独身騎士と特製クリスマスケーキ〜『身外身の術』で村を修復しながら、25歳の彼女に極上の甘味をプレゼントしてみた〜
独身騎士と特製クリスマスケーキ〜『身外身の術』で村を修復しながら、25歳の彼女に極上の甘味をプレゼントしてみた〜
アナステシア世界において、人間やそれに類する種族の平均的な結婚年齢は『16歳』である。20歳で子供がいるのもごく自然なことだ。
だからこそ、この世界における『25歳・独身・恋人なし』というステータスは、当人にとって想像以上の精神的ダメージを伴う。
「はぁ……今年も、この日が来てしまいました……」
12月25日。
ポポロ村の自警団長であるケンタウロスの女性、マンミアは、村の広場の片隅で深々と、それはもう地の底まで届きそうなほど重いため息をついていた。
彼女の視線の先には、タローマート(スーパー)のチラシがある。そこには『特製クリスマスケーキ・夜21時より半額シール貼付!』とデカデカと書かれていた。
「25歳……25日に半額以下になる、売れ残りのケーキ……。まるで、私自身のようです……」
「朝っぱらから縁起でもないこと言ってんなよ」
どんよりと暗いオーラを放つマンミアに、俺――クウゴ・タイセイは布巾を肩にかけながら声をかけた。
「ク、クウゴ殿! い、いえ、これはその、自警団のパトロール計画を練っていただけでして!」
「嘘をつけ。蹄で地面をカリカリ削ってるぞ」
「うぅっ……」
図星を突かれたマンミアは、ウマの下半身の尻尾をペタンと下げて俯いた。
彼女は生真面目で、誰よりも村の平和のために尽力している素晴らしい騎士だ。だが、その責任感の強さゆえに浮いた話が一つもなく、25歳という年齢に強烈なコンプレックスを抱いている。
前世の俺なら「現代日本じゃ25歳なんてまだまだこれからだろ」と笑い飛ばせるところだが、ここは異世界。彼女にとっての孤独と焦りは切実なものなのだろう。
「マンミア。お前、さっきの死蟲機の騒動で壊れた屋根の修理、手伝うつもりだっただろ」
「は、はい。自警団長として当然の務めです」
「今日は非番にして休め。村の修復なら、俺がパパッと終わらせておく」
「そんな! クウゴ殿は朝からずっと料理を作ってくださっていたのに、これ以上負担をかけるわけにはいきません!」
頑なにお辞儀をするマンミア。
俺はため息をつき、頭をポリポリと掻きながら、自分の金色の髪の毛を数本引き抜いた。
「負担なんてものはないさ。見てろ」
ふっ、と。
抜いた髪の毛に息を吹きかける。
俺に宿る【齊天大聖・孫悟空】の権能。自らの分身体を無数に生み出す神話の大魔術。
「――【身外身の術】」
ポンッ、ポンッ、ポンッ!
煙と共に、俺と全く同じ姿形、同じ能力を持った分身たちが数十人、広場に現れた。
『おう!』『まかせろ!』『屋根の修理だな!』『木材持ってくるわ!』
分身たちはそれぞれ大工道具や木材を手にし、目にも留まらぬスピードで村の壊れた屋根や塀の修復作業を開始した。
分身とはいえ、その身体能力は仙術で強化されている。素手で丸太を担ぎ、空を飛んで屋根に登り、マッハの速度で釘を打っていく。
「なっ……!? く、クウゴ殿がいっぱい!? しかも、なんという作業速度……大工のドワーフ数十人分の仕事を、たった一瞬で……!」
「な? 言っただろ。だからお前は大人しく休んでろ。……それと、夜の20時に、厨房の裏手に来てくれ」
「えっ? 厨房の裏、ですか?」
「あぁ。ちょっと野暮用があってな」
俺がそう告げて厨房へ戻っていくと、マンミアはポカンとした顔で立ち尽くしていた。
* * *
厨房に入った俺は、数人の分身たちと共に『とある作業』に取り掛かっていた。
『よし、スポンジの焼き加減は完璧だ。太陽芋を練り込んだおかげで、しっとりフワフワだぞ』
『クリームの泡立ても任せろ』
俺の分身の一人が、耳から取り出した極小サイズの【如意金箍棒】を泡立て器代わりにし、超高速回転させて生クリームをホイップしている。
材料は、ロックバイソンの濃厚なミルクから抽出した純生クリーム。甘みには、ポポロ村特産の『ハニーかぼちゃ』の蜜を上品に効かせた。
そして、隠し味に『陽薬草』のエキスを数滴。これで、食べた者の心身の疲れを癒やし、ポカポカと温める効果が付与される。
「誰かのために心を込めて飯を作る。これこそが、料理の醍醐味だよな」
俺は微笑みながら、焼き上がったスポンジに純白のクリームを塗り、新鮮な赤い木の実を美しく飾り付けていった。
* * *
そして、夜20時。
すっかり日が落ちた厨房の裏手にある、小さなテラス席。
俺がキャンドルに火を灯して待っていると、カポッ、カポッと控えめな蹄の音が近づいてきた。
「あの……クウゴ殿。お待たせして申し訳ありません」
現れたマンミアは、いつもの無骨な鎧姿ではなく、タローマン(ホームセンター兼衣服店)で買ったらしい、少し可愛らしい私服のワンピースを身にまとっていた。
ケンタウロスの下半身も、丁寧にブラッシングされているのがわかる。
「お疲れ、マンミア。座ってくれ」
「は、はい……。あの、野暮用とは一体……?」
緊張した面持ちで席につくマンミア。
俺は厨房から、美しく飾り付けられた箱を運び出し、彼女の目の前のテーブルにそっと置いた。
「開けてみてくれ」
マンミアが恐る恐る箱の蓋を開ける。
その瞬間、ふわりと甘く優しい香りが広がり、彼女の瞳が大きく見開かれた。
「こ、これは……っ!」
箱の中に入っていたのは、雪のように真っ白なクリームと、宝石のように輝く赤い木の実で彩られた、完璧なホールケーキだった。
「クウゴ殿……これを、貴方が……?」
「あぁ。お前専用に作った、特製のクリスマスケーキだ。甘さは控えめにして、ハニーかぼちゃのコクを活かしてある」
俺がコーヒーを注ぎながら言うと、マンミアの肩が震え始めた。
「でも、私なんて……25歳で、誰からも相手にされない、売れ残りの……」
「馬鹿言え」
俺は、自虐するマンミアの言葉をピシャリと遮った。
「毎日、誰よりも早く起きて村を見回り、泥まみれになって自警団をまとめているお前の姿を、俺はちゃんと見てる。……そんな立派な女が、夜中に半額のケーキを買って一人で泣くなんて、俺の厨房じゃ絶対に見過ごせねぇ」
俺はケーキを切り分け、彼女のお皿に乗せた。
「売れ残りなんかじゃない。お前には、誰の残り物でもない、今さっき出来上がったばかりの一番上等なケーキが相応しい。……メリークリスマス、マンミア」
「っ……!」
マンミアの大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
彼女はフォークを震える手で握り、ケーキを一口、口へと運ぶ。
「……っ、美味しい……。甘くて、優しくて……胸の奥が、すごくポカポカして……っ」
陽薬草のエキスと、限界までこだわった素材の味が、彼女の凝り固まったコンプレックスを優しく溶かしていく。
マンミアは涙を拭うことも忘れ、夢中でケーキを頬張った。その背後で、ウマの尻尾が嬉しそうにブンブンと左右に振られている。
「ありがとうございます、クウゴ殿……。私、こんなに美味しくて、幸せなクリスマス……生まれて初めてです……っ」
「喜んでもらえたなら何よりだ」
俺が笑ってコーヒーをすすると、マンミアは真っ赤になった顔で、もじもじと両手を組み合わせた。
「あ、あの……クウゴ殿。ケンタウロス族の女性は……その、生涯を誓った男性だけを、自分の背中に乗せるという風習があるのですが……」
「ん?」
「も、もしクウゴ殿がよろしければ……いつか、私の背中に……乗って、みませんか……? あ、いやっ! これは決して変な意味ではなくてですね! その、ケーキのお礼と言いますか……!」
顔から火が出そうなほど赤くなり、蹄で床をバタバタと鳴らすマンミア。
どうやら、予想以上に胃袋(と心)をガッツリ掴んでしまったらしい。
『ギギギギギギギギギギ……ッ!!』
ふと視線を感じて厨房の窓を見ると、ウサギの耳を立てたキャルルが、血走った目で窓枠を爪でガリガリと削りながらこちらを監視していた。横ではリーザが「私もケーキ食べたいですの」とヨダレを垂らしている。
……前途多難ではあるが。
マンミアの幸せそうな笑顔を見れただけで、今日は分身してまでケーキを作った甲斐があったというものだ。
俺は夜空に浮かぶ星を見上げながら、極上のコーヒーをゆっくりと飲み干したのだった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
「クウゴ、イケメンすぎるだろ……!」
「マンミアが報われて本当に良かった(涙)」
「窓枠を削るヤンデレ村長こわい!!」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
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