買ったのは、どこかの綺麗な背広を着たオヤジだった。女衒は、きっとロリコンオヤジに売れたと思っていたのだろうね。でもそのオヤジは、私の遺伝子とか調べてから交渉に応じたから、ろくな事には成らないと思っていたよ。内蔵の適合者がいたか、私の子宮を使って子供を得るつもりだろうってね。
でも、予想は全然違っていたよ。綺麗な身なりの男は私を車に放り込むと、何か注射を私にうって私を眠らせてしまったんだ。気が付いたら。綺麗なベットの上にいたよ。痛くも痒くも無かった。
☆
「やぁレミ」シルバーのウェットツーツみたいな服を着た男が、彼女が目覚めてから見た最初の人間だった。大きなベットの周りは透明なフィルムで覆われ、男はそのフィルムの外から、釣りあがった眼で彼女を見下ろしていた。何かを言おうと彼女は口を開こうとしたが、妙な痺れが体中を覆い尽くしかろうじて唇が動いたものの、言うべき言葉が出てこなかった。
「あ、あぅ・・う」目を覚ました少女の頭の周りには沢山のコードが出ていた。
「私は、キムというのだが。調子はどうだね?」彼女は、最悪と言おうとしたが、口は開かず、体のどの部分も動かなかった。それを察したかの様に彼は彼女を見下ろしながら言った。
「無理はしなくていい、状況は良いい筈だ。検査結果。」空中に、わけの分からない文字や意味の無さそうな数字が浮かびあかった。
「ほぼ健康体だな。順調だ。まもなく動ける様になる筈だ。閉じろ」宙に浮いた不思議な文字は消えた。彼女は、目をパチクリさせた。貧しい家の年上の兄弟や近所の友達が、あまりにも酷い生活になったら、臓器が高く売れるという話をしたことを思い出したのであった。ひょっとしたら、私はもう目と耳しか無いのかも…彼女は不安にかられた。涙が目尻から流れ落ちていった。
「何が悲しい?」キムと名乗る男は冷ややかに言った。「いずれ、笑えるようになる」
そして彼は去って行き、そのまま眠りが彼女の目蓋の上に降りてきた。
夢の中で彼女は灰色の世界の中を彷徨っていた。地面も空も無い、どこを見回しても灰色の世界の中だ。その中に小さく光る丸い球が上から降りてきた。なになしら?と彼女はそう思いながらそっと片手でそれに触れてみた。するとその球が彼女に声をかけた。
「やあ、レミ。私は、FZ10320よ。性的には女性のチップセット、今貴方の頭の中で一緒に成長中よ。時間をかけて貴方の性格や肉体を覚えながら適応してゆくけど、基本的には、この体は貴方のものよ。場合によっては私が、割り込みをいれて勝手にしゃべったり、動いたりすることもあるかもしれないけど、それは余り無いと思うわね。さっきも言った様に私は、これから貴方の体の使い方や脳の特製を学ばなければならないの、そして、貴方には私の使い方を覚えて欲しいのだけど、言っていること分かる?」彼女は、ううんと首を横に振った。「わからない…でもお友達なの?」
「そうよ、貴方に一番近いお友達よ。先ずは、私の名を覚えて、FZ10320って言う名なんだけれど味気ないわよね。貴方甘いもの好きでしょ。私も貴方には好かれたいからチョコって呼んで。でも呼んだだけでは駄目、私は必ずパスワードを聞くようになっているのよ…パスワードって何か知っているわよね?」
彼女はうなずいた。「秘密の合言葉よね?」
「そう、これは、先ず私が決めるわよ。パスワードは、ミント0103よ、この数字は貴方の誕生日、忘れては駄目。もし忘れたら、マスターに聞きなさい。マスターとの連絡はさっきの男に聞けばやってくれるわ。では、私の名前とパスワードをもういちど、こんどは貴方の口から言って」彼女は灰色の空間の中でその言葉を口にした。
「そうよ、レミあとはゆっくり休んでいていいわよ」すると光りの球は上に上がってゆき、やがて辺りは急激に暗くなった。こころ細さで思わす彼女は、チョコを呼んだ。
「大丈夫だから、私はいつも近くにいるわ」闇の中で優しい声が降ってきた。
ベットの生活は、長く続いた。そのたびに医師のような男は順調だと言った。不思議なのは、ずっと同じ格好で寝ているにも関わらず、背中が痛くならないことだった。家のベットは硬く、虱だらけで、痒くて毎晩寝返りをなんどもうち、体をボリボリと掻いていたものだ。それに比べるととても快適だった。しかし、動かないままでは退屈で死にそうな思いをしていた。
彼女は、ときどきチョコを呼んだ。口こそ聞けないが、頭の中でチョコの名を呼べば、彼女が話し相手になってくれた。
「だいぶ慣れてきて、私も嬉しいな」チョコはふふと笑いも交ぜてきた。「どう他の景色も見たくない?」
「うん、ずっと天井しかみていないもの、つまらない、でもね白い天井にも沢山の動物が居るんだよ」レミは天井にうっすらと見える染みを目で追いながら「あれは、ゾウのマンモ、あれはキリンのソラ、隅にはネズミのウィプ」
「まるで、天井は動物園ね」
「うん、でももうこれ以上は探せないわ」
「あらら、それで退屈なのね。私の目をちょっと貸してあげるね」
すると、突然天井が妙な景色に変わった。白い通路を人々が行き来している。天井に景色が写っているのではないのが不思議だった。
「なに?これは?」
「廊下にあるテレビカメラをちょっと拝借しているところ。その画像を、レミの視覚神経に投影しているんだよ。他のテレビカメラも見てみようか」
景色は色々と変わった。とつぜん、一人の白衣を着た男が女性を抱きしめている風景が見えた。キスをしていた。彼女は、ドキリとした。家でも、母と父はよくキスをしていたし、彼女もおでことかにキスをしてもらったが、それは違う種類のものだ、彼女は男と女が出来ていることを知った。友達は、よくそんな話をしてくれたのだ。
「おっと、これはちょっとまずかったかなぁ」視界はまた別なものに変わった。しかし、一番会いたい人の姿はチョコでさえ見せることはできなかった。そういう日は、深い記憶の底を辿りながらその面影を追い、そして泣いた。
☆
ゆっくりと彼女の体は動くようになった、指先が動き、肘が曲がり、声が出るようになった。初めてベットから上がった時、待っていたのは辛いリハビリテーションだった。長いベッド生活は彼女から筋肉を奪い取ったからだった。ベッドから起こされ、まずは四つん馬で動きまわった。僅かな動きでさえ、息が途切れ、腕も足も悲鳴をあげた。なんでこんなにも動けないのが不思議でたまらなかった。
昔は、かけっこだって早かったのに、今や、彼女はグズでのろまな劣等生だった。彼女は街にいたチビのアーノルドを思い出した。彼の荷物を取り上げて、あっという間に駆け去って大きな木の枝の先にひっかけて、彼が追いつくのを待ってその遅さをせせら笑っていたものだ。鬼ごっこの仲間に無理矢理引き込んで一日中鬼をやらせたりもした、彼は、走るのが何時も遅かったが、大人向けのベーヴァ生物図鑑を何時も見入るように読んでいて、色々な生き物の名前を教えてもらったものだった。興味がなかったから覚える事は無かったが…
訓練は、飴と鞭の使い分けだった。目的を達成できれば、優しい言葉と美味しいお菓子が与えられたが、できない内は罵声ばかりが響いた。
チョコは、訓練の時は彼女の話し掛けに応じてくれなかった。辛い時なのに、優しい言葉をくれないチョコを憎んだ。ベッドの中でチョコにそう不平を漏らすと、チョコは済まなそうに、言った。
「リハビリの時はね、私も貴方と同じ苦しみを感じているの。貴方の体は私の体でもあるの。お願い、それは分かって。明日から補助機なしね、一緒にがんばろうね、レミ」
広いリハビリルームまで辿り付くには、彼女はタイヤのついた補助機に両手を添えて歩いて行った。それまでは、反重力ベルトがなければ、何も出来なかったのだ。ゆっくりと、ゆっくりと歩く彼女の横を、沢山の大人達が追い越してゆく。腕も足も直ぐに疲れては、立ち止まり、息を整えてまた歩き出した。リハビリルームに辿りつくと最初に飛んできた言葉は「遅い!」の罵声だった。「スケジュールが決まっているんだ。時間通りに来い」
リハビリルームには、一枚のマットが敷かれているだけだった。
「さぁ、最後のリハビリよ」看護師は大声を出した。
「マットの上を最初から最後まで歩くだけよ。今日は兎に角できるまでやります。」彼女は、大人しくマットの端にがらがらと補助機と共にやってきた。その反対側に看護師が立った。補助機から手を離してもかろうじて立つことはできた。しかし足は、筋肉がぶるぶる震え一歩を踏み出すことさえ躊躇いがあった。たった一歩でもきっと倒れそうだ。恐い彼女は補助機に手を伸ばしてしがみ付いた。
「そうしていたければ、いつまでもそうしてな」看護師は大声を出した。「意気地無しはいらねぇ、ここから直ぐに追い出してやる。」そしてつかつかと彼女の傍にくると、襟元を掴んだ、「え、やるのか?やらないのか?」彼女は、補助機を掴んだ手を放した。
「よし、それでいい。がんばれ」看護師は再び、マットの反対側に立ち腕を組んだ。一歩で彼女は倒れた。よろめきながら立ち上がると、また一歩で倒れた。
「何をしているんだ、倒れたら元の位置までもどるんだ」彼女は、這いながらスタートの位置までもどった
「這うな!」怒りの声が背中にとんだ。
「このマットの上では這うな!」思わず涙が溢れてきた。そのとき、母の声が聞こえたような気がした。
「レミここよ、おいで」
振り向くと、看護師のいた付近に一番会いたい人の姿があった。「おかあさん!」彼女は、よろめきながらその姿に向かって歩いた。
そして、その姿に抱き着いた瞬間、それは看護師に代っていた。
「よし、よし、良い子だ。頑張ったね。」彼はそっと彼女の頭を撫でた。「さぁ、あともう一回やってみようね」
体が満足に動かせる頃になると、建物内にある部屋が一つ彼女に与えられた。広い部屋では無いが個室であった。ベットがひとつ、机がひとつ。小さいクローゼットがひとつ。
それだけで一杯の部屋だった。窓は無かった。
「さびしい?」頭の中でチョコが言った。
「ううん」彼女はベッドに腰を下ろして床を見詰めた。
「知らせが入ったわ」彼女の視覚に映像が割り込んで来た。それは沢山の格子の集まりで、全然意味が無さそうに見えた。やがて格子はその空隙に着色が施されると、それが建物の立体図であることが分かった。チョコが言った。
「あした、午前8:30よりレミの授業を開始する教室は、301である。」
映像は、一つの部屋を写しだすとそのまま廊下を駆け巡り階段を登り301という数字が扉に書かれた部屋の前で止ったそして、映像はいきなり消えた。
「まったく、不親切なメッセージだなぁ」チョコは不満そうに言った。
「今の何?」
「ドメインからの、メッセージよ。突然、私を通してメッセージを伝えるの。私を間抜けな、人間とのインタフェース機器としか思ってくれない、堅物の親分よ」
☆
「授業は、それはそれは凄まじいものだったわよ。」彼女は、グラスを一杯煽ってから、グラスをテーブルの真ん中に置いいた。
「もうすぐ、壁の時計が夜の11時の鐘を11回鳴らすわ、最初の鐘でグラスを先に取った方が勝ち」彼女は、にっこりと笑ってみせた。勝てば何が貰えるの?と私が言おうとしたとたんに時計がカチリと音を立てた。そして、懐かしくゆったりと太い音が部屋に木霊した時にはグラスは既に彼女の手にあった。
「貴方の勝ちは無いわ・・」彼女はグラスの中の氷を口の中に放り込んでガリガリと砕いた。
「負けた貴方は、私と冷たいキスをするのよ。」
私は、女将の口の中にある氷を口伝えで受け取った。
☆
授業の最初は、アンドロイドとの冷たいキスから始まった。そのとたん、頭の中でチョコは悲鳴をあげた。レミは、狭い教室の中でまるで目も耳も効かなくなったかの様に立ち往生した。だれかが、彼女の背中を軽くこづいた。それだけで彼女は、くずれる様に床に座り込んでしまった。
「先生、この子は?」誰かが言った。
「今日から皆さんのお友達になる子です。初めてなので未だ情報の授受に慣れていないのです。皆さん親切にしてあげてくださいね」
チョコは突然放り込まれた大量の情報の始末に往生していた、レミの神経を総て総動員してその処理にあたった。やがてそれが言語のパターンであることを認識すると、やっと彼女の脳へのアクセスのみを試みた。レミは、暗闇の中にいるようだった、生きているのは分かるしかし総ての感覚が氷ついたように、動かなかった。悲鳴もでない、あるいは出しているのに自分の声が聞こえないかもしれない・・
「やぁ・・レミ」。小さな明りが灯されたように、自分の中から自分でないものの声が聞こえた。
「今、レミに話しているのは、第二銀河語だよ。」チョコは混濁する意識の暗闇の中で小さな明りの様に囁いた。
「さぁ、考えて、話してみて」レミは座り込んだまま目をあけ、今自分が知った言葉をまるで、昔から知っているかの様に話した。
「よろしい」教師は、笑みを浮べ手を差出した。
「そこに何時まで坐っていても良いけど、あとで腰が痛くなるわよ」そのアンドロイドの手を握ると暖かかさが伝わってきた。レミは立ち上がって椅子に座りなおした。
教師は教壇に戻り、少ない生徒達の方に向き直った。
「さて、今日から第二銀河語の授業を始めます。既に皆さんは、チップ達から必要な情報は受けていますがこの授業では、その言葉を使った創造と、感情を込めた話し方を学びます」
☆
キスをしてと言う女将の言葉に操られるように、私は、テーブル越しに女将の唇をそっと吸った。
「あんた、何者だい?」私の問いに女将はにやりと笑った。
「さあ、誰だろうね、でも私の中のもうひとりが、どうにもあなたのことを気にしているようだよ。でもチョコはそれを私に教えてくれないんだ」
「チョコが…ですか?」私は、どうやらまずい相手に見つかったようだ。チップは決して単独ではない、ネットを使って情報の海を常に見ているのだ、当然そのバイナリの海の中に私の姿も垣間見ることがあるだろう。
「だから、私も貴方に興味があるようだね」女将は、にやりと笑った。「そして、時間は私に味方をしている。」
ホテルのドアが唐突に開いて、あの酔っ払いがよろけながら入ってきた、寒い風が吹き込む。彼女は席を立つをドアを閉め、よろめく男を抱えた。男は、そのまま彼女を抱きしめよたよたと歩いた。私も席を立ち、自分の部屋に向かう階段に足をかけた。彼女は、ウィンクをして私を見送ったがどうやら、今夜はゆたんぽは無しのようだ。
場末のホテルのベットの寒さに悪態をつき、可能な限りの衣類もパジャマ代わりに着込んでベッドに潜り込み、白い息を吐きつつ私は目を閉じた。これが酒のありがたさだろう。とても素面では寝ていられない。しかし、考えてごとをしてしまうと、酒の勢いもどこかに行ってしまいそうだった。あの女将は特殊なチップセットを埋め込まれているとなると、若い頃はかなり危ない仕事をしてきた筈だ。自分の事を棚にあげつつ私は女将の話をもう少し聞いてみたくなった。退屈しのぎにはなるだろう。そして、うとうとした頃にゆたんぽがやってきた。
女将は、私にキスをして起こした。「あの酔っ払いは部屋に押し込んだし、レミもお休みさ」そういって、私の布団の中にもぐりこんでまたキスを求めてきた。しかし今度は濃厚に、そして時間をかけて、舌を私のそれと絡ませた。
「さ、寒い時に男と女が褥を共にするというのに、こんなに着込んでいたら暖かさが伝わらないだろ」彼女は、身をくねらせながら床の中で自分の衣類を脱ぎつづてあっけにとられている、私の服まで脱がせてしまった。着込んでいるため、分からなかったが彼女の体は思った以上にスマートだった。私は、彼女を抱いて強くその体を自分に押し付けた。しかし、背中はさむいままだ。
「ねぇ、私は何故貴方のことを気にしていると思う?」そう訊いた彼女の口から唐突に棒読みのような声が漏れてきた。
「本当の名前は、北条 京介、メトセラ因子要観察指定のオリジナルの遺伝子の持ち主、年齢は不詳、少なくとも400歳は超えると思われる」
私は、彼女を抱きしめた手を離しベットからでようとしたが、何時の間にか彼女が私を強く抱きしめていた。まるで万力に挟まれたみたいだ。
「ビンゴぉ」彼女は、ふふと笑って私の唇を求めた。
「無粋なことは言わないわ、私と貴方だけの話にしましょ、レミには言わないわ寒い夜は長いし、今夜、あなたは逃げられないの」
「お前は…」
「今の私は、チョコよ…レミの意識は他所にいってもらったわ。あの酔っ払いの旦那のせいでずっとお預けだった楽しみを味わいたいの…ねぇ、その前にひとつ教えて」
「なんだ?」
「ねぇ、あの妊婦を助けたのは貴方の血を受け継いでいるから?」
「ああ、そんなところだ。もっともあの娘の母親は知らないけどな」
「私も、子供が欲しいな」
「おいおい、この世に不幸な遺伝子を持つ人間を送りだそうってのか?」
「ううん、作りたくても出来ない体だから…冗談よ」




