天を砕く如意棒の鉄槌〜チート勇者もヤラセ配信も、極大化の一撃で塵に還してやる〜
天を砕く如意棒の鉄槌〜チート勇者もヤラセ配信も、極大化の一撃で塵に還してやる〜
上空数千メートル。
雲を突き抜け、天空へとカチ上げられた巨大な魔獣――勇者ゼロスの成れの果ては、重力に従ってゆっくりと落下を始めようとしていた。
その遥か下。
ポポロ村の大地に立つ俺――クウゴ・タイセイは、黄金の闘衣を揺らめかせながら、両手で握りしめた【如意金箍棒】の切っ先を、天空の魔獣へと真っ直ぐに向けていた。
「さて。粗挽きミンチの時間だ」
俺の魂に刻まれた【齊天大聖・孫悟空】の力。
その仙気が、激流となって如意棒へと注ぎ込まれていく。
ミシッ……ミシッ……と、世界そのものが『質量』の増大に悲鳴を上げ始めた。如意棒の周囲の空間が、陽炎のようにグニャグニャと歪んでいる。
一方、遥か上空で光学迷彩を展開し、この光景を全世界へ生配信し続けているゴッドチューブのカメラドローン。
その向こう側、神界のモニタールームでは、炎上神ワイズが完全に錯乱状態に陥っていた。
『や、やめろ……! やめろォォォォッ!! 撃つな! それを撃ったら、俺の、俺の契約勇者が消滅しちまう! 莫大な課金とコストをかけた俺のチャンネルの命綱なんだぞォォォッ!』
エンジェルすまーとふぉんを叩き割りそうな勢いでタップし、システムの強制シャットダウンを試みるワイズ。
だが、画面は全く反応しない。
ゴッドチューブのシステムは、俺の放つ【大聖形態】の絶大な存在情報を処理しきれず、完全にフリーズ状態に陥っていたのだ。
コメント欄だけが、狂ったような速度で流れていく。
【おい、あの棒からとんでもない光が溢れてるぞ!?】
【画面越しなのに圧力がエグい! 結界張れ、結界!】
【チート勇者(笑)逃げてー! あ、空中にいるから無理かwww】
【歴史が変わるぞ……神話の顕現だ……ッ!】
画面の向こう側の熱狂と恐怖。
だが、俺にとってはどうでもいいことだった。
俺の頭にあるのは、魔獣の咆哮で吹き飛ばされた『ヒノキの一枚板で作った特注のテーブル』と『俺のキッチン』のことだけだ。
「俺の食堂を荒らした罪、その身で払え」
俺は、息を深く吸い込んだ。
そして、両腕の筋肉を限界まで膨張させ、天空へと向けて如意棒を突き出した。
「伸びろ、如意棒――」
俺の瞳の中で、【火眼金睛】の黄金の炎が爆発的に燃え上がる。
「――【極大化】」
ドッバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!
光が、弾けた。
俺の手の中で握られていた如意棒が、瞬きをする間すらなく、直径数十メートル、長さ数万メートルという、文字通り『天を突く柱』へと極大化したのだ。
あまりにも巨大で、あまりにも暴力的な質量。
極大化した如意棒は、音の壁を幾重にも突破しながら、黄金の閃光となって天空へと突き進む。
「ギ、ギギガァァァァァァァァァァァッ!?」
落下しつつあった魔獣ゼロスが、下から迫りくる『巨大な黄金の壁』を見て、絶望の悲鳴を上げた。
だが、回避など不可能。防御など無意味。
ズギャァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!
極大化した如意棒の先端が、魔獣ゼロスの巨体に激突した。
衝突の瞬間、魔獣の強靭な肉体も、課金によってカンストしていたステータスも、まるで薄い紙切れのように容易く粉砕された。
血肉すら残らない。
圧倒的な質量と仙気の奔流によって、ゼロスという存在そのものが、原子レベルまで分解され、完全な『塵』となって消滅したのだ。
だが、如意棒の伸びはそれだけでは止まらない。
魔獣を消し飛ばした黄金の柱は、さらに上空で光学迷彩を展開していた『ワイズ神のカメラドローン』をも、容赦なく飲み込んだ。
『あ――――』
神界のモニタールーム。
ワイズ神の視界が、圧倒的な黄金の光で真っ白に染まった。
そして。
バァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
ドローンを粉砕した如意棒の『余波』が、次元の壁を突き抜け、神界のモニタールームのモニター群を物理的に爆砕した。
エンジェルすまーとふぉんが火花を散らして爆発し、ワイズ神は凄まじい衝撃波をまともに食らって、壁まで吹き飛ばされた。
「ぐはぁぁぁぁぁぁっ!?」
白目を剥き、全身から煙を上げながら床に崩れ落ちるワイズ神。
彼が企てたヤラセ配信チャンネルは、文字通り『完全消滅(アカウントBAN)』となった。
――そして、地上。
「ふぅ」
俺が如意棒を元のサイズに縮め、耳の奥へ収納すると、天空を覆っていた分厚い雲は、綺麗に円形にくり抜かれて消え去っていた。
抜けるような青空から、眩しい陽の光がポポロ村へと降り注ぐ。
圧倒的な静寂。
村人たちは、空を見上げたまま、誰一人として声を出すことができなかった。
チート勇者も、巨大な魔獣も、すべてが幻だったかのように消え去った。残されたのは、黄金の闘衣を纏ったまま、涼しい顔でエプロンを直している一人の料理人だけ。
「……あ……あぁ……」
キャルルが、力の抜けた足でへたり込んだまま、震える声を漏らした。
マンミアもまた、両手で口を覆い、滝のような涙を流している。
「あんな……あんな神様みたいな力……。本当に、クウゴさんなんですか……?」
キャルルの問いに、俺は身体を包んでいた【大聖形態】の黄金のオーラをスゥッ……と体内に収束させた。
逆立っていた金髪が元に戻り、瞳の炎も静まる。
いつもの、少し目つきの悪い、ただの逃亡社畜の顔だ。
「神様なんかじゃないさ。俺はただの、美味いメシを作るのが好きな料理人だ」
俺はそう言って笑うと、粉々に破壊された野外キッチンの屋根と、特注の木製テーブルの残骸へと歩み寄った。
「さてと。害虫駆除は終わったが……このままじゃ、メシが食えねぇな」
俺は、砕け散った木材の破片に向けて、そっと手をかざした。
俺に宿る【仙術】は、破壊だけではなく、創造と復元の力も併せ持っている。
「――【仙術・復元】」
俺の掌から優しい光が放たれた。
すると、散らばっていた木材の破片が、まるで時間を巻き戻すかのように空中に浮かび上がり、カチッ、カチッ、と音を立てて元の形へと組み上がっていく。
数秒後。
そこには、傷一つない完璧な状態の野外キッチンと、ヒノキの一枚板で作られた特注テーブルが、完全に元通りになって鎮座していた。
「……っ!」
「す、すごい……! 一瞬で直っちゃったの!」
リーザが歓声を上げ、村人たちからも「おおおおぉぉぉっ!!」と割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
「よし、これで良し、と」
俺は落ちていたお玉を拾い上げ、エプロンで軽く拭うと、振り返ってヒロインたちを見た。
「待たせたな。……少し遅くなっちまったが、お前らの腹の虫が鳴く前に、極上のメシにしてやる」
その言葉を聞いた瞬間。
キャルルの瞳の奥で、何かが完全に『極まった』。
彼女は弾かれたように立ち上がると、俺の胸に猛烈な勢いで飛び込んできた。
「ク、クウゴさぁぁぁぁぁぁんっっ!!」
「おわっ!?」
俺の首に腕を回し、ウサギの耳を俺の頬にスリスリと擦りつけてくるキャルル。
その力は、仙術で疲労を回復しているせいか、尋常ではない。
「好きです……っ! 大好きですっ! こんなに強くて、優しくて、ご飯も美味しいなんて……もう絶対に離しません! 一生、私だけの専属シェフでいてくださいね♡」
完全にヤンデレのスイッチがトップギアに入ったキャルル。
その後ろから、マンミアも顔を真っ赤にしてモジモジと近づいてくる。
「あ、あの……クウゴ殿。その、先ほどの戦いぶり……本当に、胸が熱くなりました。私、こんなに……心が震えたのは初めてです。……いつか、本当に、私の背中に……」
「私もですの! エビフライとラーメン、一生食べさせてくださいの! スパチャの代わりに、私の愛を全額投げ銭しますのぉぉっ!」
リーザまで加わり、三人の美少女に囲まれる俺。
「(……こりゃあ、タイセイ公爵家で書類仕事をしてた時より、よっぽど体力が要りそうだな)」
俺は苦笑しながら、三人の頭を順番にポンポンと撫でてやった。
世界を揺るがす神々からの注目。そして、俺のメシに完全に依存しきったヒロインたちの重すぎる愛。
逃亡社畜の規格外なスローライフは、ここからが本当の幕開けだった。
読んでいただきありがとうございます。
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