第3の選択肢
能力のインターバルが終わり、全ての能力がまた使えるようになった
バッテリーは無くなったから大丈夫かと思いきや、次はスマホで盗撮し始めたのだ
さっきと違ってバッテリーを抜き取ることは出来ないし、かといってバキバキに折るのも気が引ける……本当は思い切りぶち壊してやった方がいいんだろうけど……
インターバルは回復するとはいえ、その間にも撮られる写真の枚数は増えていく
「……一旦脅してみるか」
私は女の身体を乗っ取り、そして携帯画面に文字を打ち込んだ
「……はっ、ま、まただ……また記憶がってな、何これ⁉︎」
携帯の画面には『盗撮をやめないと呪いをかける』と表示されていた
「ひっ⁉︎や、やっぱりゆ、幽霊⁉︎」
「そだよ?」
「ひぃぃぃぃぃい‼︎」
「ということでこの携帯の表示もウソじゃないし、記憶が飛ぶのも私のせい……だから……これ以上何かするなら、どうなっても知りませんよ?」
カタカタと身体を震わせる女。そりゃああり得ない事情が次々と起こっているのだからこうなるのも無理はない。私がやられる側だったらと考えるだけで恐ろしいし
もうガタガタで腰が抜けそうになっているけど、最後のダメ押しだ
「ねっ?」
そう言いながら肩をポンポンと叩いた
「……あ」
そうポツンと呟いて、女は倒れ込んだ
「……やりすぎた」
まさか気絶されるとは……でもまあこれぐらいすればもう懲りてやめーー
「……諦めない」
「……へっ?」
「どんなにびっくりさせられても……私はやめるわけにはいかない‼︎私がこの件から手を引いたらクビにされちゃう‼︎家族を……養えなくなっちゃう」
身体を起こして、携帯で盗撮を始める女。気絶するくらい驚かせてもやめない辺り、この発言は本当なのだろう
可哀想という気持ちはあるけど、それでも蘭さんに行っている行為を正当化させるわけにはいかない
だから私が第3の選択肢を与えてあげればいい
♢ ♢ ♢
再度能力が全て使えるようになった。ということで早速実行に移すことにした
まずは身体を乗っ取り、携帯のメモ機能で画面に文字を打ち込んだ
「ま、また私……ってな、何これ……『ら、蘭さんから手を引けば立原のヤバ』……ヤバ?」
そして今度は私の物を触る能力で携帯を奪い取った
「わ、わわっ‼︎私の携帯がっ⁉︎も、文字を打ち始めた⁉︎」
15秒みっちり使い、文字を打ち終えた
「『ヤバい裏の顔を教えてやる。もちろんその場面をカメラに収められるようにもする』……こ、これ本当なんですか?」
「本当だよ」
「わぁっ⁉︎」
「私は毎回ちょっとずつしか喋れないから手間がかかる方法で伝えさせてもらったけど……どうする?まあ拒否するならさっき言った通りどうなるか知りませんけど」
実質選択肢は1つに絞らせた。損はさせてないし、蘭さんのことを追うよりもさらに価値の高い情報になるだろう
「……その言葉、信じていいんですか?」
「……時間切れる。あとで」
「へっ?え?あ、おーい?……え?時間切れるってそういうこと?」
女は一旦携帯を触った。だが今回はカメラで盗撮するためじゃなく、幽霊に関して検索をかけていた
「よし。答え聞こうかな」
突然話しかけてもびっくりすることはなくなり、表情も覚悟を決めたようなものだった
「……その話、乗らせてください」
「よしきた」
私は携帯を拝借し、場所と時間をメモ機能に書いて返した
「……ありがとうございます」
女は携帯とカメラを持ってどこかに走っていった
「これで一件落着かな」
とりあえずストーカーの件はどうにか出来た。あとは見守るのみ
「……頼んだからね」
……あ、バッテリー返し忘れた
♢ ♢ ♢
「撮影終了です‼︎お疲れ様でしたー‼︎」
全ての撮影が終了した。蘭さんはお茶を飲んで一息ついていた
「お疲れー!」
体力を回復中の蘭さんに、体力を削いでくるクソ男が現れた
「……お疲れ様です」
さすがは蘭さん。関わるのも嫌であろう相手でもこの界隈では先輩に当たる人物。至って普通に見えるように返答を返した
「今回も良かったよー?蘭ちゃんはミスがほぼないから撮影すぐ終われて楽だよ!」
「ありがとうございます」
「でさ?もうすぐ晩御飯時だし、食事でもどう?近くに美味しい鰻屋さんがあるんだよ」
「……せっかくのお誘いありがたいですが、遠慮しておきます」
丁重にお断りする蘭さん。逆にこの男はなぜこの誘いに乗ってもらえると思ったのだろうか……
「……ねえ?なんでそんなに俺の好意を無下にするの?」
蘭さんの耳元で、周りに聞こえないような小さな声と笑顔で圧をかけてきた
「私があなたに興味がないからです」
「おお。ストレートに言うね。……というかもしかして付き合ってる人でもいるの?」
「いません」
「だったらーー」
「付き合ってる人はいませんが、好きな人はいるので」
蘭さんの発言に、立原の顔は少しだけ曇りを見せた
「……俺にしとけば?イケメンだし高収入だし声も良い。俺と結婚すれば知名度もさらに上がって仕事も増えるだろうよ」
「嫌です」
「はぁ?……賢そうに見えて実はバカなのか?」
あまりに靡かない蘭さんに痺れを切らしたのか、とうとう立原は暴言を吐いた
「……私の好きな人より、立原さんは高収入で知名度上昇にもなって仕事も増加させてくれるんでしょうけど。残念ながらイケメン度なら立原さんの方が明らかに下です。優しさも同様に。声は……同等ぐらいかな」
「……は?俺よりイケメンだと?」
やっぱり癪に触るのはその発言だよね。予想通りすぎた
……もういいですか?早く帰らないといけないので」
蘭さんは着替えるために1度楽屋に戻った
「……ふざけんな」
ありゃ完全に怒ってるなぁ……余計なことを言い過ぎたせいで立原のプライドに火がついてしまっている
「蘭ちゃんお疲れ様。今回も出来映え良かったし、またよろしく頼むよ」
「お疲れ様でした。またよろしくお願い致します」
各方面に挨拶を終え、蘭さんは外に出た
「……寒っ。もう一枚着ようかしら」
冬場の寒さに耐えられなかった蘭さんは上着をカバンから取り出した
「おい待てよ‼︎」
またも蘭さんの前に登場した立原。この執拗……ストーカーと変わりない
「……まだ何か?」
「飯行こうって言ったよな?」
「断ったじゃないですか」
「拒否権なんかあると思うか⁉︎いいから行くぞ‼︎」
「ちょっ⁉︎」
拒否する蘭さんの手を無理矢理引っ張る立原
「はいストップ」
その立原の手を違う手が掴み返した
「……あ、俳優の人じゃん」
「み、みみみみ湊さん⁉︎」
颯爽と現れたのは湊だった
「な、なんでここに……」
「初芽に頼まれたんだよ。夜遅くなるだろうから迎えに行ってあげてって」
本当は私が初芽にお願いして頼んだ
理由は簡単。立原に蘭さんを諦めてもらうためだ
「だ、誰だよお前?コイツとどういう関係だよ!」
「関係……関係か……蘭さん。俺らってどういう関係?」
「今聞かないといけないことですか⁉︎」
まあ確かに曖昧な関係ではある。恋人関係ではないし、店員とお客さんという関係でも間違いじゃない。1番適切に表すとすれば友達関係かな?
「というかそんなに関係ない人間なら引っ込んでてくれる?」
「そう言われても……迎えに来ただけなので」
「じゃあ良いよ。俺がご飯行った後に送ってくから」
「そうですか?それならまあ」
「み、湊さん⁉︎」
助けるどころかそのまま流されてしまいそうな湊。
あ、あれ?こんな頼りないことある?
「ところでなんですけど、あそこの人めっちゃカメラ向けてますけど」
「な、何⁉︎」
立原はその言葉に振り返った。いくら事務所側が圧をかけるとはいえ、情報を握った先がどこかは把握しないといけない。それにその向けた人間が週刊誌ではなく一般人なら尚更ヤバいことになるだろう
「……お、おい!お前ウソついてーー」
振り返ると、2人は逃げ出していた
「あ、あの野郎‼︎待ちやがれ‼︎」
「あっと残念。追わせるわけにはいかないんだよねぇ」
私は立原の身体を乗っ取って、湊達とは反対方向に走り出した
前言撤回。やっぱり私の夫は頼りになる人だった
……私の助太刀なかったら追いつかれてたかもだけど
♢ ♢ ♢
「ふぅ……意外と巻けるもんだ」
追跡の気配がないことを察した湊は、走るのをやめた
「あ、ありがとうございます。湊さん」
「礼は初芽に。まあ何か起こる前で良かったよ」
蘭さんを諦めさせるという目的は多分達成出来てないけど、立原は湊の顔を見て少し動揺した様子は見せていた
自分よりイケメンだと言う蘭の発言が事実だとは思ってもみなかったのだろう
「そ、そうだ!今日のお礼も兼ねてなんか食べて帰りませんか?私奢りますわ!」
……素晴らしい。ハロウィン以前の蘭さんに今の姿を見せてあげたい
「食べて帰るのはいいですね。でも奢りは無しで」
「で、でも……」
「奢るならこの話は無しで」
「うっ……はぁ……わかりました。奢り無しで食べに行きましょう」
思わぬ副産物が入った。2人きりでのご飯だなんて……これは今夜お赤飯の準備をーー
「あ、お二人も呼びます?」
「……えっ?」
えっ?
「今からならまだ来てくれそうですし……」
「……いいんじゃないですか?」
「あ、あれ?なんか不機嫌になりました?」
「別に?私と2人きりになるのがそんなに嫌なら呼んでもよろしいのではないですか?」
「い、嫌ってわけじゃないですよ⁉︎2人が居た方が蘭さん的にも楽しいんじゃないかって思って!」
「もういいです。……あ、初芽。この前行った駅近の居酒屋に30分後集合で。あと由布子さんにも来れるか聞いておいてもらえる?……うん。うん。ありがとう。またあとでね」
蘭さんは電話を切った
「さて行きましょう。私達が遅れるわけにはいきませんから」
明らかに不機嫌な様子で早歩きで急ぐ蘭さん
「ご、ごめん‼︎ま、また今度2人で行きません?ね?」
「いやいいです。2人きりは嫌そうなので」
「だから嫌じゃないんですって‼︎」
……湊。さすがにそれはないよ
私の湊への評価が1下がった




