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あの時が聞こえる  作者: end&
本編
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20/42

現代:コンクール予選

 地方予選は目立った混乱や事件もなく、無事に終わった。


 予選当日、本来学生コンクール担当のライターに同行させてもらった。


 最近、同僚に学生のピアノコンクールについて質問する機会が多く、移動中に熱く語られたが、実のところそうでもないというのが心苦しい。


 だが、何度も学生の演奏を聞くうちに、どこが持ち味で、どこが苦手なのかがわかるようになった。

 ここをこうすればもっと良くなるのに、などと考えている自分に気づいた瞬間、まるで先生だなと苦笑がこぼれた。


 会場となったホールで、中西とその生徒にも会った。

 演奏が終わったばかりで安堵の様子が見受けられた。

 とりあえず、一段落つけたのだろう。

 これで本選への進出が決まれば、その時点で気を入れ替え、新たな課題曲に向かう日々が始まる。


 これから会社に戻るという同僚とは地下鉄の駅で別れ、自分は帰路についた。


 予選会場では何も起きなかった。


 やはり、日学ピアノコンクール出場者を狙った事件というのは、偶然だったのだろうか?

 それとも、襲う余裕がなかった?

 付き添いで来た父兄は多かった。その目がある中での犯行は確かに難しい。


 ――犯行が難しい?


 駅での事件と同じくその場から走り去ればいいのではないだろうか?

 駅での変装は、制服に身を包む高校生や、セミフォーマルな衣装に身を包んだ大人たちが大勢いる中では目立つ。


 だが逆に、予選会場に来る人たちの装いを知っていれば、その通りに着込み、紛れこむことは簡単だ。


 会場となったローレルホール。

 入ってすぐ、目の前に二階直通エスカレータが設置され、左右に広い階段があり、途中踊り場があり、階段を使った場合、直通エスカレータと途中で逆方向に向かって登る構造になっている。


 以前、国際展示場で人が殺到して登りのエスカレータが人々の重さに耐えきれず、逆走――逆回転と言えばいいのだろうか? 後退する事故が起きてから、都内の公共施設では、来場者数が多い場合は、エスカレータの使用を禁止するという処置がとられるようになった場所が多い。


 今回、ローレルホールの中央エスカレータは正常に稼働していたが、これがオーケストラコンサートや、来日ピアニストのコンサートとなれば、使用禁止の柵が設けられるという。


 エレベーターは階段の脇に左右二機ずつ、計四機設置されている。


 そのさらに奥に進むと駐車スペース側の出入り口がある。


 犯人は逃走経路の確保が不安で犯行を断念したのだろうか?

 だが、駐車場側の出入り口は空いているし、正面玄関も、大通りに面しているため、人ごみに紛れることも可能だ。フォーマルな服でも浮くことはない。


 自分が乗るべき地下鉄の改札が見えてくる。


 ふと、どうしても今回の事件、犯人を作りたくてしょうがない自分がいることに気が付き、口の中に苦いものが広がる。


 偶然だったんだと、斎藤寿々菜の事件からずっとそう思おうと努力してきた。

 だけど、「付き落とし」という行為が、あの時の記憶を呼び起こすのだ。


 天才が、あっけなく死んだときの、あの事件を。


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