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阿呆星1


約束通り、翌朝から私と宿の夫婦は、同じテーブルに着いた。女将も旦那も素面のままだった。三人でココア風味の飲料で暖を取りながら、夫婦は私が話しを始めるのを待っていた。


「阿呆星って知っているかい?」私は、話しを頭の中でまとめてから、二人に訊いた。


「ああ、有名な流刑星だな」旦那が答えた。微妙にテーブルの上で組んだ手が震えている。体がアルコールを求めているを必死に抑えている様に思えた。


「まぁ、流刑星と言っても重犯罪というより、思想犯を閉じ込める所だね。各国家にとっては厄介物、だからと言って始末をすれば非難されるような人物の集積場を兼ねた惑星だね。重犯罪者は幽閉コロニー送りだ」


「そこに奴が居たのか?」旦那が身を乗り出した。


「そうだよ」私は、頷いた。


「あそこは無法者の集まりだからな。」シドは、サイドワインダーと名乗った男が、流刑にされたのだろうと思っていたようだった。もし、彼に暗殺を依頼した国家があれば、彼が目的を達成した後に、彼の口を封じるのが一番枕を高くして寝られることになる。


「いや、当時ガンマンとは知らなかったんだ。彼はガイドだったんだよ。」私は、シドが考えていそうな事を首を振って否定した。


「ガイド?」シドは、あんぐりと口を空けた「一流の彼が?」


「そう、当時彼は惑星のガイドをしていたよ。それにあそこは流刑星ではあるけど、自然が豊かでね。もし最後までガイドをしてもらえれば、きっと気持ちの良いところだったよ」


☆


 その惑星の宇宙港の近くにあるビジターセンターに彼は居た。見た目は痩せた初老の男性、テンガロンハットを深く被って日差しを遮り、センターの入り口の前で木製の椅子に座り両足を大きな丸いエンジンオイルのペール缶の上に乗せて本を読んでいた。


「こんにちは、ここはビジターセンターでですよね?」私が声を掛けると。


「ああ」と返事をして、彼は足を地面に下ろし、本をペール缶に置くと、帽子を脱いだ。「そうですが、何かご用ですか?」面長な顔に細い目から放たれる鋭い眼光が、私をじっと見た。


「ええ」私は男の持つ妙な威圧感を覚えた。流刑星なのだ、此所で出会う人間は皆犯罪者と思わねば成らないと思ってたからだろう。


「観光に来たのですけど、どこかお薦めのスポットはありませんか?」


「どんな所が好みだい?山?海?川?それともここの住人の生活を垣間見たいかい?」彼は、帽子を膝の上に乗せ両手をその上で組んだ。


「人にはあまり逢いたくありません、ここは自然が豊かだと聞きましたので」


「でも、こんなものを見たいとかあるだろ?」


「いえ、特に希望みたいのは無いのですけど」


「ふぅん、で、ガイドは?」


「行き方さえ教えてくれれば、要りませんよ」


「あんた、ここがどういう惑星かは知っているよな?」


「ええ、まぁでも、住人達は良い人だと?」


「まぁ、ほとんどが思想犯みたいな輩でな、この惑星に流された途端に抗うべき国家もなく、明日から食うべき食料もない奴等は、必死になって協力して糧を得ているよ。でも根っからの犯罪者という奴も居てな、そういう奴は、人を殺め財産や食料、配偶者を奪い取るような生活をしているんだよ」


「そう、だったのですか」


「ああ、だから何処に行くのでもガイド兼ボディガードは必要だよ。それに、観光するにも徒歩では無理だ。レンタカーもない。さらに、この惑星の条例で観光客はガイドを伴うことが決められている」


 がっかりだった、できれば一人だけでこの世界を周り、いずれ誰かがまたは、おもわぬ事故が私の人生を終わらせてくれるのが本望だったからだ。

「一人では無理ですか?」


「無理だね、法的にもガイドは必要だ。」男はきっぱりと言った。


「分かりました。どうすればガイドを雇えられますか?」


「中で手続きを・・・」男は立ち上がりビジターセンターを指したので、私はそこのドアを開けて中に入った。


 そこには、ひとつのカウンターがあるだけで、壁面にはあちこちの風景を写した写真が展示してあった。カウンターの向こう側では、一人の若い女性が小さな机に頭を載せたままうたた寝をしていた。


「ソフィア、お客だ」男は私の後ろから入ってっくると大声を出した。


女性は、ゆっくりと頭をもたげ、だるそうに私の方を向いたが、まだ状況がよく掴めていない感じで、ひとつ大きく息を吸って吐いてから、目をこすり、大きなレンズの眼鏡を掛けた。


「いらっしゃいませ」と彼女はふらふらと立ち上がり、カウンターの向こう側についた。

「何かご用ですかぁ?」体はこっちを向いたが、顔が下を向いたままだ。


「ガイドの依頼だ」私が返事をするより早く、男が私の後ろから太い声を発した。


「え?」ソフィアは、そこでやっと顔をあげ、数秒間私の顔を見つめ、視線を私の後ろに移した。


「えーと、ガイドですか。」そこで、カウンターになにやら沢山のパンフレットを、カウンターの下から取り出して置き始めた。


「どこへ行かれます?」とパンフレットを綺麗に並べ、私と後ろの男を交互に見つめた。

「決めていないんだ」私は、正直に答えた。「できれば、お薦めのスポットを教えて欲しい、普通に風光明媚な所でいいよ」


「う~ん、そう言われても。」ソフィアは悩みながらパンフレットとにらめっこを始めた。

「決めてないなら、俺が適当に周遊させようか?」後ろの男が、声を掛けた。


「あなたが?」私は、背後の男を振り返った。


「この人、ここのガイドもやっているんです。ソフィアが口を出した。


「も?って」


「本職は、殺しやだ」男は、にやりと笑った、始めてみせる笑いはこの台詞と相まって背筋が凍りそうな笑いに思えた。


「また、そんな言い方をする」ソフィアは、カウンター越しに身を乗り出した。「リック、お客が逃げるでしょ」そして私に向かって笑顔を見せた。「リックはここに追放された犯罪者を殺そうとしている奴から守っているの、結果、殺し合いにはなるけど、その分腕は確かよ」


「犯罪者を殺す奴が来るのですか?」


「まぁ、ここは色々な政府から嫌われた奴の掃きだめだからな、中にはその犯罪者が生きて此所にいると思っただけだけでも不本意な政治家だっているんだよ。流刑星に送られたことを斟酌して命までは取らねぇよなんか言う奴なんか希だ、真実を吐く口は閉じた方が良いに決まっている」


「ちなみに、この人のガイドだと、時々ボディガードの仕事も入るから注意してね」


「何を言う、その分俺はこの惑星をあちこち巡っているんだ。ヘタなガイドよりは役に立つ」リックは私に目を向けた。「で、どうする?」

 困った私は、ソフィアを見たが、彼女は笑顔で返すばかりだった。


「分かりました、周遊のガイドお願いします」場の雰囲気にすっかり飲まれた感じだった

「よし、決まりだな」リックは、笑いながら手を出した。私はその手を握り返した。「俺は、ここではリックと呼ばれている。」


「私は、サトー」当然偽名だった。


「では、サトーさん、出発は明日の朝。ちなみに此所の2階も良い宿泊施設だぞ」と言われても、流刑星の宇宙港にホテルが見当たらなかった以上は選択肢は無いと同じだ。


 そもそも、この惑星に来る奴はここに置き去りにされる奴と、流刑人を置いて戻ってしまうのがほとんどだ、私の様な者などほとんどいやしない。そのほとんどいない奴の為に誰がホテルなんか建てるものか。


「サトーさん泊まります?」ソフィアがフロントの中から声を掛けた。

「ええ、そうします」生き死にを考えていた割には、野宿するぐらいの覚悟もない私は、あっさりと答えた。


 部屋は、まるで場末の宿屋って感じだ。ベッドがひとつあるだけ。クローゼットも机もない、トイレは部屋にはなく廊下の突き当たりに二つの個室があるだけ。2階のシャワー室は立っているだけの面積しかなく、体を洗うと腕が壁にどんどんとぶつかる始末だった。それでも、泊まり客が他にいないこの宿は、なかなか気楽に過ごすことが出来た。そう、静けさだ。


 ソフィアが提供した夕食は、レトルトのスープに硬いパンだけだった。そもそも客がほとんど来ることがない惑星だ。飛び込みの客に出せる食事はこんなものだろう。


 静けさと疲労という睡眠薬が、私を一気に熟睡へと導いた。そして意識が未だ深夜の静謐の中に居るにもかかわらず、激しくドアが叩かれた。


「ほら、朝ごはんだよ、早くしないと出発の時間になるからね」ドアの前で、ソフィアの大きな声と何かを叩く音が響いた。「ほらほら!」と声は目覚まし時計の様に響き続けた。それは、私が寝ぼけ眼のまま、部屋のドアを開けるまで続いた。


 着替えを済ませてから、一階に降りてみれば、リックとソフィアがカウンターをテーブル代わりにして、食事を採っていた。


「何時だい?」私が訊けば、ソフィアが口を動かしながら、フォークで時計を指した。


「まだ、5時じゃないか」私は、そうぼやきながら、カウンターに付いた。そこには、ベーコンエッグとパンとコーヒーが置かれているだけだった。


「出発は6時だ。さっさと食って支度をしろ、サトーさん」リックが空になった皿を軽くフォークで叩くと、コーヒーをゆっくりと飲んだ。


「6時だって?聞いてないし」私は、不満を言いながらもパンを口にした。


「そうだったか?」リックは、ソフィアの方を向いた


「あんた話していなかったの?」とソフィアは、空になった皿を持って立ち上がった。


「ああ、ソフィアが説明済みかと思っていたが」


「そういうことらしいわ、ごめんね。で、食器は自分で洗ってね。カウンターの奥に流しがあるからさ」ソフィアは、舌をペロっと出してからカウンターの中に入っていった。


「で、今日の予定は?」私は、パンをコーヒーで流し込み、皿の上のベーコンエッグに取りかかった。


「まずは、普通に自然を満喫しに行うか」リックは、ゆっくりとカップをカウンターに置くと、体を伸ばして近くにある棚から一枚の紙を抜いて私の前に置いた。


「ウル=ガイ自然公園?」パンフレットの一番上に大きく書いてあった。「こんな荒涼とした土地の何処にこんな所があるんだ?」私に差し出された紙には、豊かな森林と大きな河、そしてコバルトブルーの海が描かれていた。しかし、今、この場所は宇宙港があるだけで、見渡す限り痩せた荒野が広がっているだけだ。風が吹けば、根無し草が砂塵と一緒に地面の上を転がっていても不思議でもない。


「この近くと誰が言った。」彼は、静かに答えた。


「遠いのですか?」


「外にある車で3日ほど移動する。尤も整備された道がないから、それだけの時間が掛かる」


「3日だって?ここに行くのに?そこまで、野営しながら?」


「もちろん、言わなかったか?」


「聞いていないが…」私は、この男が信頼できるのか不安になった。


「あーこの男、少ない口数で言った気になるから気をつけてね。でも優秀よ」カウンターから、ソフィアが口を挟んだ。


「ガイドは貴方しか居ないんだろ?」ふと私は気になっていた事を口にだした。


「そうだ」リックは、車に向かった。


「一人だけ?」私は、カウンターに向かって目を向けたが、ソフィアは聞こえないふりをして背を向けてしまった。


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