制裁の七十二変化〜課金カンスト勇者VSエプロン姿の料理人。チートの剣は『お箸』でつまんでへし折るもの〜
制裁の七十二変化〜課金カンスト勇者VSエプロン姿の料理人。チートの剣は『お箸』でつまんでへし折るもの〜
「死ねェェェェェェェッ!!」
勇者ゼロスの絶叫がポポロ村の広場に響き渡る。
【マネー】のスキルで課金し、一時的に全ステータスをカンスト状態まで引き上げたゼロスの突進は、確かに常軌を逸した速さだった。
彼が踏み込んだ大地はクレーターのように陥没し、手にした純白の聖剣が空気を切り裂き、鋭い破空音と共に俺の首筋へと迫る。
ステータスの暴力。
並の騎士や冒険者であれば、剣の軌道すら見えず、気がついた時には首が宙を舞っているだろう。
――ヒュッ!
だが、俺は首に巻いたタオルを直しながら、半歩だけ右にズレた。
たったそれだけで、ゼロスの必殺の横薙ぎは俺の鼻先数ミリを空振りし、虚空を切り裂くだけに終わった。
「なっ……!?」
「大振りすぎる。それに、剣に『殺気』じゃなくて『ドヤ顔』が乗ってるぞ。カメラを意識しすぎてフォームがガタガタだ」
「ふ、ふざけるなァッ! まぐれ避けのくせに!」
激昂したゼロスが、今度は袈裟懸け、逆袈裟、突きと、怒涛の連続攻撃を繰り出してくる。
一撃一撃が岩盤を粉砕するほどの威力を持った、カンストステータスによる暴風のような連撃。
俺はエプロンのポケットに左手を突っ込んだまま、仙術による【気配察知】と最小限の体重移動だけで、そのすべてをヒラリヒラリと躱していく。
「あたらねぇ! なんで当たらないッ!? 俺の敏捷ステータスは現在『999』だぞ! エプロン姿の村人に躱せるはずがないんだよォォッ!」
「ステータスがいくら高くても、動かす中身が素人じゃ意味がない。お前の剣は『点』じゃなくて『線』で丸見えなんだよ。……ほら、ここも隙だらけだ」
俺はスッと懐に入り込み、ゼロスの鎧の胸当てを指先で軽く小突いた。
トンッ、という軽い衝撃。
だが、仙術で練り上げられた『気』を直接流し込まれたゼロスは、「ごはぁっ!?」とカエルのような声を出して数メートル後方へ吹き飛ばされ、無様に地面を転がった。
「ぜ、ぜぇっ、はぁっ……! ば、化け物め……!」
「さて。躱してばかりじゃ、せっかくの仕込みが終わらないからな。少しばかり『調理』してやるか」
俺が両手を軽く鳴らすと、ゼロスは顔を真っ赤にして立ち上がった。
「なめるな! ステータスで勝てないなら、課金武器の絶対的な強度で貴様の四肢ごと叩き斬るまでだ! 喰らえ、一千万Gの聖剣の輝きをォォォッ!!」
ゼロスが聖剣を上段に構え、渾身の力を込めて脳天へ向けて振り下ろしてくる。
今度は躱さない。
俺は右手をスッと前に出し、人差し指と中指を揃えた。
俺の魂に刻まれた【齊天大聖・孫悟空】の権能。
あらゆる姿形へと変化する魔術を、自らの肉体の一部に適用する『武器化』の法。
「――【七十二変化・武器化(アダマンタイトの菜箸)】」
俺の二本の指先が、鈍い金属の光沢を帯びた。
そして。
ガキィィィッ!!!
「…………は?」
ゼロスの目が、限界まで見開かれた。
彼が渾身の力で振り下ろした純白の聖剣。
それを、俺は『二本の指(菜箸)』で、まるで豆粒でもつまむかのように、あっさりと挟み止めていたのである。
「ば、ばか、な……! 神界ショップの、最高レアリティの聖剣だぞ!? 指二本で白刃取りだとォ!?」
「料理人にとって『箸』は身体の一部だ。どんなに暴れる活きのいい食材でも、こいつでしっかり押さえ込むのが基本でね」
俺が指先にクイッと力を込める。
パキィィィィンッ!!
甲高い音と共に、一千万Gの課金聖剣が、飴細工のように無惨にへし折れた。
「あ、あぁぁぁっ!? 俺の、俺のSSR武器がァァァッ!?」
「次。硬い肉は、しっかり叩いて筋を切らないとな」
聖剣を失い呆然とするゼロスの腹部に向け、俺は変化の術を適用した右拳を振りかぶった。
「――【七十二変化・武器化(肉叩きハンマー)】」
俺の拳が、巨大なトゲのついた金属製の肉叩きへと変化する。
ドゴォォォォンッ!!
「ぐぼぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ゼロスの腹部にクリーンヒットした肉叩きの衝撃で、ミスリル製の聖なる鎧が粉々に砕け散り、彼はボールのように宙へと跳ね上げられた。
「さらに次。食材は焦げないように、裏返す」
「――【七十二変化・武器化(巨大フライ返し)】」
宙を舞うゼロスの背後に回り込み、左腕を変化させた巨大なフライ返しで、彼の背中をフルスイングで叩きつける。
バァァァァンッ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
地面に激突し、バウンドして土埃を上げるゼロス。
ステータスがカンストしているため即死は免れているようだが、ダメージと屈辱で完全に白目を剥き、口から泡を吹いていた。
圧倒的。
あまりにも一方的すぎる、料理器具による制裁。
村人たちが言葉を失う中、上空に浮かぶ不可視のカメラドローンを通じたゴッドチューブのコメント欄は、爆発的な勢いでスクロールしていた。
【嘘だろwww聖剣が箸でへし折られたwww】
【肉叩きとフライ返しでコンボ決めるとか神かよ!】
【チート勇者(笑)何もできてねぇじゃん!】
【剣の振り方が完全に素人。ステータス頼りの金持ちプレイヤーが、PSカンストのガチ勢にボコられてる構図www】
【この料理人、最高すぎるだろ! スパチャ投げるわ!】
* * *
一方、神界のモニタールーム。
「あああああああああっ! やめろォォォ! 俺の、俺のシナリオがァァァァッ!」
炎上神ワイズは、新しく用意したモニターの前で頭を抱え、絶望の叫びを上げていた。
彼が思い描いていた『勇者ゼロスの悲劇的な救出劇』は、跡形もなく崩れ去った。
画面に映っているのは、課金アイテムをポンポンと無駄遣いした挙句、エプロン姿の村人に料理器具でジャグリングされている、世界一情けないピエロの姿だ。
PVは歴代最高を記録しているが、コメント欄はワイズの契約勇者への嘲笑と、謎の料理人への大歓声で埋め尽くされている。
「おのれ、おのれおのれ……ッ! たかが辺境の村人風情が、神である俺にコケをかく気か……! こうなったら、ヤラセもクソもない! どんな手を使ってでも、あの目障りな料理人を物理的に消去してやる!」
完全にプライドを粉砕され、理性を失ったワイズは、エンジェルすまーとふぉんの『管理者権限』の画面を開いた。
「立て、ゼロス! 役立たずのゴミが……貴様のそのカンストしたステータスを触媒にして、無理やり『レイドボス』に変異させてやる!」
ワイズがパスワードを打ち込み、実行ボタンを乱暴に叩きつけた。
* * *
「ひっ、ひぃぃっ……! た、助けっ……」
ポポロ村の広場。地面を這いずりながら命乞いをするゼロスの身体に、突如として異変が起きた。
「な……?」
俺は、足を止めた。
ゼロスの身体から、ドス黒い瘴気のような魔力が間欠泉のように噴き出し始めたのだ。
「ぎ、ぎゃあああああああああっ!? 体が、俺の体がァァァッ! ワイズ様!? なんだこれは、話が違ッ――ギガァァァァァァッ!!」
ゼロスの悲鳴が、くぐもった獣の咆哮へと変わる。
彼の肉体がボキボキと異様な音を立てて膨張し、白銀の鎧を内側から突き破り、どす黒い体毛と何本もの異形の腕を持つ、体長二十メートルを超える巨大な魔獣へと変異を遂げたのだ。
「強制的な魔物化か。……神様ってのも、随分とタチの悪いブラック上司らしいな」
俺は呆れながら、大きく膨れ上がった魔獣を見上げた。
自我を完全に失った魔獣ゼロスが、天に向けて狂乱の咆哮を上げる。
――グオォォォォォォォォォォッ!!!!
その咆哮が放つ衝撃波は凄まじかった。
突風が巻き起こり、村の広場にあったベンチやテントが吹き飛び、そして。
メシャァァァンッ!!
突風の余波が、俺がいつも大切に使っていた『野外キッチンの屋根』と、『村人たちが飯を食うための巨大な木製テーブル』を、無惨にも粉砕し、吹き飛ばした。
「あ……」
キャルルとマンミアが、息を呑む。
粉々になったテーブルと、ひしゃげた調理器具の破片が、俺の足元に転がってきた。
「…………」
俺は、足元に転がったへこんだお玉を、ゆっくりと拾い上げた。
静寂。
魔獣の咆哮が響く中、俺の周囲だけが、まるで真空にでもなったかのように音が消え去っていた。
「……おい」
俺の声は、地獄の底から響くように低かった。
ふつふつと。
俺の身体の奥底から、これまでの仙術とは比べ物にならない、圧倒的で、暴力的で、神々しい『金色のオーラ』が漏れ出し始める。
「村を焼くのは止めた。命乞いも聞いてやった」
俺の金色の髪が、重力に逆らうようにゆっくりと逆立ち始める。
足元の石ころが、放たれる覇気に耐えきれず、フワフワと空中に浮遊し、そしてパチンと弾け飛んだ。
「だけどな。……俺の『台所』と『食堂』を壊す奴だけは、絶対に許さねぇ」
ギリッ。
俺の瞳の中で燃える【火眼金睛】の炎が、かつてないほどの輝きを放つ。
逃亡社畜の堪忍袋の緒が、完全に切れた瞬間だった。
読んでいただきありがとうございます。
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