93 れっつ、ごー
「これはステラから貰った放熱用フィンと俺が所持していたPETの部品を合成した物になります。ま、ようは熱も衝撃も全てこのブラストカートリッジに吸収させることができるって感じかな?」
現状を確認しながら二人に説明をすることにした。俺だって詳しくは理解していないけど、胸に開いた穴から青白く光る線が二本出ていて、それが両腕にあるカートリッジホルダーに接続されているみたいだ。ちなみにイグニスについては――こちらも黒くなっているが、ホルダー部分が以前とは違うというか胸にある穴みたいな物が手の甲に在り、光が灯っていた。胸のもそうだが、この穴の周りにある円形のパーツはなんだろうか。
『それはサーマルリングになります。コアからの排熱はもとより、電流や外部からの衝撃を全て熱エネルギーとして変換、放出するための機構として設けました。なお、ブラストカートリッジはイグニスに装填することなくこれまで通り利用可能です』
イグニス使用時には両腕にあるカートリッジを一つずつ装填する必要があり、今まではそれを介して炎を出したりしてたわけだ。とはいえ、腕の方にあるカートリッジからエネルギーの移動とかは普段からできていたわけで……たいして変わりないかも。手間が若干減りました、みたいな? あれ、というかこれってイグニスと放熱用フィンがくっついちゃってるよね。元に戻せなくなったとかだと少し残念かもしれない。俺的には元々のイグニスが持っている赤色は好きだったからね。あーでも、一番最初だと黒なのか。うぅむ。
『問題ありません。イグニス・ハート自体はポケットに入っています』
え? あ、ほんとだ。じゃあこの手にあるやつはなんだ?
『ブラックチェイサーの構成材に熱変換に用いるコンデンサ類がありましたので、インナーとして再構築するにあたりイグニス・ハートの機能も織り込みました。手の先や全身を覆う全てが拡張機巧、エクスギア――ノワルイグニスとなります』
エクスギア……拡張機巧だっけか。
また新しい単語が出てきたな。今回のは結構わかりやすいけどね、ようは機械を身に纏うってだけの意味だし。人の形をしているのが機巧人形で、獣だったら機巧獣。機巧兵なんてのもあるか。機械仕掛けの物に対して機巧という語句を用いるのはわりとあるんだ。ベースが俺という人間で、その機能を拡張する機械仕掛けのって意味だな今回の場合だと。安直だが嫌いじゃないぜ。
「なんかもう意味がわからねぇな少年の力って。どうしてただの放熱用フィンからそんなのになるんだよ……」
「ん。きょーまのこれは、いつものこと」
げんなりするステラの背中をポンポンとアリアが優しく撫でていた。なんとも微笑ましい光景である。引き合いに出されるネタが俺というのがあれだが。
「あはは。とりあえず、これさえ着ていればアリアにも負けないと思うよ。ちょっと試してみるかい?」
俺の言葉にコクリとアリアは頷き、部屋の中央に移動する。あまり広くはないが走り回るわけでもないから外には出なくていい、そう判断したのだろう。
「どうする。組み手? それとも、実戦形式?」
アリアの前に行くと彼女は首を傾げながら質問してきた。組み手というのは武器を使わない素手のみで、実戦形式っていうのはなんでもアリのデスマッチだ。普段彼女と訓練する時もどちらかを選び、実戦形式で一度死にかけたことがある。どうせ直るでしょと言いながら両腕と両脚の骨をバキバキにされた。現在は骨格の強度も上がっているので同じ事は起きないと思うけど、あれは痛かったなぁ……。
「うん。殺す気できてくれ」
「いいの?」
よくはない。だが、機巧人形であるアリアが持ちうる力で倒れないのは最低限の条件だと考えている。そうでなければこの先に進むのは難しいからね。
「――わかった。後悔しないでね」
開始の合図はない。アリアの問いに肯定した瞬間には、彼女はすでに俺の眼前にいた。
あいかわらず尋常ではない速さをしているなぁ。
『エクスドライブモードは常にダブルアクセル状態での稼動なため思考速度そのままに動けます』
そうなのか。しかし、さすがに光速は無理だろ? あの加速した世界を現実に置き直すなら光の速さは必要だろうからな。
『理論上は可能ですが、戻れなくなります』
出来るのか……いや、理論上の話だし戻れなくなるなら駄目だ。それよりも気になったのはダブルアクセル状態での稼動という所だな。あれは消費が大きいから云々言ってなかったか。
『サーマルリングシステムによりフラグメントコアからの電力をダブルアクセル維持におけるエネルギー媒体として利用しています』
ふむふむ。そもそもアクセルは熱エネルギーを用いて体を強制的に動かす手法だったわけだが、現在はフラグメントコアというもはや無尽蔵ともいえる供給源を得ているので――どちらかというとクロックアップに近いのか。あれもコアからの電力を増やして動きを良くするってものだからね。
おっと、今日はネコさんか。白地に薄い水色でにゃんこのイラストが柄としてプリントされている。
「くっ、速い!?」
「ふははははっ、俺はここだぞアリア!」
考えながらも動きを止めずに彼女の背後に回っては首に手刀を軽く当てることを続ける。
「もはや常軌を逸しているな。うぇ、酔ってきたぞ」
俺たちのことを観察していたステラがフラフラとしだしてきたので、追いかけっこはここまでにしておくか。
「ということでアリア、君の負けだ」
ポンと頭の上に手を置いて撫でてみる。たぶんだが、アリアは絶対に納得しないと思われる。
「うぐぐ、ずっこい。きょーま、避けてばっかり! ちょっとそこに立ってて。痛くしないから」
「了解。ま、なんでも試してくれ」
避けてばかりではテストにならないのも事実だ。一番に検証すべきなのはインナーであるエクスギア、ノワルイグニスの耐久性なのだから。
「せりゃぁぁぁあああああッ!!」
棒立ちになってちょいちょいと手招きするという挑発的な態度をとると、アリアがカチンときたのだろう、抉れるほどに地面を蹴って俺に殴りかかってきた。
「――――え」
ちょっと怖かったけど、受けてみるとたいした衝撃も来ず痛みなんてあるはずもなかった。それどころか打撃音すら一切しないのである。
アリアは疑問を浮かべた顔をしながら何度も拳を突き出すが、無駄なんだよなぁ。
『衝撃の吸収に伴いブラストカートリッジにエネルギーが溜まるのを可視化します』
どれくらいの威力があるのか見れるってことか。おっ、これがそうなのかな。
『義眼視界内にヒートゲージを表示させました。個体名アリアの拳撃による上昇量は初撃を除き一パーセント未満です』
蚊ほどもきかぬとか言いそうになるな。ひぃッ、あ大丈夫だった。顔面はさすがに恐怖を感じるよね痛くないってわかっててもさ。こう、迫り来る拳の威圧感っていうの? そんなやつ。
「なんか、空気を相手にしてるみたい。当たった感触すらないのは、なんで」
「それは本来自分に返ってくるはずだった衝撃まで俺が吸収しているからじゃないかな」
「ふーん。よくわかんないけど、これなら、どう」
アリアは体を動かしてスッキリしたのか、若干冷めた表情で虚空から刀を取り出した。
えっ、まってソレ使うの!? さすがに刃物はやばくないか。
ヒュイン――ッ!!
俺の返事も待たずに振るわれた白刃は防ぐこともかなわず首を両断し……なかった。当たり前だよ! 殺す気か!? って俺が自分でそう言ったんでしたね、はい。
「むぅ。駄目だった、か」
「そこで残念そうにするのは、なんか違くない?」
もしかして殺したいほど嫌われているのだろうか。なんてね。
『斬撃によるゲージ上昇量、全体の五パーセント』
意外に効いてた! 連続でやられていたら危なかったかもしれん。




