95 降り注ぐ光
「は? もっと効率的な精製方法があるので試さないかって……?」
術式が完成しグッタリとしつつも晴れやかな顔になっていたステラに先ほど抱いた疑問をぶつけてみた。
ちなみにプライマルコアはあの大きな状態で各国に送り、専門機関で規定のサイズに砕いて機械仕掛けの心臓として利用するらしい。ステラ曰く外殻までは面倒で造ってられねーだそうな。重要部分以外は丸投げみたいに聞こえるが、それを可能とする生産ラインが確立されているのだから大丈夫なのだろう。母さんは人が触れちゃいけないとか言ってたけど、わりと普通に送り出されています……。技術を持たない者が弄るなって意味だったのかもしれない。ほら、以前に俺がやろうとしたら無色の石になってしまったみたいにね。
「なに、きょうま様。マスターの仕事に文句でもあるの」
「そういうわけじゃないよ。ただ、無駄が多過ぎるって言いたいだけで――」
あれ? 文句言ってるね! やっちまったな。ベルちゃんがめっちゃ睨んできとる……怒り顔も可愛いな。
「ベル。きょーまに悪気はない。ちょっと、でりかしーがない、だけ」
庇っているようで本音を混ぜてくるあたりアリアさんは今日も容赦がないです。切れ味の鋭い言葉だ、まったくもって。
「…………なるほど。言いたいことは理解した」
細かい説明をするとステラは納得してくれたようだ。でも、な。
「どうしてその体勢? もしかして、動けないとか」
「ああ、その通りだよ少年。コアを創った後は基本的にこうなる」
意識はハッキリとしていても体の自由が利かなくなるらしい。このまま眺めているのも心苦しいので抱き上げて部屋の隅に座らせることにした。
「すまんな少年、迷惑をかけた」
「気にしないでいいです。それにステラは軽いからね、まるで天使の羽根みたいだ」
冗談を抜きにしても軽かった。アリアとは大違っ……ごめんなさい、なんでもありません。仕様だもんね、しかたないよな。
「ふふっ、嬉しいな。まぁ、世辞として受け取っておくよ」
「いひゃい、ありぁ、喋れないから」
むくれたアリアを宥めて話の続きに戻る。
「王城でもコアを創ってて、反動でグッタリしているところを連れ出されたって感じなんですかね」
「正解だ。簡易術式装置ってのがあって、小さなコア、機巧人形一体分に使える程度のなら私一人でも創れるんだよ。まさか、あの依頼自体が罠だとは思わなかったがね。どう復讐してくれようか……」
どうりで抵抗もせず王様にやりたい放題されていたわけだ。動けないように薬でも盛られたかと思っていたが、ステラの体にはそもそも薬物反応が出ていない。治療の際に一応調べてはいた。
「身動き取れないようにして四肢を切断しつつ声がかれるまで命乞いさせますか。それとも」
「きょーま、きょーま。四肢を切断する前に指を一本ずつ、ちぎっていくのは、どう」
「いいね、それ。傷口に塩も塗っておこう」
「想像しただけでも痛いッ! やめてくれ……悪ノリし過ぎだぞお前ら」
てへっ。本当にするわけないじゃん――って、あれぇ? アリアさん、なんで残念そうなの。
「とにかく、やるなら力を貸しますってことで」
「いい。遠慮しておく! 少年はもう少し歳相応な考えを持つべきだと思う」
そう言われてもなぁ。復讐したいほど憎い相手なんて今のところいないからわからないんだよね。
あえて反論するならば、思考が幼いほど残酷な考えを思いつくんだぜ、と。倫理観や世間でいう一般的な常識を人は成長と共に得ていく、学習していくのだから。口には出さないけどね、この国に来てから常識の部分が揺らいでいるし。
簡易術式装置というのをステラに見せてもらうと、これまた問題点が浮上していた。
「なんでこれ、中途半端なのさ」
形は俺のイグニス・ハートと似ているグローブ状のデバイスで両手にはめてから起動するらしい。だが、一つ根本的な謎がある。
「いやでも使えるぞ? ほら、んむむむむむ…………」
ステラがデバイスの装着された手でそこらに落ちていた小石を一つ、包み込むように左右の手で力を加えていく。
すると、チーンッという鐘の音が鳴り響きコアが完成した。
「電子レンジ、みたい」
アリアの呟きに思わず吹き出しそうになるが、俺も同意見だ。もう少しどうにかならなかったのかね。
「なんだその、れんじ? ってのは。とにかく、適当に部品を組み立てていったら運よく完成した品でな。正直言って仕組みは私にもよくわかっていないし、この通り一度使うと放熱でしばらく動けなくなる」
だそうである。ステラはそう述べるがどちらかというと放熱というよりは放電現象の方が正しいのかもしれない。現に彼女の着ている白いローブからはパチパチと、この部屋の床に刻まれた幾何学的な紋様、錬星陣から立ち昇る粒子と同じ物が爆ぜていた。
やはりというか、ステラのローブは通常の布製品ではないのだ。シエルから借りたお古の方はすでに解析済みなので、そこらへんは理解している。手元にある物は劣化しているのか重要な部分が欠損していたけれどね。
「レンジを知らないのは、まぁ、わりと最近できた家電ですからいいとして」
使われた部品も落ちていた廃材なのかもしれない。今の時代、家電なんて買い替えの際にリサイクルされるのは極一部に限られ、残りはバラバラにされて何処かへ消えていくからな。
「仕組みもわからない物をよく」
「きょーま、きょーま」
思ったことを口にする前にアリアに制された。そういや俺も似たようなことしてたよね。
「いや、なんでもありません。動けなくなるのは、下にあるやつを起動した時と同程度の時間ですよね」
「そうだな。おおむね一緒、下手すると簡易術式装置の方が長いか。小型化したことによる弊害だろう、下準備も無しに使えるのは便利なんだがなぁ」
それだ。俺が中途半端だと言った理由は。
この簡易術式装置には錬星陣で使われた俺の炎のような多大なエネルギー供給源を必要としない。
だったら、何を素に動いているのか。バッテリーなんて見当たらないのは当然として、だ。
「ステラ、ちょっとローブを貸してくれ」
「え!? や、あの……待ってろ。着替えてくるから」
うん。だよね、やっぱり中に何も着てないのか。体のラインがよくわかるなぁとは思ってたけど、確信はなかったがこれでハッキリした。
ややあって別室で私服になったステラがローブを抱えて戻ってきた。
「少年、サイズがピッタリなんだがこれはいったい」
ポーチに入れていた学校で使う運動用の青いジャージをステラに渡すと着替えてから文句を言ってくる。
「あーうん。説明が面倒だからあとでアリアから聞いてください」
「ったく、わかったよ。動きやすいし、くれるっていうなら納得しようじゃないか」
いいけどね。気に入ってくれたようでさ。
白いローブをいったんストレージに入れ解析をしてみる。
構成材質は――なるほどね。もはやこれ自体に起動式が組み込まれているのか。大規模術式用に作られたこんな物を着ていたら、そりゃ簡易術式装置でも動けなくなるはずだよ。
先ほどステラが一つのコアを創るにあたって、グローブから延びていたコードをローブの袖にグルグルと巻いていた。つまり、ローブには電力供給源としての役目もあるってことだ。
俺は顔を上に向け、吹き抜けから差し込む月明かりを視る。
『データ照合、ストレージ内検索……該当の物質を含む金属があります』
「あ、これ返すね。なんならくれてもいいけど」
解析の終了したローブをステラに返そうと手に持ちつつ提案を投げかける。
「欲しいのか? 別に私はかまわないが、金は取るぞ」
冗談で言ったつもりなのに。やったね、新しいのが手に入るのなら古いやつを素材にしてしまおう。これは匂いが薄れないうちにポーチの中に入れてっと。
「なにをそんなに喜んでいるんだ? わからん奴だ。あ、お代は金でもいいが白金があれば少量でいいから欲しい。資材が尽きかけているんだ」
白金、ようはスタープラチナムか。それならいくらでも、とはいかないがあることはある。元々はましろのだけどね。
バレないように塊にして渡しておくか。
「これくらいあれば足ります?」
拳大に圧縮してステラに手渡す。一応ステラから買い取るってことになるローブにも白金は使われているのだ、申し訳程度にだが。となれば、付加価値を加味するなら金額的にこうなるだろう。
「……ローブ、他にもあるけど」
とりあえずは一着でいいかな。ステラが普段着ていない予備を貰ってもしょうがないもん。
交渉は成立した。
いやぁ得したなー! っと、そろそろか。
『ルナタイトの構成物質分離に成功。抽出したエネルギー素子を新規デバイスに書き込みます。リライター、起動』
ギリアムの騎士剣や機巧兵のボディもそうだが、ルナタイトにはとある物質が含まれている。
金属としては不純物に該当する物であり、耐久性に難色を示すソレも利用先を変えてやれば真価を発揮してくれるはずだ。
拡張されたリライトシステムでなければ不可能だった。
空になってしまった器には、まだ役目が残されている。
『プライマルオリジンにコア精製プログラムの情報をリライトしました。形状指定確認…………』
ポケットに入れたままだった原初の石にデータを刻む。今日までは本当にもう、ただの石ころに成り下がっていたので活躍の時は来たって感じだ。
原初の石とはいうが、プライマルコアの原石ではない。また別の変換をされたのがプライマルオリジンだってのが俺の見解である。色もそうだけど、元に戻ったにしては組成が違い過ぎるからな。手段や方法によって結果が変わってくるなんてのはよくある話だ、気にするほどじゃないさ。それこそステラがコアの精製方法を二つ利用しているように、三つ目が増えるだけ――
『コンプリート。個体名ルクスリアを現出させます』




