女将の話ー宇宙海賊 6
「やあ、おばさん、若くなったもんだな」顎髭を生やし、眉のない男がにやりと笑った「失礼ね、どこがおばさんなのよ」レミはむっとした。
「冷凍中のあんたは、肉体年齢が60だってな」髪を長く伸ばし、メガネをかけた男が銃を突き付けた。「お前は何者だ」
<やば!>
<通信がジャミングされてる、気づかれた>
「さっきから妙な双方向データ通信が行われているんでな、変だなと思って場所を特定するのに時間がかかってしまったが、お楽しみをしながらバーテンから情報を取ろうとしていたようだな、もう一度訊く、お前はなんだ?」
「面白い企画でお客を楽しませている最中だったみたいね」レミは、銃口を見ながら答えた。「これも、アトラクションの一部なの?」
「訊かれたことだけ答えろ」髪の長い男がいきなり銃口を突出してレミの口先に付けた。「サラおばさんよ」レミは、銃口に一指し指を付けた。
「おばさんはまだ氷漬けだ」眉なしが横から口を出した。
「だ、そうだ。」銃の安全装置が外され撃鉄が上げられた
<人生はここまでね>
<コピーでも取っておけばよかったわね>
「何者だ?」
「さぁ、正義の味方かしら?」
「正義の味方の御嬢さん、どこまで調べた」
「たくさんありすぎて覚えていないわ」
「言いたくなきゃ、言わせてやるさ」長髪がにやりと笑って引き金を引いた。プシュという音がしたかと思うとレミの服に金属性のシリンダが突き刺さっていた。
「これは…」レミはシリンダをさっと抜き取って床に落とした。しかし、たちまち重力の方向を見失った。目の焦点が定まらない、脚がふらついた、そして目を開いたまま彼女は床に伸びてしまった。
髭の男が、ふんと鼻を鳴らして嘲るように倒れた彼女を見下ろし、口の中に唾を溜めてからそれを彼女の顔にぼとんと落とした。「ドブネズミが」
「アロウ、そいつを電波暗室に運ぶぞ」髪の長い男が、銃をホルスタに仕舞いながら言った。「俺たちの行動をどこまで知っているか尋問しないとな」
「ブレード、そんな時間があるのか?何時までもバイトどもに客を扱わせておけない」
「そんなことはどうでもいい、こいつらはあくまでも餌だからな」
「とびっきりの毒餌だがな」アロウは、いひひと笑うと、レミの片足を持ってずるずると引きずって歩き出した。
レミは、引きずられながらも意識はしっかりしていた、ただ満足に身動きが取れないでいた。
<解毒用のナノマシーン、効いてないのかよ。不良品だなあれ>
<違う、ナノマシーンに信号が届かないの、そのため麻酔薬の特定ができないし、そもそも解毒剤の生産さえできないみたい>
<チョコ、あんたどうにかできない?>
<データの送受信にノイズが多すぎて、注入された薬品のデータをネットから取るのに時間がかかっているのよでも、少しずつデータは集まってきているわ>
<頼むわ、この姿かなりしんどいもの>
レミは長い間片足を持たれたまま廊下を引きずられていった。チョコはデータのノイズの多さに辟易していた。
送信も受信もチェックデジットはエラーを示したため、同じデータを何度も空間に向けて発射し続けていた。やがてレミの目に一つのドアが映った。レミの移動はそこで終わり、アロウはレミを担ぎ上げた。
<そのドアの向こうはいや!>チョコが頭の中で悲鳴をあげた。
<なんだ?見えなかった>
<電波暗室>
レミは、動けないままドアの中に連れ込まれた。
<いや、怖い、怖い、怖い>チョコの悲鳴が続いた。<暗いよ、寒いよ>
レミの中でチョコが震え続けていた。レミもまた冷ややかな孤独の中で動かない四肢に神経を集中していた。
白い壁に覆われた部屋には絨毯が敷かれ、片隅には水とか食料とか書かれた箱が積んであった。レミは絨毯の上に転がされた。そうか、ここは太陽風から避難するための場所か、レミはじっと考えた。これだけの設備となれば強力な太陽風だけでなく、微弱な電磁波まで完全にシャットアウトされていることだろう、すると今やチョコは完全にスタンドアロン状態となり、外から与えられる情報は一切入ってこない有様ってことだ。
しかし、量子もつれ通信機能は、まだ生きて居るはずだ。ただ、チョコは、一般回線を使えない為に、怖がってそれに気がついていない。




