第6章:しおりの操り人形(マリオネット)の交響楽
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あかりの腕から滴り落ちる血が、板張りの床を叩く音は、古寺の鐘の音のように響いた――緩やかで、規則正しく、不吉な響き。パタ……パタ……。
江戸はあかりの顔から手を放した。彼の呼吸はいまだに荒く、その唇は妻自身の血で赤く汚れていた。彼は謝罪しなかった。この家において、謝罪は致命的な弱さの象徴でしかない。
「そこを掃除しろ」江戸は床の汚れを指差して冷淡に命じた。「しおりが地下の書斎で待っている」
あかりは腫れ上がった唇を手の甲で拭い、普通の男なら正気を失うような妖艶な眼差しでその血を舐めとった。「恐怖を感じている時のあなたは、いつもあんなに情熱的ね、江戸さん。……お腹が空いちゃうわ」
防音完備の地下室では、並んだ巨大なモニターから放たれる青い光が、しおりの青白い顔を照らし出していた。冷たい機械群の中に佇むその少女は、まるで命を吹き込まれた市松人形のようだった。
「佐藤刑事は退屈なタイプの男ね」しおりは、画面上を高速で流れるコードの列から目を逸らさずに言った。「完璧な規律記録、忠実な妻、そして腎不全を患っている娘。……彼はお金を必要としているわ」
江戸は近づき、娘の傍らに立った。「何をしているんだ、しおり?」
「ただデータを壊しているだけじゃないわ、お父様。彼の人生を『書き換えて』いるの」しおりの指先がキーボードの上で踊る。カチ、カチ……その機械的な音は、運命を刻むタイプライターのように響いた。
「まず、麻薬シンジケートと提携しているマカオのオンラインカジノから、彼の隠し口座に500万円を振り込んだわ。次に、警察の内部サーバーにAI生成した音声記録を紛れ込ませた。先月の殺人事件の証拠隠滅計画について、架空の『情報屋』と話している音声よ」
しおりはわずかに顔を向け、唇の端に――ほとんど気づかれないほどの――薄い微笑を浮かべた。「明日の朝、彼が私たちの庭で見つけたものを報告しようとした瞬間、内部監査チームが彼を連行しにくるわ。彼は、自分自身の汚職疑惑から目を逸らすために、名家である犬神家を陥れよう宣伝虚偽の報告をしたと見なされるの」
江戸は喉が渇くのを感じた。しおりは佐藤の社会的地位を殺しただけではない。彼の血統そのものを根絶やしにしようとしていた。
「彼が見つけたボタンと歯はどうなるの?」後から入ってきたあかりが尋ねた。彼女の腕には、すでに白い包丁が整然と巻かれていた。
「明日担当する証拠品保管係は、ダークウェブのフォーラムで私に恩がある人物よ」しおりは淡々と答えた。「それらは輸送中に『紛失』するか、あるいはもっといいことに、豚の歯にすり替えられるわ」
しおりが「清掃」を終えて部屋に戻った後、薄暗い書斎には江戸とあかりが残された。二人の間の肉体的な緊張はいまだに解けていなかった。
江戸は、地下室の冷たい鉄の壁にあかりを追い詰めた。彼女の両手を頭上に押さえつける。
「見たか?」江戸はあかりの耳元で囁いた。「しおり……あの子はもう、俺たちの子供じゃない。俺たち二人よりも効率的な捕食者だ」
あかりは低く笑った。その笑いは江戸の肌を這うようだった。「それがあなたの望みだったんでしょう、江戸? 良心を持たない後継者。あなたはあの子を恐れているけれど、同時に求めてもいる」
あかりは江戸の拘束の中で身をよじり、百合の花の香りと鉄の臭いが混ざり合った体を彼に擦りつけた。「私たちは怪物なのよ、愛しい人。怪物は天使なんて産まないわ。私たちが産み落としたのは、破滅よ」
江戸は、狂気に満ちたあかりの大きな瞳を見つめた。そこには深い憎悪があり、しかし同時に、この世の何をもってしても断ち切れない絆があった。彼は再びあかりに口づけをした。今度は暴力ではなく、地獄に堕ちたことを悟り、一人では戻りたくないと願う男の絶望と共に。
「いつかあの子が俺たちを壊す日が来たら」接吻の合間に、江戸が低く唸る。「その時は、必ずお前も道連れにする」
あかりは江戸の耳を噛み、彼を悶えさせた。「地獄へ行くのに、忠実な給仕を置いていかせたりしないわよ、江戸さん」
机の上のモニターには、道端の車の中で眠る佐藤刑事の顔が映し出されていた。彼は、退屈しのぎの少女によって自分の人生がたった今消去されたことに、まだ気づいていなかった。
ピシッ……。
陶器のひび割れる音が、再び江戸の頭の中で響いた気がした。今度の亀裂は、もう二度と修復することはできない。
「最後までお読みいただきありがとうございます。次回の更新は明日、22:00を予定しております。また明日お会いしましょう!」




