第3章:十分間の最後の晩餐
#サイコホラー #知能犯 #残酷な描写あり #異常愛 #サスペンス #サイコパス
しおりは、まだ味噌汁の湯気が残る食卓の上にカシオのデジタルウォッチを置いた。赤く光る数字が刻まれる。14:59... 14:58...。
「時間は限られているわ」しおりの声は平坦で、まるでロボットのようだった。彼女はヘッドセットを装着したまま、福岡県警察の無線周波数をハッキングするために指を素早く動かし続けている。
江戸はビスポークのジャケットを脱ぎ、椅子の背もたれに丁寧に掛けると、白いシャツの袖を肘まで捲り上げた。彼は透明なプラスチック製のエプロンを身に着け、ラテックスの手袋をはめた。引き伸ばされたゴムがキュッと音を立てる。その隣で、あかりはすでに電動骨鋸を手にしていた。彼女の瞳はぎらつき、興奮で呼吸が荒くなっている。
「江戸さん、どこから始める?」あかりが唇を湿らせながら囁いた。
「股関節(Articulatio Coxae)からだよ、愛しい人。そこが手作業で壊すには一番厄介な部分だからね」江戸は、まるで料理のレシピを教えているかのように冷静に答えた。
ズズッ……ズズッ……。
江戸の手にあるメスが、外科医のような正確さで真皮と脂肪の層を切り裂いていく。金属と弾力のある肉が擦れ合う音が部屋に満ちる。あかりが骨鋸を持ってそれに続いた。ヴゥゥゥン! 小型エンジンの咆哮は、あかりが口ずさむ「五木の子守唄」の柔らかな歌声にかき消されていく。
カチャッ!
江戸は熟練した手つきで一突きし、股関節を切り離した。無駄な動きは一切ない。あかりはすぐさまその破片を拾い上げ、流しの下のポルセリン製の桶へと放り込んだ。そこには高濃度の水酸化ナトリウム溶液が満たされている。液体はジュウジュウと音を立て、人間のタンパク質を判別不能な茶色の泥へと溶かし始めた。
「お父様、パトカーが一台、赤い橋を通過したわ。あと五分よ」しおりが振り返ることなく報告した。彼女の左手は工業用の漂白剤のボトルを掴み、床にぶちまけている。プシュー……。刺激的な塩素の臭いがヘモグロビンと反応し、鉄の錆臭さを覆い隠す白い泡を作り出した。
「お母様、指骨(Phalanges)が完全に破壊されているか確認して。指紋は我が家にとって、あまりに質の悪い署名だわ」しおりが冷酷に付け加えた。
化学薬品の溜まりと、哀れな男の生の残骸の中で、赤く染まったあかりの手が江戸の手に触れた。二人は動きを止める。江戸はわずかに汗ばんだ妻の顔を見つめ、その額に優しく口づけをした。「よく頑張ったね、あかり。もう少しだ、そうすればまた完璧な家族に戻れる」
00:10... 00:05...。
最後の血痕が吸い取られ、粉砕機が止められた。食堂は再び静寂に包まれる。自動スプレーから放出されるラベンダーの香りが空気を支配し、死の残臭を塗り替えていく。
00:01... 00:00。
江戸は椅子に座り、法律の専門書を再び開いた。あかりはその隣で、少し乱れた髪を整えながら甘い微笑みを浮かべている。しおりは食卓の前で静かに座り、微積分の本を広げていた。テーブルの上には、まだ温かい唐揚げの皿が並び、食欲をそそる光景が広がっている。
コン、コン、コン……。
そのノックの音は重く、規則正しく、権威に満ちていた。
「失礼します、福岡県警です。この付近で車両の足取りが途絶えた同僚を捜しています。お食事中に申し訳ありません」
江戸はあかりとしおりに視線を送った。彼女たちは最高に純粋な「建前」の微笑みを交わし合う。江戸は立ち上がり、罪一つない男の冷静さで、玄関のドアへと歩き出した。
「最後までお読みいただきありがとうございます。次回の更新は明日、22:00を予定しております。また明日お会いしましょう!」




