女将の話ー宇宙海賊 8
こいつ何を言っているんだ?レミはそう思いながらナイフをなれた手つきで振り回した怪物が持っていたナイフは切れ味が良かった。人の形をした緑色の化け物め、習った通りに繰り出す切っ先は、あっさりとナイフを持っていた化け物の喉笛を切り裂いた。
緑いろの液体がそこから噴出して、彼女の頬をかすめた。やせ形の怪物は、銃に似た武器で狙っていた。銃声が鳴り響き左腕から血がジワリと染み出した。しかしレミは痛みを感じていなかった。ぼんやりとその血のしみが広がりゆくのを傍観してから、自分の体を傷つけられたことに怒りを覚えた。
彼女は左右にスキップし、そして床に自ら転がって彼女の目には怪物としか映らないブレイドの脚下に素早く移動をすると刃先をブレイドの脚に突き立て腱を切り裂いた。銃声が再び鳴り響いたが、それは彼女の耳をわずかに削っただけだった。脚の自由を失ったブレイドの背後に回ると後頭部の頭の付け根に切っ先を埋め込んだ。頸椎に刃先が当たったが彼女はそのままそれを力任せに押し込んだ。悲鳴が聞こえた。
とりあえず、目前の敵は倒した。後は船内を徘徊する異星人どもを殲滅するだけだと彼女は考えた。殺せ!殺せ!誰かの声がぐるぐると頭の中でこだました。そう殺すんだ。海賊共を、エイリアンを、すべてが緑色に見えた。色彩の感覚がおかしいのは自覚ができた。
しかし、それ以上に暴力的な欲求だけが高まってきた。チョコは外部に接続できない状況に怖じけたまま、闇の中で震え続けていた。そうやって長い間レミの奥深くにこもっていると、ようやく少しずつ、ノイズが多いながらも情報が入ってきた。
<レミ、現状を教えて>チョコはようやくレミとの接続を再開した。しかしレミから応答はない、
<レミ?どうしたの?>
<うるへー!!>レミの声が罵声となって返ってきた。
<ぶっころす、みんな殺す、殺す、殺す>チョコは、レミ内部の状態を解析した。暴走ともとれるほどにテストステロンが増大している。悲鳴が聞こえた。
「こいつゾンビーか?弾があたっているのに」またしても悲鳴。内部の止血ナノマシーンが激しく移動している。内部に残っていた薬物検出マシーンが情報を渡した。その情報をネットに送る。ノイズが多い、エラーが4回続き、5回目でようやくサーバーに送ることができた。視覚からの情報をハッキングすると、そこには死体が転がっていた。喉をざっくり切られている。
<レミが殺した可能性が非常に高い>とチョコは踏んだ。レミに代わるか?しかし、レミが薬物に汚染されている場合、リスクが多すぎる。
通路の前に海賊らしい男が現れた、銃を乱射した。その一発がレミの脇腹を貫通したが、レミはそれを気にすることなく柔軟な身のこなしで男の背後に回るとナイフで男の首を横に引いた。血しぶきが噴出した。
<死ね、エイリアンども>
解析結果は、軍事用の麻薬だった。一般的に装甲歩兵のヘルメットに装着される小さいスプレー缶だ。それを吸入すると痛覚が麻痺し、暴力的になるほか、副作用で視覚に異常を来たし、赤が緑に見えるとのことだった。
解毒剤は存在しないが、分解しやすく効果の時間が短い。その時間の短さ故に開発が途中で中止になっている。解毒剤の開発がされていないのも、元となる麻薬が無いためだ。それがどこからか、漏れた。
このままじゃ、ナノマシーンの止血だけでは間に合わない。いつかレミは死に、私も死んでしまう。チョコの前に降下船のドアが見えた。
<まずい、あそこには人質がいるはずだ>チョコの危機感とは裏腹にレミはドアに向かって突進した。血が糸を引きながら床に落ちて行った。ドアから一人のおとこが顔を出した。レミの雄叫びとともに彼女の脚がもつれ前のめりになってヘッドスライディングをしながら倒れた。血が刷毛で履いたように床の上に模様を作った。そのままレミは動かなくなった。
チョコは、運動神経のみを制御し、その動きを止めていた。レミの怒り声が聞こえた。殺す皆殺さないと人類は滅亡するぞ!!幻覚からくる怒りは、未だ未だ収まり様がなかった。
着陸船から一人の男が飛び出していった。逃げたら撃つぞと言い残して去っていった。残る男も緊張した顔つきで銃を構えていた。銃口は水平を保ち、左右に動き続けていた。
「そういう事だったんだ。」私は、女将の言葉に頷いた。「ただ、私もその時着陸船に乗っていたんだよ」
私たち乗客は暫くおとなしく座っていた。警察が突入したのか?
ふと、私の隣の男が立ち上がった。私達を見張っていた男が持つ銃の先端がその男を向いた。
「動くな」見張りは金切声で叫んだ。しかしとなりの男は、ゆっくりと両手を挙げただけだった。その瞬間4人の乗客が立ち上がって何かを見張りに向って投げた。横に居た老人は、私に笑みを見せた。
「さて、座るのも飽きたし、どこかで一杯やりませんか?」見張りの男の手から銃がゆっくりと落ちた。そしてその銃の後を追うように見張りの膝が折れ、そのままばったりと
倒れてしまった。立ち上がった男たちは、何事もなかったように再び席に座った。
「あなたは…」私は、その老人の顔を思い出した。
「私は一介の会社の役員ですよ。先ほどの働きをしてくれたのは私のSSです。この船に有効な武器が持ちこめないので、二人では厄介でしたが、一人になってくれたので、助かりました。」
「どこかで見た様な気がしました。GSSのアーミー・ダグラス」その会社の名の通りシークレットサービスを主体として傭兵の派遣や潜入捜査の手伝いまでする、荒事の専門会社だ。老人は両肩をすぼませた。「まぁ、大した会社ではないですけどね」先ほど立ち上がった男の一人が再び立ち上がって老人の傍に来た。
「様子を見てきます、会長。」
「ああ、気を付けてな」
そんな短いやり取りをしてから男は、倒れた見張りをまたいでドアを開けた。そして掌をこちらに向けて来るなの合図を出してから出て行った。男は暫くのちにに戻ってくると男に小さく耳打ちをした。
「ふふ、どうやらウチの若い奴が知らぬ間にここを制圧してしまったらしいよ。」老人は、笑いながら私に告げた。それから大きな声をあげた。
「みなさん、どうやら安全なようです。しかし、あたり一面血の海なので気の弱い方は、ここにいた方がいいでしょう」
「ふうん」と私は鼻をならした
「なんだい?」と女将は怪訝な顔をした
「あのときの女の子が君だったとはね」
「いたのかい?」女将は顔をしかめた。
「まぁね、ボロボロになった君を担いで船内の医務室まで運んだのを手伝ったものさ、実にかわいらしい女の子だったよ」
「いまじゃあ、こんなおばさんになってしまったけどね」
「GSSのおっさんは?」
「ダクラスの爺さんはとっくの昔に死んだよ。しかもベッドの上でさ、私たちにはあり得ない最後だ」
「こうやって宿屋の女将をしていれば、それもあるだろう?」
「それもそうだね」女将の声は妙に頼りなげだった。
海賊事件は、金の掛かった陽動だった。海賊は、数が少ない宇宙警察をギャラクシーⅡに向けさせ、惑星の反対側にある。カジノを狙っていたのだった。
そして、まんまと陽動に乗ったため、カジノの売上金は見事に盗まれた。その金の行方も強盗団の行方も未だにしらない。
そして、旦那が帰ってきた、初めて見る素面な挙動で私たちのテーブルの横に歩いてきた「サイドワインダーの話を聞かせてくれないか」彼はどさっと椅子に座った。
「今日は、もう遅いから明日でも良いですか?」
「面白そうだね、私も混ぜて貰ってもいいかな?」女将がにやりと笑った。




