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第9章:錆びついた桜

#サイコホラー #知能犯 #残酷な描写あり #異常愛 #サスペンス #サイコパス

犬鳴高校の校門は、地面で腐り始めた花弁を散らす桜の樹の下で、静かに佇んでいた。有馬アリマはそこに立ち、最後の一本の煙草に火をつけた。捜査対象者の子供に接触するのは規律違反だと分かっていたが、「ハゲタカ」としての直感が、江戸とあかりの闇を解く鍵はこの女子高生にあると告げていた。


しおりは、極めて規則正しい足取りで校舎から出てきた。他の子供たちのように走ったりはしない。彼女はタイル張りのラインのちょうど真ん中を歩いてくる。まるでこの世界が、すでに支配下にあるチェス盤であるかのように。


犬神いぬがみしおりちゃんかな?」有馬は、しわがれた声を努めて和らげて声をかけた。


しおりは足を止めた。彼女は顔を上げた。その大きく澄んだ瞳は、恐怖も好奇心も一切見せずに有馬を見つめた。空虚。 「刑事さん。亡くなった佐藤さんの相棒の方でしょう?」


有馬は自分の煙草の煙にむせた。「……なぜ分かった?」


「テレビのニュース。それに、お父様が言っていたわ。罪悪感を感じている人間は、子供を通じて贖罪を求めて学校にやってくるものだって」しおりは首を傾げた。「あなたは、佐藤さんを汚職に走らせてしまったことに罪悪感を感じているの?」


有馬は背筋が凍るのを感じた。この子は単に賢いのではない。ナラティブ(物語)を支配しているのだ。「佐藤は汚職なんてしていないよ、しおりちゃん。そして、君が何かを知っていることも分かっている。あの日、君のお母様は庭で何をしていたんだ?」


しおりが一歩近づいた。彼女は真っ赤なリュックを開け、銀色の紙で完璧に折られた鶴の折り紙を取り出した。


「お母様は種を撒いていたのよ、刑事さん」しおりが囁いた。彼女はその折り紙を有馬の手に握らせた。「犬鳴では、壊れたものを植えれば、土地は飢えた何かを育てるわ。私たちの家の床下で何が育っているのか、見てみたい?」


有馬は震える手でその折り紙を開いた。中には、乾いた茶色の汚れ――血――と、黒ずんだ小さな人間の爪のかけらが入っていた。


「今夜お会いしましょう、刑事さん」しおりが微笑んだ。あまりに甘い微笑みだったが、有馬は自分がたった今、死刑執行書に署名したかのような錯覚に陥った。


その夜、有馬は書斎の窓から犬神邸に潜入した。懐中電灯と拳銃を手にしていたが、板張りの床に足を踏み入れた瞬間、クラシック音楽――バッハの『G線上のアリア』――が屋敷の音響システムから静かに流れ出した。


「私たちの晩餐へようこそ、有馬さん」


地下室の明かりが一斉に点いた。有馬は振り向こうとしたが、ワインボトルによる強烈な一撃がこめかみを直撃した。彼はそのまま崩れ落ちた。


意識を取り戻した時、有馬はすでに江戸の医療用鉄製椅子に縛り付けられていた。口にはあかりのシルクの布が詰め込まれている。目の前には、赤い飛沫を浴びた透明なプラスチックエプロンを纏った江戸が立ち、その周囲をあかりが電動骨鋸こつのこを手に小刻みに踊るように回っていた。


「江戸さん、この目を見て!」あかりは歓喜の声を上げ、しなやかな指先で有馬の腫れ上がった瞼に触れた。「彼の目は正義感に満ち溢れているわ……神経の色が佐藤のと同じかどうか、確かめてみたいわね」


江戸は、滅びを予感させる冷徹な眼差しで有馬を見つめた。「一線を越えたな、有馬。君はしおりに触れた。論理的に見て、君の存在は我が家のエコシステム(生態系)にとって、もはや利益をもたらさない」


江戸は10番のメスを手に取った。外科医の精密さで、彼は有馬の額に細い筋を入れた。血が流れ出し、刑事の視界を覆っていく。


「あかり、早すぎるぞ」あかりが骨鋸を始動させると、江戸が命じた。キィィィィィン……という鋭い音が、犬鳴の夜の静寂を切り裂く。「彼がこの『清掃』の一秒一秒を確実に実感できるようにしなければ」


あかりは笑い、そして突如として残虐な動きで銀のフォークを有馬の腿に突き立てた。それをゆっくりと回しながら、背後から夫の首筋にキスを贈る。「これはしおりのため、これは私の愛のため、そしてこれは……快楽のためよ!」


鮮血があかりの顔に噴き出した。彼女はそれを狂おしいほどの情熱で舐めとり、一方で江戸は、壊れた機械を分解するかのように冷ややかに有馬の肉体を切り離し続けていた。


上の階の暗い部屋で、しおりは勉強机に座っていた。彼女は画用紙に「家族」の絵を描き、色を塗っている。しかし、彼女は赤いクレヨンは使わなかった。彼女は筆を、夕方に保存しておいた新鮮な血の入った小さな瓶に浸した。


ピシッ……。


そのひび割れる音は、もはや陶器のものではなかった。それは地下室から響く骨の砕ける音であり、荘厳なクラシックの調べと完璧に調和していた。


「最後までお読みいただきありがとうございます。次回の更新は明日、22:00を予定しております。また明日お会いしましょう!」


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