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第12章:崩壊の淵の最後の晩餐

#サイコホラー #知能犯 #残酷な描写あり #異常愛 #サスペンス #サイコパス

犬鳴いぬなきの夜はいつもより冷え込んでいた。江戸は眠れなかった。彼のINTP的な脳は、警察のレーダーに検知されない古道を通る逃走ルートを編み出すためにフル回転していた。偽造パスポート、現金、そして地下室の証拠隠滅のための化学薬品が、金属のトランクに詰め込まれていた。


「午前3時に出発するぞ、あかり。鑑識チームがこの村を包囲する前にだ」江戸はトランクに鍵をかけながら囁いた。


あかりは答えなかった。彼女は大きな鏡の前に立ち、お気に入りの赤いドレスを着ていた――二人が初めて一緒に殺人を犯した時に着ていた、あのドレスだ。彼女は自分の唇を、濃い血のような赤で彩っていた。


「聞いているのか?」江戸は近づき、あかりの肩を掴んだ。


「今夜は晩餐にお客様が来るのよ、江戸さん」あかりは鏡の中の自分を見つめながら、不気味な微笑みを浮かべて穏やかに言った。「あなたが壊しそびれた佐藤の携帯から、メッセージを送って招待しておいたわ」


「何だと!? 正気か!? 誰を呼んだんだ!」


ピンポーン……。


夜8時ちょうど、門のチャイムが鳴った。江戸は心臓が止まるような衝撃を感じた。彼が窓の外を覗くと、薄暗い街灯の下に一人の女性が立っていた。喪服のような黒い服を纏い、目は腫れ上がり、今にも壊れてしまいそうなほどもろく見えた。


それは、自分たちが破滅させたあの刑事の妻、佐藤小百合サトウ・サユリだった。


「彼女は真実を知りたがっているのよ、江戸」あかりが夫の耳元で囁いた。その吐息は温かく、甘い香りがした。「夫と同じ場所で死ねるなんて、なんてロマンチックかしら? 私たちの家の床下で家族の再会ね」


江戸はドアを開けざるを得なかった。あかりの狂ったゲームに乗るか、あるいは小百合に叫ばせて近隣をパトロール中の警官を呼ばれるか、二つに一つだったからだ。


小百合は食卓に座った。昨日まで夫が座っていた、まさにその椅子に。彼女の前には、あかりが用意した、食欲をそそる香りの肉料理が並べられていた――しかし、江戸はその「肉」の正体を知っていた。


「お会いしてくださってありがとうございます、犬神いぬがみさん」小百合の声は震えていた。「夫が……あんな汚職に手を染めるはずがありません。彼の携帯に残された最後のメッセージには、ここで何かを見つけたと書いてありました。私はただ……彼が『諦める』前に何を見たのか、知りたいだけなんです」


あかりは小百合のグラスに赤ワインを注いだ。「彼は美しさを見たのよ、小百合さん。あまりにも純粋で、彼の手には負えないほどのものをね」


江戸は小百合を見つめた。彼の論理が叫んでいた。「今すぐ殺せ、さもなくば逃がして自分たちが捕まるかだ」。しかし、目の前の哀れな女性を見て、江戸の中に残っていた僅かな良心が疼いた。彼は部屋の隅で静かに座り、母親の挙動を観察しているしおりの瞳を見た。


「あかり、もういい」江戸が掠れた声で割って入った。「彼女を帰せ。時間がないんだ」


あかりは笑った。その笑いは次第にヒステリックな絶叫へと変わった。彼女は肉切り包丁を掴み、小百合の手のすぐ横のテーブルに叩きつけた。ドスン!


「帰す? 私が心を込めて料理した後に?」あかりは包丁を舐めとり、狂気的な眼差しを江戸に向けた。「今更ヒーローにでもなるつもり、江戸? 夫を切り刻むのを手伝ったその手で? 偽善者ぶるのはやめて!」


小百合は目を見開いた。あかりの言葉の意味を理解した瞬間、彼女の顔から血の気が引いた。彼女は立ち上がろうとしたが、あかりは素早くその髪を掴み、小百合の顔を肉の皿へと押しつけた。


「食べなさいよ、小百合! あなたを一番愛していた夫の一部を食べなさい!」あかりが叫ぶ。


江戸はあかりに飛びかかり、小百合を放そうとした。彼らはワインで濡れて滑りやすくなった床の上でもみ合った。


「君が計画を台無しにしているんだ、あかり! 君の狂気のせいで俺たちは死ぬことになる!」江戸はあかりの体を押さえつけ、その首に手をかけた。


あかりはむしろ江戸の腰に脚を絡ませ、混乱の中で夫の唇を荒々しく、血が出るほど強く求めた。「なら今夜死にましょうよ、江戸! 犬鳴の月の下で! 隠れ家で退屈に生きるより、あなたと一緒に血の海の中で死ぬ方がずっとマシよ!」


小百合はその隙に逃げ出し、ドアへと走った。しかし、そこにはしおりが立っていた。その少女の手には、重厚な花瓶が握られていた。


「おば様……お父様が言っていたわ。始めたことは、最後までやり遂げなきゃいけないって」しおりは、この世で最も恐ろしいほど平坦な声で言った。


ピシッ……。


花瓶が宙を舞った。小百合の悲鳴は途絶えた。江戸とあかりはもみ合うのを止め、肩で息をしながら、力なく倒れた小百合の体の上に立つしおりを見つめた。


「もう本当に行かなきゃ、お父様」しおりは頬に飛び散った血を拭いながら言った。「それとも、警察が来る前にもう一度パーティーを楽しむ?」

「最後までお読みいただきありがとうございます。次回の更新は明日、22:00を予定しております。また明日お会いしましょう!」

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