女将の話ー宇宙海賊 5
ベッドの中に居てさえ、頬がひんやりとした。時間的にはもう朝を迎えている筈だ。にも拘わらず気温が上がっていない。そのまま布団にくるまっていても良かったのだが、風邪で消耗した体は、ひたすらに空腹を訴えていた。私は、できるかぎりの厚着をすると階下に降りて行った。
「おやおや、治ったかい?」女将も服を沢山着込んで酒を飲んでいた。
「おかげさまで」私は女将の前の席に付いた。「それにしてもこの寒さはなんです?」
「下の惑星の周りをまわっている衛星がこれと太陽の間にきてさ、今その衛星の影になっているのさ。今日は、一日中飲んでいるか寝ているに限るよ」
「そうですか…何か食うものあります?」
「ポトフしかないよ。」
「なんでも良いでも、もう腹が減ってしまって」
「元気になったってことだな、調理室の保温鍋に入っているから好きなだけ食っていいよ。」
そう言われて、私は寒さに背を丸めたまま席を立って調理室に入った。綺麗に整理整頓された清潔な場所だった。スレンレス製のテーブルの上に保温鍋が置かれその脇に深皿が重ねて置いてあった。私はそれを一枚取って保温鍋の蓋を開けた、寒さで大量の湯気が上がった。レードルで中身をすくうと大きな野菜と肉の塊が一緒に取れた。たっぷりポトを入れた皿を両手で大事そうに持ちながら、女将の居るテーブルに戻った。
「旦那さんは、まだ寝ているのですか?」静かなフロアーには私と女将しか居なかった。「いや、もう出て行った。」
「朝から飲みに行ったのですか?」
「奴は最近はめっきり素面な時間が増えてきたよ。むしろ私の方が酒浸りかな」
「寒いですからね」
「まったくだ」
「それで、あの話どうなったのですか?一匹捕まえるとか言ってましたけど」
「ああ、あれからか…」女将は、グラスを傾けた。「とりあえず、名を騙った女の部屋に行って、さっと汗を流したんだが、サイズオーバーな服ばかりでさ。仕方なく小銭をいただいて船内にある洋服屋でロボットから服を買ったのさ、ちょっと胸をはだけた情熱的な奴をね」
「捕まえるのにドレスを?」
「多勢に無勢だしね、そこは女であることも利用するさ、レミさまお得意のハニートラップさ」
レミは、ドレスの代金を匿名の電子マネーで支払うと、試着室に入ってドレスにすっかり着替えた。そこでショーツを脱ぎ、性器の隙間から出ているタンポンの紐を引いてその本体を取り出した。ほとんど入れたときの状態のままになっているそれを手で壊すと中から一つのカプセルが出てきた。それを口に放り込み唾で無理やり飲み込んだ。壊したタンポンは丸めて汗に濡れた自前の服のポケットに押し込んだ。
試着室を出るとロボットは味気ない言葉でお世辞を言った。レミはその言葉には反応せずただ今まで着ていた服を丸めてロボットに差し出した。
「もういらないから処分して」
「了解しました。」ロボットはそれを大事そうに受け取った。
レミは、そのままバーに向かった。カプセルの中にあったナノマシーンが体中のあちこちに分散してゆく…アドレナリンが、テストステロンが放出されるのを感じる。毅然として歩む彼女の姿に海賊達は一瞬訝しげな視線を送ったが、しょせんは寄せ集めに過ぎない。互いに連絡を取ることもせず、何か特別な存在とでも勘違いをしてそのまま作業を進めてた。
彼女はバーのカウンターに陣取り、背中に感じるにわか海賊達の視線を無視した。カウンターの中の男も、一味であることは明白だった。強い印象を残すために彼女は敢えて強い酒を頼んだ。既に体内に取り込まれたナノマシーンは解毒作用を12時間にわたり行う。酒に酔うつもりなら邪魔な存在だが、素面でいるつもりならば強力な味方だ。
次から次へとお代りを続ける彼女にバーテンも背後にいる男たちもざわめき始めた。むしろとんでもない奴が来たと思っているだろう。にわか海賊達は、翌朝からの見張りの心配を始め、三々五々に店から去り、バーテンはいい加減店を閉めたがっていた。
「あら、もう閉めるの?」レミは飲み足り無さそうに言った。「話の続きをしない?できればあなたの部屋で…」バーテンは、いくらか酒を飲んでいたせいで、気が大きくなっていた。赤くなった目はじっと彼女の胸元ばかり見ている。
「いいいとも」男は、そういって店の片づけを始めた。静まりかえった船内の通路には夜の交代についた男たちがあくびをしながら、腕を組んで歩く二人を羨ましそうに見送った。
ベットの上の行為は、セクサロイドが与えてくれる快楽に比べれば、子供じみたものだった。レミはひたすら感じているという演技を続けながら、どうやってこの男から情報を聞き出そうかと思っていた。
「ねぇ、あんたお金もらったらどうするの?」行為を終え、密着した体を離そうとした男の背中に手を回して彼女は男の動作を押しとどめた。
萎縮しつつある男のものは自然と彼女の中から出て行こうとしていた。男の体液が流れ出てゆく感触が伝わった。
「微々たるものさ、まぁカジノでも行って増やそうかなと思っているよ」男は、レミの上に覆いかぶさったままキスをした。
「微々たるもの?まさか」レミは男が何かを隠しているものと思っていた
「乗客を驚かすための、ハイジャックショウで幾らもらえると思っているんだい…ああ、あんた乗客だったけ、まずいなぁ。言っちまったよ」
<なんだって、そんなバカな>レミは、このふざけた催しにのせられただけなのかと思った。
<それは無いと思う>チョコが返事をした<確かに身代金の要求が来ている>
<しかしスカルスパイダーってこんな奴を雇わないとならないほどの弱小だったけ?>
<別働隊がどこかにいるかも、ちょっとライブラリをアクセスするわ>
<任せたわ>
「でも、面白いのじゃない?」レミは男の髪に指をからませた。
「本当かい、そう言ってくれると嬉しいよ」男は、楽しそうな声を出した
「きっと、大丈夫よ。私、シャワーを浴びているから、先に寝ていていいわよ」男はレミの体から降り、レミは裸体のままベッドから降りるとバスタオルを巻いてバスルームに入った。男の匂いを消すように丁寧に全身を洗い、特に男の侵入を許した個所は念入りに奥まで流した。
バスルームから出ると、男は鼾をかいて大の字になっていた。レミは服を着て静かに男の部屋を出た。
そこに、ブレードとアロウが待ち構えていた。




