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あの時が聞こえる  作者: end&
本編
13/42

過去:無機質プール

 高校総体、競泳の日程は三日だ。


 一日目はほぼ予選で、出場者の少ない種目は予選なしの決勝から始まる。

 二日目は、予選と決勝の混合。

 三日目は決勝戦のみ。


 部員数の少ない高校などは、三日目の決勝に残った生徒がいなければ、二日目で会場を去る場合もある。


 そこらへんは、宿泊費――宿の問題などもあるのだろう。


 会場が自宅から近い市内の各校の生徒は自転車で来ているようだが、私たちの高校は、車で片道二時間近くかかる。


 なので、車で約三十分ほどの宿を借りている。

 一般的な宿が、この時ばかりは各校の競泳選手たちに占拠される。


 競技開始は朝の九時から。


 七時からアップ用にプールは解放されるが、泳げるのは八時半まで。

 それから、開場職員たちの手により、各レーンのタイム表示の電光掲示板と連結されたタッチプレートや、センサー付きのスタート台がセッティングされる。


 会場は、落成したしたばかりの県立総合プール。入口のパンフレットを思わず手に取る。


 観客席は二階の東側と西側にあり、その中央、見下ろす位置、一階に長水路――五十メートルプールがある。

 県内初の屋内長水路プールだ。


 競泳プールの隣には、飛び込み競技用の高い飛び込み台と、横幅二十五メートルのダイビングプールがある。

 競泳側は水深二メートル五十センチ。ダイビングプールのほうは水深五メートル。


 そんな深さは、海でも泳いだことがないんじゃないだろうか?


 こちらがメインプールで、正面エントランスの反対側にサブプールがあるそうだが、当日は、ダイビングプールの水深を一メートル五十センチにして、アップダウン用のプールにするらしい。


 そんな装置があるなんて知らなかった。


 午前中まで普通に授業を受けて、午後から貸切バスに揺られて会場に到着した。


 山本部長の指示に従い、泳ぐ準備してプールに行くと、市内在住の生徒だろう。すでにコースロープの張られたプールで最終調整を始めていた。


 いつも通り、柔軟体操と共に軽い筋トレをして、それぞれ()いてるレーンや、同じ種目の選手が多いレーンに入って泳ぐ。


 男女なんて関係ない。


 とにかく少ない時間で、普段泳がない水深二メートル五十センチの泳ぎ心地を体に覚えさせる。

 私が今回エントリーしたのは、平泳ぎの百メートル一種目だけ。


 自由形と平泳ぎを選ぶ選手は多い。十七人いる部員の中から、一年生で百メートルに挑戦させてもらえるだけでもマシなほうだ。


 五十メートルプール自体は、高校の近くにもあるが野外で、水深も二メートルもない。


 蹴伸びスタートして思ったことは、「深い」ではなく、「遠い」だった。向かい合ったプールの底が遠いのだ。


 水深が深いほど、水の波の跳ね返りが少なく、波の影響を受けず、いい成績が出やすいというが、どうだろう?


 始めの二百メートルをクロールで慣らし、次に平泳ぎをスローストロークで泳ぎ、続いてピッチを上げて泳いでみる。


 やっぱり、泳ぎ慣れてない感が尋常ではない。


 スタート位置に足を引っ掛ける溝があるが、身長が百六十センチくらいだと顔を出すので精一杯なんじゃないだろうか?


 目の前の壁も高い。

 全力で泳ぎ終わったあと、ここに手を付いて一気に体を水中から持ち上げることは可能だろうか?


 先にプールから上がってた一生が話しかけてくる。


「君、怖くなかった?」

「何が?」

「プール深いの。海とかと違って何もなくて逆に怖いんだけど」


 自分は、「さすが新品のプール! 塗装がはがれた学校のプールとは大違いだしゴミも浮かんでない」と、純粋に感動していた。


「レース始まったらそれどころじゃなくなるって」

「君は百メートルであっという間かもしれないけど、あたしなんて、四百メートルだからね! 君の四倍だよ!」


 一生の場合、校内選抜で短距離ではいい成績が出せず、エントリー者がいなかった四百メートルに自動的に決まってしまったわけで。これはもう、がんばれとしか言えない。


「色の白い子たちって、普段からこのプールで練習してるんだろうね。うちらアウェーだよね」


 そう言う一生も自分も、我が校の生徒はほぼほぼ、同じような色にこんがりと焼けていた。

 見る限り、肌の白い選手と黒い選手は半々くらいではないだろうか?


「まだ泳いでる人はそろそろダウンして上がって! 五時には宿の方に移動だから!」


 珍しく山本部長が大きな声を上げる。


「先に上がった人も更衣室がいっぱいになる前に着替えたほうがいいぞ」

「君、行こう。あのカーテン付きの着替えスペース使ってみたい!」

「女同士で何を隠す必要があるの?」

「女同士だからこそ気にするんだよ、胸とか、胸とか、胸の大きさとか!」

「誰も気にしないし、そんなじろじろ見ないでしょ」

「あたしが気にするの!」


 案の定だが、カーテン付きの着替えスペースは満員御礼で使えなかった。


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