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あの時が聞こえる  作者: end&
間奏:過去の過去「クラリネット消失事件」
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27/42

犯人を捜さなければならない理由

 留海は理世を軽く睨んで言う。「あの子のケースから私のクラリネットが出てきた。もうそれだけで不愉快なのよ、私は」

「では、別の誰かが先輩のクラリネットを優穂のケースに入れたとしたらどうです? それでも優穂を恨みますか?」


 理世の言葉に、留海は低く唸る。

 言い返せないのか、矛先を教室の後ろで見守る顧問の佐藤に向ける。


「先生! こんなことしてる暇あるんだったら練習しましょうよ! そのためにみんなこうして集まってるんですよ!」

「留海の言い分はわかる。だけど、本当に優穂がやったかどうか、学校側としてははっきりさせなければならないんだよ」

「何でですか? あの子は自分から吹奏楽部を辞めた。それが証拠なんじゃないですか?」

「だけど、やったとも言っていない。委員会から戻ってきて、いきなり『窃盗犯』なんて言われて、部活の雰囲気も悪かったら部活に残りたくないだろ、なあ」


 佐藤は黒板側に座った金管組二人に話しを振る。


「自分が犯人じゃなくたって、あの時の雰囲気は居心地悪かったよなあ、にぃ?」

「わたしは怖かったですよ。自分が怒られてるみたいで」


 聖良から新夏へと会話のバトンが渡される。

 聖良が手を上げて佐藤に質問する。


「先生、学校側としてもはっきりしたいって、どういうことっすか?」

「今、優穂は保健室登校をしている。そうだな、深澤」

「はい。それでも週に三日来てればいいほうです」


 佐藤は吹奏楽部の面々を見て言う。「優穂の保健室登校が吹奏楽部のせいだと、PTAから言われたら、吹奏楽部は大会どころじゃなくなる」


 一斉に息を飲むのがわかった。


 部長でもある留海が真っ先に反論する。


「保健室登校なんて、個人の問題じゃないですか! それも全部学校のせいにするとかマジ考えられない」

「優穂は、不登校気味なのを吹奏楽部のせいだって、親には言ってないですよ」


 理世の口調はいたって冷静だ


「だったら、子供の喧嘩に首を出す親バカってこと」

「留海、少し冷静になれば? ロングトーンでもやりなよ」

「あんたね、」


 聖良に向かって吠える。「盗まれたのが自分の楽器じゃなかったからそんな風に言えるのよ!」


「熱くなるのは演奏中だけにしろって。そりゃ、自分の楽器じゃなくてよかったって思ったよ」

「マジ最低」

「だけど」


 少し強めの口調で聖良は言い返す。「マイ楽器持ってっから、留海が熱くなるのはわかるっての。少しは頭冷やせって。淑子ちゃんが言いたいのは優穂の親から学校に連絡が入ることじゃなくて、他の生徒の親から連絡が入った時に、ちゃんとした説明ができないってことだよ」

「聖良の言う通りだ」


 佐藤は頷く。「盗難事件に関しては箝口令をしいたところで、だいたいの生徒が知ってるんだろう? 今のところそれに関する問い合わせはないから、親には話してないんだろう。だけど、保健室登校の生徒がいることに関しては箝口令をしいていない。

 だが、なぜ保健室登校に至ったのか? 不登校になったのか? 夕ご飯食べてるときに、いじめに関するニュースとかが流れて、生徒の誰かが『うちにも不登校の生徒がいる』と言った場合、その親の何人かは『どうして?』と聞く可能性がある。あるいは、『盗みをして不登校になった』とハッキリいう生徒も出るかもしれない。一パーセントにも満たない確率かもしれない。だけど、ゼロでない限りはあり得る話だ」

「淑子ちゃん、そういう問い合わせ来たらどうするの?」


 聖良が聞く。


「まずは教頭先生が電話に出て……、はっきり事件があったというかもな。だけど、『犯人は誰か』と聞かれた場合は、さすがに個人情報だから、優穂の名前は出ない」

「だったらいいじゃない。高校に個人情報守ってもらえるんだから」

「でも生徒のほとんどは、優穂が犯人だと誤認しているので、父兄に聞かれた場合、優穂だと答える可能性が高いです」


 佐藤は理世に続いて口を開く。


「そうなれば冤罪問題になるかもしれない」

「優穂のお父さんとお母さん、モン、モモヒキ?」

「モンスターペアレンツ」


 理世の言い間違いを新夏が正す。


「その、モンスターペアレンツっぽくはないですけど。誰の何が盗まれたんだって、畠山先輩の名前も出ることになると思いますよ」

「は? 私は被害者よ! なのになんで犯人みたいな扱いを受けなきゃだめなわけ?」

「犯人がいないからです」


 留海はきょとんとする。


「犯人がいない。明確な回答がない。だから人は勝手にあれこれ想像を膨らませるんです。傍観者にとって、被害者も加害者も同等なんです。ニュースなんか見てると、加害者ばっかり晒して、被害者の情報がないじゃないかって怒る人もいるみたいですね。今は加害者と同じ分、被害者の情報もさらされるんです」


 言葉を失う留海に聖良が言う。


「だから頭冷やせって言ったろ、留海。この子は友人のために動いてるかもしれない。でも、事件が解決したところで、池端がまた普通に登校できるかはわからない、そうだろ?」


 聖良の問いかけに、理世は苦笑いを浮かべる。「学校に通えるかどうかは本人のがんばり次第なので」

「にぃの友達ってことで立会人引き受けたけど、この事件はすごく複雑なんだよ。噂の独り歩きで、うちら、最後のコンクールに出られなくなるかもしれない。だから犯人ははっきりするべきだと思う」

「私も、聖良と同じ意見だ。だからこの時間は無駄だとは思わなかった。長く歩きたかったら休憩は大事だ」


 佐藤は静かに言う。


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