顛末
面会の日の毒入り紅茶事件は五日で調べ終えて犯人も捕まったらしい。
今日は事件の顛末を聞くために、執務室には私とパパ、クラウスとアルベルト、執事長と補佐官に祖父と叔父の八人が揃っていた。
「まず、茶葉の毒ですが温暖な国に自生する致死性が極めて高い毒を持った植物でした。それを乾燥させ、細かく刻んだものが使用されており、その毒は保管庫にある茶葉からも検出され、茶葉を勧めた菓子職人は金銭を渡されて前日に毒を混ぜたことを自白。金銭を渡したのは皇子派のドルバン子爵だということも分かり、ドルバン子爵を捕縛し、尋問したところ容疑を認めましたが、皇妃様が関わっていた証拠は残念ながら掴めませんでした」
「トカゲの尻尾切りと言ったところですか」
「全くだ…その菓子職人とドルバン子爵の審判はどうなるのですか?」
「菓子職人並びにドルバン子爵は王族並びに高位貴族殺人未遂の罪で斬首刑が確定している。そして、ドルバン子爵家の貴族階級剥奪を行った」
「まあ、妥当ですな」
極めて致死性の高い毒なんて、もしあの時クラウスが気づいていなかったら確実に飲んで死んでいただろう。
準備中に三人と同じティーカップの方がいいんじゃないかと言った過去の自分の考えが浅はかで警戒心が足りていなかったことに反省した。
視察から帰って二週間、平穏そのものな生活をしていたから気が緩んでしまった。皇妃や皇子派は私も殺そうとしているんだから、問題が解決するまで油断なんてできないのに。
これからは気をつけようと自分に喝を入れて、話し合っているパパ達の話に耳を傾けた。
「陛下、こんなことがあったのですし皇女様主催のお茶会は中止にした方がいいのではないでしょうか。主犯は捕まえることができなかったのですし、お茶会を妨害してくる可能性が高いかと」
「俺自身、アリオスの意見に賛成したいのが本音だが、厄介なことに中止にすると元老院が出てくる」
「きちんとした理由があるのにですか?」
「元老院は完全に皇子派なんです。ですので、皇女様主催のお茶会を中止にすると、“お茶会をまともに開くこともできない方が未来の皇帝になど到底なれるわけがない”等言って皇女派の貴族を皇子派にさせようとしてきます」
「ああ、それは…厄介ですね」
今回の事件は、ずっとどこか引っかかっていた。だけど、上手く言語化できなくてモヤモヤしていただけだったのが、皆の話を聞いて今やっと言語化できた。
今までのような安直で愚策な暗殺未遂事件ではないんだ。今回の事件も一見すると皇子派が紅茶の茶葉に毒を仕込んで殺そうとしたように思えるけど、事件が解決しても後を引いている。
今までなら、解決すれば終わりだったのに。先のことを見据えての犯行をされたのは初めてだ。
隣で私と同じように聞いているだけのアルベルトの服を軽く引っ張ると、気づいてくれたアルベルトがしゃがんでどうしたのか聞いてくれた。
「本当にこの事件って皇妃が指示したのかな?」
「と言うと?」
「初めてでしょ、先を見据えて事を起こしたの」
「…っ!!」
少し考えて、アルベルトも気づいてくれたようで、すぐにパパ達に声をかけた。全員がこちらを向いて、パパから「どうした」と聞かれたアルベルトが、私の代わりに伝えると、全員がハッとした顔をした。
何で気づかなかったんだと頭を抱えながら、全員が改めて思考を整理して、十分くらい経つと中断していた話し合いが再開された。
「確かに、初めてですよ。先を見据えた犯行は」
「そうなると、今回は皇妃様が指示をしたわけではない可能性が高そうですね」
「ですが、その場合誰が主犯なのでしょうか」
「違う人間を選択肢から消していった方が早くねぇか?」
「そうなると残るのは…元老院とメルディエ公爵家だろうな」
「メルディエ公爵家は皇子派のくせに気味が悪いくらい静かですから、怪しいと言えば怪しいですな」
「当主は頭の切れる人ですし、もし本当にメルディエ公爵家が主犯なら相当厄介ですよ」
初めて話の話題に出てきたメルディエ公爵家。私自身も家名と当主と妻、娘と息子が一人ずつの四人家族ということだけしか知らない。
講師の先生に教えてもらった時は謎だらけの家だと思っていたけど、パパ達もよく分からないなんて気味が悪くなった。
そんな家が皇子派だなんて、何を企んでいるんだろうか。当主が頭が切れる人なら、国家転覆でも狙っているとか?
そこまで考えて怖くなったから、これ以上最悪なことを考えるのはやめた。考えるだけ今は無駄だ。
パパは皆の話に耳を傾けながら、顎に手を置いて何かを考えていた。その姿のまま数十分が経った頃に、真剣な表情で補佐官の方へ視線を向けた。
「…お茶会は開催する。ブラント、お茶会で口にする飲み物や食べ物は事前に毒が盛られていないか徹底して調べろ。食器も全てだ。その時の警護の方も強化させる」
「かしこまりました。手配の方はこちらでしておきます」
「グレイク、お前はメルディエ公爵家を秘密裏に調べろ」
「お任せ下さい」
「今回の件の主犯者がまだ特定できていない上に相手がどう出るか分からない以上、こちらはとにかく気をつけるしか今はない。クラウスとアルベルトはより一層周りに警戒してレイシアを守れ」
「ああ、分かった」
「承知いたしました」
それぞれに指示を出して全員が了承すると、パパは話し合いは終わりだとお開きにさせた。
私はこの後ママに会いに皇后宮へ行くらしい祖父と叔父と軽く話して、落ち着いたらまた改めてお茶会をしようと約束をし、二人と別れてクラウスとアルベルトと一緒に自分の部屋へ戻った。




