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第4章:木の扉の裏側の微笑み

#サイコホラー #知能犯 #残酷な描写あり #異常愛 #サスペンス #サイコパス

江戸が重厚なチーク材の扉を開けると、犬鳴の森から冷たい風が吹き込んできた。彼は正確に四十五度の角度で、深く頭を下げた。「こんばんは。何かお手伝いできることはありますか、お巡りさん?」


目の前に立っていたのは、あまりに多くの闇を見てきたような瞳を持つ中年男、佐藤サトウ刑事だった。その傍らには、落ち着きなく辺りを見回している若い警官が控えている。


「お食事中に失礼します、犬神いぬがみさん」佐藤がしわがれた声で言った。彼は玄関に足を踏み入れ、鼻をわずかにひくつかせた。「ラベンダーの香りが随分と強いですね。奥様は掃除に熱心な方のようだ」


江戸は薄く微笑んだ。鏡の前で何度も練習した「建前たてまえ」の微笑みだ。「ああ、香りが強すぎましたか、申し訳ありません。うちは森のすぐ側にありますから、虫除けが欠かせないのです」


佐藤が一枚の写真を取り出した。そこに写っているのは、二十分前に流しの下で「溶けた」ばかりの同僚の姿だった。「この近くで同僚の車両が見つかりましてね。何か不審な人物を見かけませんでしたか?」


佐藤の視線が江戸の手元に落ちた。江戸の親指の爪の端に、赤い汚れがこびりついている。江戸はそれに気づいたが、鼓動は一定のままだ。「私の手ですか? ああ、お恥ずかしい。娘の唐揚げのトマトソースを準備していたところでしてね。料理の趣味や、本職の剥製はくせい作りのこととなると、ついおろそかになってしまうのです」


その時、廊下の影からあかりが姿を現した。彼女は湯気を立てる緑茶のトレイと、一皿の唐揚げを運んできた。


「どうぞ召し上がってください、刑事さん。外は冷え込むでしょう?」あかりは過剰なほど快活なトーンで言った。彼女の目は見開かれ、佐藤刑事の喉元を見つめる瞳孔がわずかに収縮した。彼女の頭の中では、電動骨鋸こつのこでこの男の気管を切り裂く光景が描かれている。ゾクゾク……。その血への渇望に、彼女は震え出しそうだった。


江戸はすぐに寄り添い、あかりの腰を抱いて指先を強く握りしめた。無言の警告だ。「今はまだ、だめだ」


「お気遣い痛み入りますが、長居はできませんので」佐藤は断り、部屋から出てきたばかりのしおりに視線を移した。


「お母様……臭いがきつすぎるわ」しおりは勉強疲れで眠そうな顔を装い、目をこすりながら不満げに言った。「漂白剤を使うのはもうやめてくれない? 福岡で流行っているっていう『新型鳥インフルエンザ』のニュースなんて、きっとデマよ。毎日こんな化学薬品の臭いを嗅ぐのは、もう疲れたわ」


佐藤は一瞬、呆気に取られた。しおりの説明は極めて論理的で、漂白剤の臭いと潔癖なまでの衛生管理を結びつけていた。「ああ、なるほど。あのニュースのせいでしたか。お嬢さんは勉強熱心ですね、犬神いぬがみさん」


いくつかの儀礼的な質問の後、二人の警官は去っていった。江戸は至極丁寧な振る舞いで、彼らを門まで見送った。


しかし、佐藤がパトカーに向かって歩いていた時、彼の靴が湿った芝生の上で何か柔らかいものを踏みつけた。彼は腰をかがめ、それを拾い上げた。


警察の制服特有のボタンだった。それは、焼け焦げた繊維の一部にまだ付着していた。そしてその隣には、もっと恐ろしいものがあった。根元がまだ赤く染まった人間の歯だ。第3章であかりが狂ったように笑った際、弾け飛んだものだった。


佐藤は何も言わなかった。彼はそれをポケットにねじ込むと、二階の窓を仰ぎ見た。そこには、わずかに開いたカーテンの隙間から、獲物を監視する狼のように冷たく瞳を光らせる江戸の顔があった。


「最後までお読みいただきありがとうございます。次回の更新は明日、22:00を予定しております。また明日お会いしましょう!」

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