女将の話ー宇宙海賊?1
翌朝、一階にあるカフェではニュースを流していた。どこぞの海賊が宇宙船を襲ったという事件だった。そこへスクランブルエッグと合成肉で作ったランチョンミートとビールを持ってきた女将が「ふーん、また物騒なことで」と言った。「私が居るならさっさと捕まえるのだけどね」
「引退したのじゃないのか?」私がいうと、女将は、料理をテーブルに置いた。
「残念ながら死ぬまで私の会社は私を解放してくれないよ」
「おやおや、じゃあこれもも仕事なのかい」
「ここに居てもネット上での仕事ならチョコが勝手にやってくれるのよ。もっとも私自身に命令が下って、この老体に鞭打ってでも任務に当たれと言われれば、仕事をしないといけないけどね、シドを此処においてさ、ひでえ話だよ」
「老体とは思えないが、そうなると心配だな」私は、ビールを飲んだ。女将は、ため息をついて前に座った。
「そういや、船で惨殺をしたって話をまだ聞いていなかったかな?」私は、海賊のニュースを見て思い出していた。
「ああ、あれ未だ覚えていたのかい」女将は、頭をテーブルの上に乗せた。
「だるいなぁ、あんたの風邪が移ったみたいだよ」私は女将の額に手を当てた。結構な熱が出ている。
「以外とやわなんだな…医者に行ったほうがいい」
「あんたに言われたくない」と目を閉じた。「ああ、テーブルが冷たくて気持ちいい」
「あれは、何時だったかなぁ…寒い寒いコールドスリープさせられて本当に困ったよ…ああ、やっぱり寝るわ、駄目。」女将はふらふらと立ち上がった。
「医者にいけよ」
「大丈夫、チョコが私をモニターしているから。疲れが溜まったみたい」私は、女将に肩を貸すと彼女に部屋に連れて行った。雑多なものにあふれ、整理が出来ていない部屋だった。
「余り見るなよ。汚い部屋だろ…」彼女はそう言ってダブルベッドの上に倒れるように潜り込んでしまった。私は、壁に貼られた古い写真や、意味不明な置物をちらりと見てから、部屋を出た。
キッチンは彼女の部屋に比べると、機能的でかつ整理されていた。私は、あちこちの引き出しを開けてタオルを見つけると。それを水でにぬらして軽く絞り再び彼女の部屋に戻ると、既に寝息を立てている女将の額にそれをそっと乗せた。
「ありがとう」唐突に女将は目を開けた。
「寝た方がいい」と部屋を出ようとすると「待ちな」と弱弱しい声がした。「続きを話してやる」
「なんの?」
「惨殺事件のさ…」
「後でいいよ」
「ふふ、本当は私がやったんだよ」女将はくすりと笑った。「やっぱり後にしようね、刺激が強すぎる話なんだ」
テーブルで、やや気の抜けたビールを飲み。冷めた朝食を食べていると老夫婦らしき二人連れが入ってきた。二人はカウンターに向かったので私は、「ああ、女将は風邪で寝込んでますよ」と後ろから声をかけた。
「ああ、そうですか…」男は、困った風に言った。「予約を入れていたのですけど、分かる方はいますか?」
「旦那は、もう行ってしまったしねえ」私は口の中のものを飲み下すと。席を立ってフロントの中に入った。勝手知ったる人の家とはいかないが、帳簿のある場所は知っていたので、それを取り出した。そこに本日からの予約で”モルティメ夫妻”と書いてあった。
「モルティメ夫妻ですか?」と訊くと僅かな躊躇いの後に応えがあった。
「そうです」と答えた二人は、同じようにころころと太り、同じように縮れ毛で、同じように小さい目で、違うのは鼻髭があるかどうかの違いくらいしかなかった。それがどこかで見たような風体だなぁと記憶のどこかにひっかりながらも、私は鍵を入れてある棚を見てそこが空っぽなのを確認すると「301号室です。鍵は挿したままになっていると思います」と言った。
「そうですか…」男の方が、不安そうな声を出した。そりゃ客が勝手に応対をしているのだから、不安に決まっている。「では、部屋に居りますので女将が起きたらお伝えください」と小さい声で言った。
「そうした方がいいです。長旅でお疲れでしょうから」私の言葉に二人はうなずいて、二人ともおそろいの同じサイズの旅行にしては小さい鞄を持って階段を上がっていった。
「もし落ち着いたら、ここで一杯やりませんか?」暇な私は二人に声をかけた。
「はい」と二人は似た顔を振り返らせて答えた。しかし、二人が降りて来たのは、夕暮れ間近で私はすっかり出来上がっていた。その時女将もやっと起きてきた。
「朝から飲んでいたのかい?」と訊いた女将に私はろれつの回らない言葉で、「しょうなのら、ひまでひまーで、ボトル一本なくなりまひた。ごめんなさい」と答えた。
「あーあ、もうさっさと寝なさい、後で湯たんぽを持っていってやるから」と私に叱りつけ。夫妻には「どなた?」と訊いた。
「モルティメです、貴方を訪ねろといわれまして」男が答えた。
「ああ、予約があった人だね。部屋は?」
「この人に301号室だと言われましたので、そこに入りましたけど」と男は私の方を見て言った。
「ふぁい、勝手に帳簿をみてあんないしまひた」私は、グラスにまだ残っている酒を勿体無いとばかりに煽ってから立ち上がったが、足がふらついて思うように前に進めない。
「もうそんなになるまで飲むかねぇ、モルティメさんちょっとこの人を部屋に放り込むまでそこで座って待っててね」私は、そこから先の事は覚えていないが、おとなしく寝てしまったようだった。




