死蟲機の襲来と、空飛ぶ極上エビフライ〜俺の畑(しょくざい)を荒らす害虫は、筋斗雲でまとめてカラッと揚げてやる〜
死蟲機の襲来と、空飛ぶ極上エビフライ〜俺の畑を荒らす害虫は、筋斗雲でまとめてカラッと揚げてやる〜
ポポロ村の朝は、活気と少しばかりの狂気に満ちている。
村の広場に設営した俺のオープンキッチンの前には、今日も朝から腹を空かせた住人たちが列を作っていた。
「クウゴ様! 今日も一番乗りですの! パンの耳に合う、最高のおかずをお願いしますの!」
「こらリーザ、横入りは駄目ですよ。クウゴさんは昨日私のお粥を作って疲れているんですから……ねえ、クウゴさん? 今日もずっと、私のおそばにいてくれますよね……?(ジィィィ)」
お賽銭箱型掃除機を抱えた人魚のアイドル・リーザが目を輝かせ、その背後から、すっかりヤンデレのスイッチが入りっぱなしの村長・キャルルが俺の背中にぴったりと張り付いてくる。
二人の相手をしながら、俺は慣れた手つきで『たまんネギ(エロ本を取り上げて賢者モードになった個体)』をみじん切りにし、『マヨ・ハーブ』と混ぜ合わせて特製のタルタルソースを仕込んでいた。
今日も平和な一日が始まる。
――そう思っていた矢先だった。
「……ッ!? なんだ、あの空の黒い影は……!」
村の自警団長であるケンタウロスの女性、マンミアが、手にしたクロスボウを空へ向けながら鋭い声を上げた。
彼女の視線の先。ポポロ村の東の空が、まるで墨汁をぶちまけたように真っ黒に染まり、それが尋常ではないスピードでこちらへ向かってきている。
ブォォォォォォォォォォン……ッ!!
空気を震わせる、おぞましい羽音。
黒い雲の正体は、無数の機械化昆虫の群れだった。
刃のように鋭い顎を持つ『死蟻機』と、空を覆い尽くす『死蜂機』の群れ。かつての古代大戦で世界を恐怖に陥れた、死蟲王サルバロスの眷属である。
「なぜ、死蟲機の群れがポポロ村に!? 総員、魔導ライフル構えッ! 防護フィールド最大出力! 何としても村の畑と住民を死守するのです!」
マンミアが叫び、自警団が絶望的な表情で武器を構える。
だが、多勢に無勢だ。空を埋め尽くすほどの死蟲機の数は、ざっと数千は下らない。
一方その頃。
遥か上空の次元の狭間、神界のモニタールームでは、炎上神ワイズが専用のタンブラーでカプチーノを啜りながら、下卑た笑いを浮かべていた。
『ヒャハハハ! いいぞいいぞ! 最近ポポロ村が平和すぎてゴッドチューブのPVが落ちてたからな! ここで絶望的なパニック映像を配信すれば、視聴率はバク上がりだ! 存分に蹂躙しろ、俺が裏で契約して放った死蟲機ども!』
エンジェルすまーとふぉんの画面越しに、ワイズ神は村が阿鼻叫喚の地獄に包まれる瞬間を今か今かと待ちわびていた。
――しかし。
彼らの計算には、致命的な見落としがあった。
「あーあ。ヤバいですね……」
「キャルル、下がっていろ。奴らが結界を破れば、一瞬で村は……!」
「いえ、そうじゃなくて」
マンミアが悲壮な決意を固める中、キャルルは全く別の方向を向いて青ざめていた。
彼女の視線の先には、まな板の上で包丁を止めた俺の姿がある。
「あいつら……俺の畑の真上を飛んでやがるな」
死蟲機の群れが通った跡には、強力な酸と毒が撒き散らされ、大切に育てられた『太陽芋』や『月見大根』の葉が黒く変色して枯れ落ちていくのが見えた。
俺の、最高の料理を作るための食材たちが。
「メシの時間を邪魔するわ、他人の畑を荒らすわ……随分とマナーの悪い害虫だな」
俺は頭に巻いていたバンダナをきつく結び直すと、大きく息を吸い込んだ。
「来い、『筋斗雲』」
ポフッ。
俺の足元に、黄金色に輝く小さな雲が現れる。
俺がその上にふわりと飛び乗った瞬間、
ドゴォォォォォォンッ!!
音速の壁を突破する爆発音と共に、俺の身体は一瞬にして村の遥か上空、死蟲機の群れのど真ん中へとワープしていた。
突然目の前に現れたエプロン姿の男に、死蜂機たちがギチギチと機械音を鳴らして毒針を向けてくる。
「死蟲機は、殻を剥けば『極上のエビの味』がするんだったな。……ちょうどいい、今日の朝飯のメインディッシュにしてやる」
俺は、自らの髪の毛を数本引き抜き、息を吹きかけた。
「【身外身の術】」
ポンッ! という音と共に、俺と全く同じ姿、同じ能力を持った分身が空中に数十人生み出される。
分身たちはそれぞれ、耳から取り出した【如意金箍棒】を構えていた。
「下ごしらえ開始だ。殻を剥け」
『おうっ!』
分身たちが筋斗雲に乗って、死蟲機の群れの中を縦横無尽に駆け抜ける。
如意棒が振るわれるたび、硬度無限の打撃が死蟲機の『機械の装甲部分』だけを器用に粉砕し、中からぷりっぷりの乳白色の身(可食部)だけを空中に弾き出していく。
「ギ、ギギギギ……ッ!?」
「殻向き完了。次は衣だ」
俺は【仙術】による念動力を展開。
村の備蓄庫からふわりと浮かび上がらせた『米麦草の小麦粉』と『卵』を、上空で巨大な竜巻のように回転させ、宙に浮いた数千匹のネクロバグの剥き身に、均等に、完璧な厚さで衣を纏わせていく。
「仕上げの油だ。火力全開で行くぞ」
俺の手の中で巨大化した如意棒が、宙に浮かべた大量の食用油をかき混ぜる。
同時に【仙術・火焔】を指先から放ち、空中に『直径五十メートルの巨大な油の海』を作り出し、一気に摂氏百八十度まで加熱した。
「いけぇっ!」
分身たちが如意棒をバットのように振るい、衣を纏ったネクロバグたちを、煮え滾る空中の油の海へと次々にスマッシュしていく。
ジュワァァァァァァァァァァァッ……!!!!
空から、心地よい揚げ物の音が響き渡る。
絶望的な羽音は完全に消え去り、代わりにポポロ村全体に、食欲を狂わせる暴力的なまでに香ばしい『エビフライ』の匂いが充満し始めた。
「きつね色に揚がったな。油切り、完了」
俺が指を鳴らすと、空中の油の海が仙術によって一瞬で気化。
直後、ポポロ村の広場に用意した巨大なテーブルの上に、黄金色に輝く『特大ネクロバグ・エビフライ』が、何千本も文字通り『山』となって降り注いだ。
「…………へ?」
自警団長のマンミアが、クロスボウを取り落とした。
死を覚悟していた村人たちも、空から降ってきた極上のご馳走の山を見て、ぽかんと口を開けたまま固まっている。
「待たせたな。害虫駆除、兼、朝飯の用意が完了だ」
俺は筋斗雲からふわりと降り立ち、山盛りのエビフライの横に、先ほど作っておいた『賢者たまんネギの特製タルタルソース』をドンッと置いた。
「うおおおおっ! エビの匂いですの! エビフライの匂いがしますのぉぉぉっ!」
我に返ったリーザが、真っ先に飛びついてエビフライを一本引っ掴み、タルタルソースをたっぷりつけて大きな口を開けた。
サクッ! プリィッ!
「んんんんんんんんまァァァァァァァァいっ!!!」
リーザが涙を吹き出しながら絶叫する。
サクサクの衣の中に閉じ込められた、ネクロバグの極太の身。それは伊勢海老よりも濃厚な旨味と弾力を持ち、酸味とコクの効いた特製タルタルソースと悪魔的なまでの相乗効果を生み出していた。
それを見た村人たちも、次々とエビフライに群がり始める。
「な、なんだこれ!? あの恐ろしい死蟲機が、こんなに美味いなんて……!」
「サクサクでジューシー! ご飯が、米麦草が止まらねえええ!」
絶望のどん底にあったはずのポポロ村は、一瞬にして、極上エビフライの試食パーティー会場へと変貌を遂げていた。
一方、神界のモニタールーム。
『…………は?』
炎上神ワイズは、画面の前でカプチーノをこぼし、呆然と固まっていた。
彼が企てた悲惨な村の壊滅パニック配信は、なぜか『謎の凄腕料理人による、空飛ぶ極上エビフライ調理ショー』として全世界の神々に生配信されていた。
ワイズの意図とは全く裏腹に、ゴッドチューブのコメント欄はかつてないほどの熱狂を見せている。
【何だ今の調理!?】
【すげえ! あの硬いネクロバグを一瞬で剥いたぞ!】
【油の海を空中に作るなんて、どんな魔力だよ!】
【ヤバい、めっちゃ腹減ってきた。ルナイーツでエビフライ頼むわ】
PV(視聴率)のカウンターが、ぶっ壊れたように回転し、歴代最高数値を叩き出していく。
『な、なんだあいつは……!? ただの村人じゃないぞ! 俺の、俺の炎上企画が、ただの飯テロ料理番組になっちまったじゃねえかぁぁぁっ!!』
神界でワイズが頭を抱えて絶叫していることなど露知らず。
俺は、エビフライを両手に抱えて幸せそうに頬張るキャルルとリーザを見ながら、満足げに自分のエプロンの埃を払った。
「さて、次は付け合わせのキャベツの千切りだな」
逃亡社畜の俺のスローライフは、まだまだ始まったばかりだ。
【作者からのご挨拶・お願い】
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
「ネクロバグのエビフライ、めっちゃ美味そう!!」
「筋斗雲と分身の術の使い方が料理すぎる(笑)」
「ワイズ神のヤラセ配信が飯テロ番組に……ざまぁ!」
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