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我が家のペットは兵器である  作者: 御影冬馬
想刻の錬星術師
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94 星に願いを

「アリアの本性を垣間見た気がした」

 エクスドライブモードを解除して再びベッドに横たわりつつそう呟く。

「む。きょーまが、殺す気でって言った」

「たしかにそうだけどさぁ、もうちょい遠慮しようぜ。せめて刃物が大丈夫か聞くとかあっただろ」

「どういうこと」

「衝撃吸収が打撃のみに有効で、斬撃……この場合はソレだ。刀などによる斬るという行為に対応しているかを確認しなかったから少年は憤っているんだ」

「そうなの? 違いがあるのなんて、わかんないもん」

「……だそうだ。少年、悪いが許してやってくれ。アリアにも出来ることと出来ないことがある。少年もその辺りは理解しているだろう?」

「まぁ、大体は。ごめんアリア、最初に説明しなかった俺も悪い」

「うん、それでいい。しっかしまぁ……少年が何を目指しているのか疑問を抱かざるをえなかったな。元々がただの人間で機巧人形にかなう存在がいるとは思いもしなかったぞ」

 ステラはそう述べるがエクスドライブモードには一つだけ欠点もある。それはこちらからの攻撃において打撃は当然ながら手に持って使う武器類も全て使用できないという弊害だ。ゲームだと防御に全振りしたキャラに近いかもしれない。相手には負けないが、勝つことも難しいという具合になってしまっている。

 ま、そこら辺はあまり気にする必要もないんだけどね。メイン武器にしているのがヒートナイフという射出して使う投擲可能な物で、ドラゴンブレスやイクスフレイムなど炎は仕様の時点で手から離れた位置に出てくる。ようは機巧兵と戦った時みたいに剣を振るうってのが出来なくなっただけなのだ。格闘戦については元から視野に入れていない。対人間ならともかく機械が相手だとどうしても分が悪いからな。それはアリアとの訓練で嫌というほど体が覚えているよ……。

 結局のところ、完璧にはなれないのが奏響真という人間なのである。家族を守れる力があるなら俺は満足だけどね。創作物の主人公みたいな最強というのは今のところ目指していないしさ。


 あと、もう一つだけ欠点あったわ。


「ぐぅ、すぴぃ」

 エクスドライブモード、精神的な負担が大きい!


「また寝やがった。なんだ、疲れるのかアレ?」

「ん。たぶん眠かっただけだと思う。きょーま、たまに立ったまま、寝る」

 いやそれ緋華を抱き締めている時だけなんだが。身長が頭一つ分低くてふかふかな感触のする髪なので枕にちょうどいいんだよね。


 なんて冗談はさておき。


「いやぁ、あまりの眠さに俺もビックリだったわ」

 五分ほど寝たら復活したけど、ほんとに驚いたわ。丸一日頑張った後のような疲弊具合だったもんな。

「だいじょぶ。寝る子は育つ、とも言う」

 なんだそりゃ。いや、アリアからみたら俺はまだまだ子供だって話なんだろう。いつになったら認めてくれるのやら。


「さて、少年。起きたところで今後の予定について話をしようか」

 俺とアリアのやりとりを微笑ましくも見守っていたステラが真面目な顔になり話題を切り替える。

「あっはい。えと、アリアからはどの程度まで聞いているんですかね?」

「ここに来た経緯とか移動手段については聞き及んでいるよ。にしても、ずいぶんといきなりな話だよな。あの子がお前の所に行ってから半年やそこらだったろたしか」

「ですね。一目惚れってわけでもないですが、手放したくないって思っちゃったらもう一気にって感じでした。正直言って今ではシエルがいない生活なんて考えられません」

「ほう、そりゃまた結構なことで。あのちょこまか私の後をついて来てた子供がねぇ……ちょっと妬ましいな。私なんて彼氏すらいたことないのに!」

「え、ギリアムとかは」

「あれは……まぁ悪くはないんだが、ギリギリアウトかな。なんつーか趣味が合わねぇ気がする。付き合う以前の問題だろ。金は持ってるみたいだから利用価値はありそうなんだがなぁ」

 さらっと黒い発言が入ってる。お金目当てで付き合ったりしないあたりしっかりしてるとは思うけど、うーん。

「そういや少年も金持ちだって聞いたんだが――おい、目をそらすな。別にお前の財産が欲しいとか思ってねぇよ!」

 なんだ違うのか。

「ちょっと残念みたいな顔してるけど気のせいか? 少年からしたら私なんて年増どころの話じゃないだろうに」

「ステラの年齢を知らないからなんとも言えないけれど、少なくとも容姿は好みだよ? お金目当ての打算的な考えを逆に利用して手に入れたいと思うくらいにはね」

 どうせ使い切れないくらい持っているんだ。消費するあてが増えるのは構わないというか、むしろ大歓迎なんだよね。お金は貯め込むのではく経済に回すものだって聞いたことがあるし、俺もその考えはあながち間違っていないと経験則から理解している。

「なるほど……アリなのか。そうか、そうか……いやでも! はぅう」

「ねぇ、きょーま」

 ステラが思考をぐるぐるさせているとアリアが俺の服をつまみながら顔を寄せてきた。

「どうした?」

「んにゅ。ごめん、なんでもない」

 コツンと(ひたい)同士を軽く当てて離れていく。

「? うん、別にいいけど」

「くぁーーーッ! 考えてもしかたねぇ!! こんな時はアレをやるに限るな」

 アリアの謎行動に首を傾げているとステラが突然奇声を上げながら俺の襟首を掴み引き摺り出した。あでっ、ベッドから落ちて尻打ったぞ。ぬぉおおお、削れる! ズボンに穴開いちゃうってば!


「ぐぇ、ぷ」

 首が絞まり意識が飛びかけていた俺が連れてこられたのは、なんというか、幻想的な場所だった。


 広い空間の中央に石造りの台が鎮座しており、吹き抜けの上からは月の淡い光が降り注いでいた。


 地に視線を移せば幾何学的な紋様が描かれ、その線からは何かが、ゆらゆら、ふわふわ、と漂っている。


「ここって、祭壇……?」

 ベルちゃんがそんな話をしていた気がする。雰囲気からして間違いないだろう。


「きょうま様、邪魔」

「おっと、ごめんなさい」

 部屋の中を眺めていたら不意に背後から声がかかり慌てて立ち上がって道を譲った。

「…………………………」

「あんまり見ないで。ぐすん、あとで責任取ってもらうから」

 先ほどまでずっと静かにしていたのは白い獣に咥えられていたからなのである。綺麗な髪が唾液でベトベトになっていた。

 そんなベルちゃんは自分の胴体ほどもある黒い巨石を台座へと運び入れていく。だいたい五、六個程度だろうか。円状に置いたそれの真ん中にひときわ大きな巨石を、今度はアリアと共に運び入れる。最初にこの洞窟に来た際、ベルちゃんに出会う前に色々と施設を探ったのだが倉庫のような場所にこの石が大量にあって不思議に思っていたのだが――もしかして、これがそうなのか。


「マスター、運び終わったよ。今回は、えーっと」

「ベル、代替品はいらない。きょーま、そこに立って火を用意して」

 紋様にはいくつか環が描かれており、その一つには既にステラが真っ白なローブを身に着けて準備を終えていた。

 俺はアリアに指示された環の中に入り、火……炎でいいよね? をイグニスに灯す。

「あー少年。できればもっと高温の、青い炎とか出せるかー」

 出せなくはないがカートリッジ内の熱量が心許ない。ヒートゲージを確認する限り長くは灯せないだろう。

 いっそのことノワルイグニスに変えてみるか。

「これでいいですかね? もっと加熱も可能ですけれど」

 ちょっとどこまでいけるか試してみたい気もする。

「オッケーだ。そのまま一時間頼んだぞー」

 ……やめておこう。なんだ一時間って! えぇ、いきなり連れて来られて長時間労働とか酷い。


 炎を灯したまま辺りを見渡すと、ベルちゃんとアリアが向かいあった位置にいた。ちなみにステラは台座の前で、俺だけが少し離れた所になる。

 なんだろこれ。何処かで見た憶えがある、けど、靄に包まれたようにハッキリとしない。おぼろげな記憶の断片に刻まれているイメージだ。


「想刻練星術式、起動」

 ステラが足元にある紋様の端と端を繋ぐかのように両の手を触れさせ、言葉を、世界を、己の想いで紡いでいく。


 同時に聴こえ始める。


 アリアとベルの、祝詞が。


 人が持つ言語ではない、理解の範疇にない声が、空間に響いて――。


「…………………………」

 星が、地に。

 そして、生命の源へと還元されていく。


 怖ろしいまでの速度でイグニスに灯した炎が吸われていく感覚がしていた。

 こういうのはちゃんと最初に説明してほしかったなぁ。エクスドライブモードじゃなかったら仮にブラストカートリッジが六つ全て満タンだったとしても一時間なんてもたなかっただろう。


 黒い巨石が次第に青く発光し始めた。

 やはりそうか。これが機械仕掛けの心臓に入っている、プライマルコアの原石になるんだな。


 ちょっと意外だったのは素に使われている原石の色合いだ。

 プライマルオリジンは無色透明だったのだが、どうにも見た感じだと組成自体違うような気がする。まったくの別物というか、あの黒い巨石……ただのそこら辺にある石に思えた。あれ? ここの床も黒い石材でできているな。祭壇のある部屋全てが洞窟内の中でも一種異様な雰囲気があるだけなのだろうか。


 灯した篝火は俺を起点に幾何学的な紋様に充填され、ステラがリレーし、アリアが増幅、それをベルがリズムに合わせて相槌を返していく。


 これは回路だ。


 プライマルコアに生命(いのち)を、無機物に人が想い描く心を刻み込み、有機的な媒体へと変換、構築していく。


 まさしく小さな星を練り上げるが如く、ステラは世界の理を読み解き在るべき姿へと集束させる。


 仕組みさえ理解してしまえば俺でも再現は可能だろう。


『バリアブルコードがアップデートされました。リライトシステムの拡張に成功』


 ただし、誰でもではない。あくまで奏響真なら(・・・・・)の話である。

 普通の人間がこれを行うには――ありとあらゆるものを犠牲にしなければいけない。


 それこそ、あそこで虚ろな瞳をしているステラのように。って、大丈夫なのかあれは?


『一時的な精神自失状態にあるようです。想刻錬星術式における圧倒的な情報量の処理に対しステラ・ブリジットの体は制御装置としての役目を果たす、もはや回路の一部になっているようです。考える事も、ましてや会話など不可能な状態だからこそ、世界は彼女を認め、深層意識を読み取れるのでしょう』


 なるほど。わからん!

 ようはステラが持つ人間としての本質をプライマルコアである原石に刻むのに必要な行いだってことか。


『肯定。故に機械仕掛けの心臓は人間を模倣する機能を持ち合わせるに至る――という結論になります』


 つまり、元々の……オリジナルのデータはステラという人間を構成する一つの要素から成っていて、プライマルコアはそれを軸にして色々と動いているってわけだ。


 ある意味ではステラ・ブリジットを複製する行い。

 しかしながら。狂気に満ちた、かの錬金術師が目指した到達点とは違う極致である。


『死んだ者を蘇生するのでも、ましてや新たに命を創り出す行為とも違います。あくまでこの術式は大地に眠る不活性元素を組み換えるものになります』


 だそうだ。理屈としては間違ってはいないと思う。

 あの黒い巨石は一見して、まぁ、大きな石ころだが。それでもこの星の一部なのである。俺たち人間や動物のように生きているとは言い難いにしても、死んでいるとも言えないのだ。無機物や有機物なんて括りは後から付けられた名前で、その差異なんてほんの少ししかない。この部屋の床にある幾何学的紋様――魔方陣にも似た回路図は、そのほんの少しの差異を反転、切り替えるために存在している。スイッチはもちろんステラだな。このあたりは言葉で説明がつかないのだが、彼女は何らかの出来事によって己を切り替えスイッチとして利用する方法を思いついたのだろう。いや、思いついたところで常人なら実行しようとは考えないか。科学ってのは究めていくと超えてはならない線があるんだ。彼女はそれを超えてしまっている。もちろん、俺も人のことは言えないし……たぶん緋華もね。


 にしても、とんでもない量のエネルギーを使うんだなコレ。

 プライマルコアを活性状態にして情報を書き込むだけなのに、どうしてここまで大掛かりな回路が必要なのか疑問が浮かぶ。


 ほら、あそことか省いちゃってもいいよね?

 注いだ物が消費し切れずに漏れちゃってる箇所もあるし……未完成なのかも、想刻練星術式自体が。というより、同じ物を何度も創るのなら規格化しちゃえばいいのにさ。製品として出荷するなら一考の余地があると思うのは俺だけだろうか。


 彼女にも譲れない何かがあるのなら話は別だけどね。


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