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我が家のペットは兵器である  作者: 御影冬馬
想刻の錬星術師
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96 交渉成立

「さて、これがさっき言ってた効率的な精製方法を実現する装置――コアクォーツ、ルクスリアです」

 チャリっと金でできた鎖に縛られている無色の石が淡い光を放つ。形状は首に下げるネックレスで一見すると普通の水晶をペンダントトップに置いたアクセサリーである。

「ほうほう。もはや少年のする行動に驚かなくなっている自分がいるよ。なんだそれ、お前は物ならなんでも創れるってのか」

「いえ、なんでもとはいきません。素材は必要ですし、作る手間がかからないってだけですよ?」

「詭弁だろそりゃ。思いついたままに現実として起こすことが出来るのは……いや、今はいいか。それで? ルクスリアだったか。どうやって使うんだ、やってみせてくれ」

 論より証拠。ステラはこの装置の機能を実際に見せろと言うのである。

「あーうん。無理」

「は!?」

「いやそこで驚愕するのか。えっとですね、創ったのはいいですけど、起動式に必要なデータが入ってないんですよ」

「どういうことだ。詳しく説明してくれ」

 えぇ、難しいことを要求するなぁ。言葉にするのって案外できないものなんだよ?


「……そうだ。こうすればいっか」

 面倒になった俺はステラの左手を右手で掴む。掌の間にルクスリアを挟む形で。


「きょーま、はいこれ」

 と、タイミングよくアリアが小石を拾ってきてくれた。こういう細かい事に気が利いて本当にありがたいと思う。


 小石を左手に置いてもらい、その上に空いている手を重ねるようにステラに告げた。


「こ、こうか? むむ、少年とはいえ男に手を握られるのはなんともむず痒いな。あはは」

 若干顔を紅くしてステラがそう呟くが、変に意識してしまうのでやめてくれ。細くて綺麗な指だなぁとか、柔らかさの中にも芯がある技術者の手だとか今は考えなくていいんだってば!

「ごほんっ。えーっと、始めますね――――」

 気を取り直して、俺はルクスリアを起動するべく鍵言を唱える。


「想いを、世界に――」

「刻み込め、大地へと」


 俺の第一節のあとに続いてステラが紡ぐ。

 まさか知っているとは思わなかったが、よく考えてみれば不思議な事でもないな。俺の中に在るコアは元々彼女が創った物なのだから、きっとその知識すら刻まれていたのだろう。


「練り上げるのだ、空に」

「星の、輝きを――――」


 ただし、最後の語句は俺にしかわからない。

 というか、実のところコレだけ言えば起動したりする。上のは気分的にってやつだ。


「――――ルクスアップ」


 コア精製装置がひときわ輝き、合わせた手の間から光が漏れ出す。


「これは……成功、なのか?」

「えっと、どうなんですかね。俺もビックリです」

 小石は命の光を灯すプライマルコアへと変貌を遂げていた。まばゆいほどの光が部屋を照らし、空気さえも暖かくしていく。


 ただし、光は青ではなく。


「虹色なんて、私ですら初めてだぞ」

 そう。プライマルコアを幾度となく創ってきたステラですら驚く虹色の光を灯していたのだ、このコアは。


『おそらくデータの読み取りにステラ・ブリジットだけでなく奏響真を構成する部分まで入り込んでしまったのが原因かと思われます。起動自体の成功は確認しているため、本来の使用者が単独で行えば通常通り青い輝きのプライマルコアが精製されるはず、たぶん』

 おい、ここでたぶんとか言わないでくれるかな。不安になっちゃうだろ。

『ははは』

 笑って誤魔化された。まぁいいけれどさ。


 内なる声と談笑するのもいいが、現実に戻ろう。

 考察ではあるが俺としても相違ない意見だったのでステラにそれを伝えてみた。


「なるほど……そういう仕組みだったのか。いまさらながらコアの創り方なんて知ったぞ」

「今まで知らずにやってたんですか」

「私にそこまで専門的な知識はないからな。実のところ錬星陣だって古代遺跡に残されていたものを勝手に私が拝借したやつだ。ああ、それについての罰ならちゃんと受けているから心配するな。この通り、老化という本来人間の持つ機能を失うはめになってな。旧知の者が去っていく中、独り残されるのは存外心に響くものだぞ」

 不老と聞こえはいいが、問題がないわけじゃないってか。不死ではないから、一応終わりはあるけれどね。

 って、あれ? 錬星陣を使ったら不老になるみたいに思える台詞だったのは気のせいかな。さっき俺も一緒にやっちゃったんだけど! 大丈夫だよね!? 誰か教えて! あっ、最悪の場合でもステラが共にいるなら永遠というのは苦じゃないか。それにどっちにしろ、元々寿命なんてあってないようなもんだしね。機械仕掛けの心臓が入っている時点でさ。


 で、話は戻るけど。


「ルクスアップ!」

 ステラは一抱えもある巨石に両手で触れて鍵言を唱える。すると、大きなプライマルコアが一丁上がりってな具合だ。

「どうですか。体に不調とか違和感は」

「ないな。これならいくらでも創れそうだぞ! ルクスアップ、ルクスアップ……ルクスアーーーップ!!」

 わっはっは、なんて笑いながらステラはコアを精製していくが――それくらいでやめておいた方がいい。

「もう、石がないな。やりすぎたか?」

 部屋がコアで埋め尽くされていた。

 調子に乗ったステラに応えるべく、アリアとベルが倉庫からコア用に切り出しておいた巨石をどんどんと運んできたのがいけない。止めなかった俺にも責任がある? 知らんがな。むしろ良かったんじゃね、普段から仕事としてコアを精製しているみたいだしさ。お金になるよ、うん。


「あ、使用に際する注意点を説明するのを忘れていました」

 プライマルオリジンを軸として製作したのはいいが稼動には相応のエネルギーを消費するのである。先ほどまでのはルナタイトから抽出した素子を使っていたので問題なかったが、充電するっていう概念があるのは教えておかなければならない。

「なんだ? もしや精製回数に制限があるとかじゃないだろうな」

「ないです。いくらでもご自由に。でも、一つ憶えておいてほしい事があります」

 重要かと聞かれたらノーだけど、ありえなくはないからね。


 ルクスリアの稼動エネルギーはなんというか、光そのものなのである。

 現在、祭壇のあるこの部屋には月明かりが満ちており――場所としては最高な状況だ。


「つまり、光のあるところなら制限なく使えるってことか」

 要約すればそうだけど、うーん?

「うん、真っ暗闇じゃなければね。月明かりだけじゃなくて太陽光でも可能で、ただし自然光に限るって話」

「電球の光は駄目なのか? ちなみにこの洞窟内に配置してある電灯は太陽光を変換して貯蔵してあるものなんだが」

 それは……うん。無理みたいだね。

 ルクスリアをポーチから出した黒い布で覆い、電灯に近づけてみても反応がなかった。

「そうか。なんらかの装置を通してしまうと消えてしまう何かを媒体にしている、と。まぁ、今までのことを考えれば問題あるまい。ありがとう、少年。これで勝つる!」

 なにそれ。誰と戦っているんだあんたは。

「冗談はさておき、これ、いくらで譲ってくれるんだ。技術は私のを模倣した物であっても、デバイス自体は素材もそうだが――」

「え、あげるよ。そのために創ったんだし」

「は」

「ん?」

 あれ、またやってしまったかこれは。緋華にはよく怒られるが、今回の場合に至っては大丈夫だと思ってた。なにしろこのデバイス、彼女にしか反応しないのだ。正確に言うと、ステラ・ブリジットのデータを起動式として読み取ることで初めてデバイスが動くって感じかな。仮に盗まれたとしても悪用されないようにしておいたのである。ほら、誰でも使えちゃったら怖いだろ。ステラなら節度を持って使ってくれる、と思いたい。さっきめっちゃ創ってたけど、見てない。俺は見ていない。

「きょーま、こういう時こそ、アレ」

 はっ!? その手があったか!

「ど、どうしてもっていうなら……体で支払ってもらおうか、うへへへ」

「うっわ」

 ねぇ、どうしてそこで引くのアリアさん。君がやれって言ったんだよね!? え、言ってない? だ、騙されたーーー!


 結論から言うと、ステラは体で支払ってくれた。


「ふふ、可愛い寝顔だったぞ少年」

 あれから居住区に戻りみんなで就寝ということになったのだが、対価としてステラは添い寝してくれたのである。

 一晩中甘い声を耳元で囁かれながら頭を撫でられるのは、その、なんというか、最高でした。語彙力がどうのこうの言われるのは心外です、だったらお前が経験してみろってんだ。やわやわのふかふか枕に抱かれながら、いい匂いまでしているんだぞ!? まったく、ここは天国か。いや、思わず呟いたらステラが私が神だとか返してきたのには笑ったけれどさ。楽しい夜を過ごせたと思う。


「今日はどうする? そろそろ帰るのか」

「もちろん帰りますよ。そもそも、ここに来たのはステラをシエルに会わせるためですからね。ちょっと長居しすぎた気もします」

 戦争を終わらせたのなんてそのついでなのだ。ステラが関わっていなければ、違うな、関わっていたとしても救出してすぐに逃げることはできた。あえてそうしたのは俺の自己満足のためだった。この件に関しては帰ったらシエルに謝るべきだろう。


 マジックボックスのドアを設置しつつ、あちら側と繋がるまでの時間に難敵にして最大の功労者へ土下座をすることにした。


「ましろさん、いえ、ましろ様! ごめんなさい、本当に申し訳ないんだけど――ここで留守番しててくれる?」


 これは俺の計算ミスなのだが、ましろが成長したことによってドアを通れなくなってしまっているのである。

 だったら大きくすればと思うだろう? それが出来ないからこうして地に頭を擦りつけているのさ! 規格ってのがあってね、マジックボックスに使うドアは人間が通れるような、普通の住宅にある感じのやつじゃないと駄目なんだよ。ましろは家に居る時、ギリギリではあるがドアを通れていたので大丈夫だと思っていたらこれだ。どうしようか、どうしたらいい。成長期だとしたら帰ってから一緒に住むのも難しくなるよなぁ。その外殻は外せないの? 無理ですよねーわかってました。やっぱりとりあえずは留守番してもらうしかないか。


『わふ! ベルちゃんもここにいるならいいよっ』

「すまん、ほんと早めにどうにかするからさ」

『気にしないでご主人。それにどうしても無理だったらもう半周すればいいだけだしね! 運動になるし案外楽しいんだよ? ご主人だってこの国に来て良かったと思うよね。私は色んな国を通ってきて、それを何度も経験したの。だから、ね』

 ましろに促され、顔を上げる。謝る必要はない、と。彼女の心意気に感謝である。


 帰ったら空間移動技術をもっと真剣に考えなければならない、ましろにこれ以上迷惑をかけないためにも。


「事情はわかった。でも、きょうま様」

「今度可愛い服をたくさん買ってくるから許してほしい」

 勝手にましろの要求をのんでしまったがベルちゃんには犠牲になってもらうほかあるまい。そのための交渉材料も用意してある。

「手始めに、これなんてどうだろう」

 フリフリのついた、一時期流行した服だ。サイズは商店街製なので問題なくフィットするはず。


「きょーまはベルの買収に成功した、てってれー」

「ふへへ、ちょー可愛いよねコレ! きょうま様、だーい好き!!」

 あ、あれ。なんか思ったよりもベルちゃんが喜んでいる。これにはアリアもビックリなようで、ちゃかしたのに、なんて……なんて言ったアリア!? おいおい、反抗期かな。


 なにはともあれ、帰る準備は整った。

 来る時と違って今度はドアを破棄しないため、忘れ物があっても心配はない。


 接続先はアリアの部屋だ。

 自宅に繋ぐとセキュリティの面で不安だったので関係者のアリアに許可を得たのだ。ましろが不在の間、なんならアリアの部屋にステラがお泊りしてもいいしね。親子で仲良くってやつだよ。


『カートリッジキー認証、アンロック』


 ガチャリとドアを開き、家路に着くのであった。


 だが、俺はこの時知る由もなかったのである。

 まさか、我が家であんな事件が起こっていようとは――――言ってみただけだよ? 心配ないって。大丈夫だよ、たぶん。


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