覚醒・大聖形態〜俺の食堂を壊した代償は高くつくぞ。神々すら平伏す最強形態の顕現〜
覚醒・大聖形態〜俺の食堂を壊した代償は高くつくぞ。神々すら平伏す最強形態の顕現〜
へこんだお玉を握りしめた俺の拳から、ギシッ、と鈍い音が鳴った。
ポポロ村の広場に吹き荒れる、魔獣と化したゼロスの狂乱の咆哮。その突風によって粉々に破壊された野外キッチンの屋根と、村人たちが笑顔で飯を食うための巨大な木製テーブルの残骸が、俺の足元に散乱している。
「あーあ。……ヒノキの一枚板で作った、特注のテーブルだったのにな」
俺は、ひしゃげたお玉を放り捨てた。
カラン、と無機質な音を立てて転がるお玉。
それを合図にしたかのように、俺の身体の奥底で、これまで制御し、押し留めていた『枷』が外れる音がした。
「グルルルルルルルッ……!!」
体長二十メートルを超える異形の魔獣へと変異したゼロスが、俺に向かって三つの首を鎌首のように持ち上げる。
自我を失ったはずのその凶悪な瞳に、一瞬だけ『怯え』の色が浮かんだのを、俺は見逃さなかった。
獣の直感というやつだろう。目の前のちっぽけな人間が、自分よりも遥かに上位の捕食者であると、本能で悟ったのだ。
「遅いぞ」
俺の足元から、眩いばかりの『黄金の光』が漏れ出し始めた。
ただの魔力光ではない。それは、神話の時代から蓄積され、練り上げられた極上の仙気。
「お前は、俺の『日常』の逆鱗に触れた」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!
ポポロ村の大地が、激しく震動し始めた。
俺の全身から噴き出した黄金のオーラが、天を突く巨大な光の柱となって立ち上る。
重力が狂ったかのように、俺の周囲の小石やテーブルの破片がフワフワと宙に浮き上がり、そしてオーラの圧力に耐えきれずに空中でパチン、パチンと弾け飛んでいく。
「ギ、ギガァァァァァァァァッ!!!」
恐怖に駆られた魔獣ゼロスが、死に物狂いで最大の攻撃を放った。
三つの巨大な顎が大きく開かれ、そこから周囲の空間すらも歪ませるほどの、ど黒い『瘴気のブレス』が極太のレーザーとなって放たれた。
直撃すれば、ポポロ村どころか後方の山脈すらも消し飛ぶであろう、正真正銘のレイドボス級の絶望の一撃。
「クウゴさんッ!!」
「いけません、逃げて――ッ!」
キャルルとマンミアが悲鳴を上げる。
だが、俺は一歩も動かない。いや、動く必要すらなかった。
ズドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
黒いブレスが俺の身体を直撃し、凄まじい爆発と衝撃波が村を包み込む。
もうもうと立ち込める土埃と瘴気の煙。
『ハハハハハハ! やった、やったぞ! いくら生意気な口を叩こうが、魔物化したチート勇者のフルパワーブレスに耐えられるはずが――』
上空のカメラドローン越しに、炎上神ワイズの歓喜の叫びが響いた、その時だった。
「――火加減が強すぎる。食材が黒焦げになるだろ」
煙を切り裂いて、低く、冷ややかな声が響いた。
スゥッ、と瘴気の煙が晴れていく。
そこに立っていたのは、無傷の俺だった。
エプロンに汚れ一つ、焦げ跡一つついていない。
俺の身体を包み込む黄金の仙気が、瘴気のブレスをまるで川の激流を割る大岩のように、完璧に左右に弾き飛ばしていたのだ。
「な……?」
ドローン越しのワイズが絶句する。
俺の金色の髪が、重力に逆らうようにゆっくりと逆立ち始めた。
瞳の中で燃える【火眼金睛】の炎が、周囲の空間を陽炎のように歪ませる。
溢れ出した黄金の仙気が、俺の身体の表面で実体化し、光り輝く『神話の闘衣(鎧)』を形作っていく。
物理攻撃無効。
魔法攻撃無効。
状態異常無効。
あらゆる理不尽な法則をねじ伏せる、絶対強者の顕現。
俺のユニークスキル【齊天大聖・孫悟空】の、最終形態。
「――【大聖形態】」
バァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
爆発的な覇気が放たれ、ポポロ村の上空を覆っていた分厚い雲が、まるでモーゼの海割れのように円形に吹き飛んだ。
太陽の光すら霞むほどの、圧倒的で、暴力的で、ひどく神々しい黄金の輝き。
その光の中心で、俺は静かに魔獣を見据えていた。
「あ……ぁ……」
背後で、キャルルがへたり込んでいた。
恐怖ではない。圧倒的な力と、神々しいまでの美しさに、彼女のウサギの耳が震え、瞳がトロンと潤んでいる。
村を守るために、自分の食事の時間を守るために、理不尽に激怒してくれた黄金の背中。ヤンデレ気味な月兎族の村長にとって、これほど庇護欲と依存心を煽られる光景はないだろう。
マンミアもまた、両手を胸の前で組み、祈るような目で俺を見つめている。
――そして。
この圧倒的な覚醒の光景を、天界のゴッドチューブは逃さず全世界に生配信していた。
【な、なんだこのオーラ!? 画面越しなのに息ができない!】
【神だ……いや、神以上の『何か』だ!】
【おい、PVカウンターがバグってるぞ!? 数字が読み取れねぇ!】
【カッコよすぎるだろ! 一生ついていくわ!!】
【ヤバいヤバいヤバい、画面から黄金の光が漏れてるんだけど!?】
コメント欄が、見たこともない速度で滝のように流れていく。
視聴率(PV)は限界を突破し、ゴッドチューブのシステムそのものが処理落ち寸前の悲鳴を上げ始めていた。
『嘘だろ……。システムエラー!? PVが、俺のチャンネルの制御権限が乗っ取られていく……ッ! やめろ、やめろぉぉぉっ!』
ワイズ神がパニックに陥り、配信を強制終了させようとエンジェルすまーとふぉんをタップする。
しかし、俺の【大聖形態】が放つ規格外の存在感(データ量)が、システムの管理者権限すらも強制的に上書き(オーバーライド)し、配信を切ることすら許さなかった。
「さて」
俺は、黄金の闘衣を揺らしながら、ゆっくりと一歩を踏み出した。
ドンッ。
足音が響いた瞬間、俺の姿がフッと掻き消えた。
「ギ、ギェェッ!?」
魔獣が慌てて周囲を見回す。
だが、遅い。
「下ごしらえの基本は、繊維をしっかり叩き潰すことだ」
魔獣の巨大な顎の真下。
いつの間にかそこに立っていた俺は、黄金の仙気を纏った右拳を、無造作に魔獣の腹部へと突き出した。
ドッッッッ…………!!!
一瞬の静寂。
そして。
ズドバァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!
「ンギャァァァァァァァァァァァァッ!!!」
体長二十メートル、体重数十トンはあるであろう巨大な魔獣の身体が、まるでピンポン玉のように、くの字にへし折れて上空へとカチ上げられた。
俺の放った拳の衝撃波が魔獣の体内を駆け巡り、背中側から巨大な衝撃の円錐となって空を貫く。
「なっ……!?」
「バカな、あんな巨大な魔獣を、たった一撃で……!」
マンミアと村人たちが、信じられないものを見たように空を見上げる。
雲を突き抜け、遥か上空へと打ち上げられた魔獣ゼロス。
俺は、その無様な姿を見上げながら、右耳に指を当てた。
「終わりだ。俺の厨房を荒らした罪、その身で払え」
引き抜いた一本の針。
それは瞬く間に、両端に黄金の装飾が施された神話の棍棒――【如意金箍棒】へと姿を変える。
「……見せてやるよ。神話の重さってやつをな」
俺は如意棒を頭上でクルリと回し、両手でしっかりと握りしめ、天高く打ち上げられた魔獣へとその切っ先を向けた。
黄金の仙気が、如意棒へと激流のように流れ込んでいく。
ポポロ村の空気が、いや、世界そのものが、これから放たれる一撃の恐怖に震え上がっていた。
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