神々のぞき見配信、大炎上〜『火眼金睛』でカメラを睨みつけたら、天界の視聴率がぶっ壊れた〜
神々のぞき見配信、大炎上〜『火眼金睛』でカメラを睨みつけたら、天界の視聴率がぶっ壊れた〜
【なに今の調理!?】
【油の海が空中に浮かんでたぞ!?】
【死蟲機ってあんなに美味そうに揚がるのかよ!】
【やばい、エビフライ食いたくなってきた。ルナイーツ頼むわ】
【この金髪の料理人、名前なんていうの!? チャンネル登録どこ!?】
天界の片隅に存在する薄暗いモニタールーム。
無数のエンジェルすまーとふぉんとモニターが並ぶその部屋で、炎上神ワイズは頭を抱えていた。
「ちぃぃぃぃぃぃぃぃっ! 違う、違う違う違うッ! なんだこのふざけたコメント欄はぁっ!!」
ガシャンッ! と、お気に入りのマイタンブラーを壁に叩きつける。
ワイズが企画したのは、『平和な村が死蟲機の大群に生きたまま喰い殺される絶望パニック配信』だったはずだ。
悲鳴、流血、そして絶望。それを高みの見物で楽しむ神々からPV(視聴率)を稼ぎ、自分の神格ランクを上げるための完璧なヤラセ・シナリオだった。
それがどうだ。
どこからともなく現れたエプロン姿の男が、空飛ぶ雲に乗って死蟲機を次々と『下ごしらえ』し、空中に浮かべた油の海でカラッと揚げてしまったのだ。
パニック映像は、瞬く間に『謎の超絶技巧料理人による極上エビフライ・クッキングショー』へと変貌を遂げた。
「ふざけるな……! どこのどいつだあの男は! ただの村人じゃないぞ、あの出鱈目な魔法は一体……ッ!」
しかし、ワイズの苛立ちとは裏腹に、モニターに表示されている『同時接続PV数』は、ゴッドチューブの歴史を塗り替える勢いで爆上がりを続けていた。
皮肉なことに、ワイズのチャンネルはかつてないほどの熱狂を生み出していたのである。
――一方、ポポロ村。
「ふぅ。こんなもんか」
俺――クウゴ・タイセイは、広場に用意した巨大な鍋と調理器具を洗い終え、布巾で手を拭いていた。
広場のテーブルでは、数千匹のネクロバグ・エビフライが見事に平らげられ、村人たちが満腹でひっくり返っている。
「ゲフッ……もう、もうパンの耳は食べられませんの……私はエビフライ・アイドルとして生きていきますの……」
限界地下アイドルのリーザは、大きくなったお腹をさすりながら幸せそうに芝生の上を転がっている。
「クウゴさん、洗い物くらい私がやりますのに……! 貴方は村の命の恩人なんですよっ?」
村長のキャルルが、俺の隣でウサギの耳をペタンと寝かせ、上目遣いですり寄ってくる。相変わらず距離が近い。
「いいってことよ。料理人の仕事は、厨房をピカピカに磨き上げるところまでがセットだからな」
「あぁっ、そんなプロ意識まで……好きですっ♡」
「ん?」
「いえ! 尊敬していますっ!」
顔を真っ赤にしてモジモジするキャルルを横目に、俺はふうと息を吐き出した。
前世では、仕事終わりにコンビニの弁当を一人でかき込むだけの味気ない毎日だった。
だが今は、俺の作った飯を美味いと言って腹いっぱい食べてくれる奴らがいる。……悪くないスローライフだ。
「クウゴ殿。自警団を代表して、心より感謝を」
カポッ、カポッ、と蹄の音を鳴らして近づいてきたのは、ケンタウロスの女性・マンミアだった。
ポポロ村の自警団リーダーである彼女は、生真面目な顔で深く頭を下げた。
「我々が魔導ライフルを撃つまでもなく、まさか『調理』で死蟲機を殲滅されるとは。貴方のその力、いったい――」
「ただの料理の延長さ。気にしないでくれ」
俺が笑ってごまかすと、マンミアは少しだけホッとしたように微笑み、だがすぐに、どこか憂鬱そうにため息をついた。
「……それにしても、もうすぐ12月25日ですね」
「ん? あぁ、そういえばそうだな。村でも何か祭りでもやるのか?」
「いえ……私には、無縁の話です。今年もまた、タローマートの惣菜コーナーで、半額のケーキを……はぁっ」
なぜかひどく落ち込んだ様子で、マンミアは蹄で地面をカリカリと削り始めた。
25歳という年齢に強いコンプレックスを抱いている彼女にとって、クリスマスというイベントは精神をゴリゴリ削られる鬼門らしい。
「(……なるほどな。なら、次は甘いものでも作るか)」
俺が次の仕込みのメニューを頭の中で組み立てていた、その時だった。
――チリッ。
「……ん?」
「クウゴ殿?」
「……キャルル、マンミア。少し下がっててくれ」
俺は布巾をテーブルに置き、空を見上げた。
視線の先にあるのは、ただの青空だ。雲ひとつない。
だが、俺の『感覚』が、はっきりと捉えていた。
殺気ではない。害意でもない。
ひどく下世話で、無遠慮な『視線』の束を。
「……メシを食ってる時にジロジロ見られるのは、あまり気分が良いもんじゃないな」
俺は目を閉じ、意識を眼球へと集中させた。
俺の魂に刻まれた【齊天大聖・孫悟空】の権能の一つ。
あらゆる幻覚、隠蔽、変身、そして世界の真実を看破する『真実の眼』。
「――【火眼金睛】」
カッ……!!
俺が目を見開いた瞬間、瞳孔の奥で『黄金の炎』が燃え上がった。
俺の視界から世界の物理的な偽装がすべて剥がれ落ち、遥か上空、高度数千メートルの位置に滞空している『光学迷彩を施されたドローン型のカメラ』の姿が、はっきりと映し出された。
俺は、そのカメラのレンズ越しに、その向こう側にいるであろう『連中』へ向けて、真っ直ぐに視線を合わせた。
『――――ッ!?』
神界のモニタールーム。
ワイズ神は、そしてゴッドチューブを視聴していた何百万という神々は、画面越しに『目が合った』瞬間に、心臓を鷲掴みにされたような錯覚に陥った。
画面の中のエプロン姿の男の瞳が、黄金の炎を上げて燃えている。
「のぞき見の趣味があるようだが……次、俺の厨房を勝手に覗いたら、その目を潰すぞ」
ドクンッ。
ただ画面越しに睨みつけられただけだというのに。
男の瞳から放たれた『大聖の覇気』が、次元の壁を越えて、天界のモニターへと直接流れ込んできた。
ピシッ……!!
パリンッ!!
『なっ……!?』
ワイズ神の目の前で、エンジェルすまーとふぉんの画面が、そして壁一面の巨大モニターが、男の眼力から放たれた圧力に耐えきれず、次々とヒビ割れ、砕け散った。
ポポロ村上空に浮かんでいたカメラドローンも、内部基盤から発火して爆発四散する。
「あ、あわわわわわ……っ!」
モニタールームで、ワイズ神は砕け散ったガラスを浴びながら、腰を抜かして尻餅をついていた。
たった一瞥。ただ睨まれただけで、神界の最高級魔導機器が破壊されたのだ。
「な、なんだあいつは……ッ! あんなバケモノが、なんでこんな辺境の村で料理なんか作ってやがるんだァァァァッ!?」
ワイズの悲鳴が誰もいなくなったモニタールームに響き渡る。
だが、通信が途絶える直前の数秒間。
あの黄金の瞳で睨みつけられたことで、ゴッドチューブのコメント欄は恐怖どころか、かつてない『熱狂』の渦に包まれていた。
【ひぃっ!? 目が合った!?】
【画面割れたんだけど!? なんだ今の覇気は!?】
【カッコよすぎるだろ……ッ!】
【料理人じゃなかったのかよ!? なあ、次の配信はいつだ!?】
――こうして、逃亡社畜の俺は全く意図しないところで、天界のゴッドチューブに『謎の最強料理人』としての特大の爪痕を残してしまったのだった。
「よし、あんなもんか」
空のゴミが消えたのを確認し、俺は瞳の炎を鎮めて振り返った。
「ど、どうしたんですかクウゴさん? 急に空を睨みつけたりして……」
「いや、ただの羽虫が飛んでただけだ。それよりマンミア、あとで厨房の裏手に来てくれないか? 少し、作りたいものがあってな」
「えっ? わ、私ですか……?」
戸惑いながらも頬を染めるマンミアに笑いかけながら、俺は明日の仕込みの算段を立てる。
どんな神様が裏で糸を引いていようが知ったことか。
俺のスローライフと、村の美味いメシの時間は、誰にも邪魔させない。
【作者からのご挨拶・お願い】
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
「火眼金睛の眼力だけでカメラを破壊するのヤバい!」
「ワイズ神、完全に腰抜かしてる(笑)最高のざまぁ!」
「次回はマンミアのクリスマスケーキ回か!?」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
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