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猫はトノちゃんと呼ばれます。

「王様〜!変な人間が小山に来てる!」

 ある日、夕方近くに小山の猫達から知らせが入った。俺は急ぎ向かうと、確かに変な男が一人いた。

 細身の中年男が猫達に餌を与えながら(つぶや)いている。

「来世は猫として産まれたいな…」

 男の持ち物は、猫の餌と丈夫な縄と木の箱だった。これはアレか!猫に与えてるタイプの最後の晩餐か!?

 猫達を撫でながら、

「人間は嘘つきだからね。騙されるんじゃないぞ、お前達」

 疲れ切った笑顔で見つめている。

「さて、そろそろ逝くかね」

 餌を全て与え終わると男は木箱に登り、縄を木の太枝に掛けて始めた。

「やめてよ。僕たちの楽園で死ぬのは」

「えっ!!」

 俺の声に驚き、登っていた木箱からバランスを崩してひっくり返った。

 周りを見渡す男だが夕暮れ時だ、誰も居ない。見つめているのは猫だけだ。

「ね、ね猫さんの楽園だったんだね。ごめんよ」

 驚きながらも、体を起こして立ち去ろうとしていた。

「何かあったの?話なら聞くよ」

 猫からしてもお人好しに見える人間だったので、つい声を掛けてしまった。

 驚くながらも、立ち止まり男は俺を見つめる。

「ハハ、猫さんなら話せるかな…」

 普通なら猫がしゃべればここで驚き逃げるだろうに、逃げもせずに語り出す男。

 声を掛けた俺も大概(たいがい)だが、話を聞いてもらおうとする、この男も大概だ。


 詰まるところ、運が無いお人好しである。

 高校を卒業し、就職したが数年後、不景気の煽りで会社が縮小する事になり解雇された。

 次の仕事は直ぐに見つかるも、当時はまだ絶滅危惧種ではなかった、悪い意味での昭和的な会社であったようで、「若いからやれる」と仕事を押し付けられていた。

「初めはね、仕事を覚える為には必要だと頑張ってたんだけど。気がつけば、俺に押し付けているだけの年功序列の化石会社だったんだけど。若手だからと言って安月給の上に、残業は当たり前。新人は入って来ないから、いつまでたっても当時40代目前の俺が一番下の若手だったのさ。だが、それでもいずれは苦労が実ると思い頑張ってきた。まぁ、そういう時代だったし、俺自身も、そう言うものだと教わた古い人間だったしね。だけど、新社長が就任するや、他業種に手を出し大失敗し挙句の倒産。最後に大先輩方から言われたのが『若いお前が新社長に苦言を呈するべきだった』だよ。散々、社長に口答えするなって言っておいてだよ。自分達は新社長をヨイショしておいてだ。初めに意見を言った俺には『社の方針だ、従えなければ辞めろ』とまで言っておいて!今思えば、完全アウトのパワハラだね。再就職も頑張ってみたが、難しい年齢に達していたから、前の会社と同じ化石臭しかしない同業種の会社しか残っておらず。どうしても受け入れられなくて。仕方なくバイトを掛け持ちして今日まで食い繋いできたんだけど、そのバイト先からも年齢を理由に時間を減らされ、新しいバイトも見つからずにいた所、親父が亡くなってさ。兄弟からは『家族の恥だ』って葬式にも呼んでもらえず。もう、いろいろと疲れちゃったんだよ」

 なんか、よっぽど溜まってたのだろう。猫相手に凄い勢いで語った。

 記憶の俺も『分かるぜ!』としみじみ納得している。

 俺も前世はこんな感じだったのかも、そう思うと見捨てられなくなってしまった。

「ねえ、僕達の秘密を守れる?」

「えっ秘密って喋れることかい?あぁ、こんな俺の愚痴を聞いてくれるの猫さんだけだし。秘密は守るよ」

「なら、俺が雇ってやる」

「え??猫さんが!?」

 そりゃまあ驚くわな、だが猫カフェには猫の従業員や、駅長さんだった先輩達がいる。ちょっと雇用形態が逆なだけだ。

「買い付けを頼みたい。それ以外の時間は仕事を探すなりしてもいい。月に30万円でどうだ」

「そんなに!って何を買うんだい」

「そりゃぁ、勿論、猫達の餌だ」

 人間側の仲間をゲット出来れば、買い出しもかなり楽になる。万が一、騙されてもお金取られるだけだろう。

 誰かに知られても喋る猫なんて、誰も信じないだろうからな。


 支度金で100万円を渡す。

「…猫さん…」

「ん?何だ」

「これ、盗んだの?」

 心配そうに尋ねる。そりゃまあ猫がそんな大金どうやって稼いだのか気になるよな。

「大丈夫だ。真っ当に働いて稼いだ金だ。人間には見えない異世界の入り口、所謂(いわゆる)、ダンジョンのモンスターを倒して、稼いだ金だから問題ない。たまにゴミ捨て場から人間の衣類を一部を貰う事もあるけど、それはご愛嬌で」

「なんか良いな〜、ファンタジーで楽しそうだね。剣と魔法の世界か〜」

「ファンタジーに思えるが向こうの世界では現実だ。本気で殺しにくるぞ、アイツら(モンスター)は」

「…リアルだと嫌な世界だね」


 この人間の名前は、タカシ。小山の近くの古いアパートに住んでいた。

 俺は「王様」と名乗っておいた。

「ならオーちゃんだね」

 こいつには、ネーミングセンスは皆無と見た。

「…なんか、『おっちゃん』みたいで何か嫌だな」

「ん〜、じゃあ殿様だがらトノちゃんは?」

 真剣に考えてくれてるようだが、何というか…

「…名前にちゃんを付けるのは決定なんだね」

 こうしてタカシの雇用主の俺は『トノちゃん』と呼ばれる事に決定した。


 後に、彼が猫のご飯評論家『トノちゃん』としてネットの中で、有名になったのは猫の知らないところだ。

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