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我が家のペットは兵器である  作者: 御影冬馬
想刻の錬星術師
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90 おねむの時間

「つーわけで、あとは任せた」

 タングステンにある王城に着いた俺は、なんのことはない、全てをギリアムに丸投げすることにしたのである。

 いやだってほら、これから起きる事にまで関わる義理はないわけだし? 先生を助けるっていうここに来た最大の目的は既に達成済みなんだ、俺は一刻も早く家に帰って寝たいんだよ。若干空が白み始めているのは見なかったことにしとくからさぁ。


「響真様、我らタングステン国民一同は敬意をもって貴殿を崇拝いたします。状況は戻ってまいりました兵士たちより報告を受け把握しております。此度の戦果、まさしく伝説の魔法使いの御業に相違ありませぬ」

 えぇ。話聞いちゃったのかよ、だったら言い逃れできないじゃんか。

「魔法使いだなんだってのは思い違いだよ。あんなの物語の中だけの話であって――」

「ははは、ご謙遜を。なんでも一度に千の軍勢を焼き払ったとか。これが魔法でなくて何なのですか、否定するにも限度がありますぞ」

 だから科学なんだってば! ほんと人の話を聞かないなここの国のやつらは。あ、ちなみに今話しているのは騎士や兵士を国民と繋ぐ役職の人だ。最近はあんまり見ないけど、教会の神父さんみたいな格好をしている。ていうか、タングステン国自体が時代的にかなり遅れているような? 伝統を守ってきたというのではなく、実際にこれがあるがままの姿なんだよね。石造りの街並みや無駄にでかい時計塔なんか漫画やアニメでしか見たことなかったからなぁ。自国の周辺では昔の文化は完全に滅んでいるのだ。一時期競うように建ち並んでいたビルなども全て朽ち落ちている。まぁ、上に行くより横に広げていった方が楽ってのもあったのかもね。人の減った現在じゃ土地は余るほどあるわけだし。タングステンに来て何が驚いたって、人間が段違いに多いところってのもある。機巧人形が半数を占める世界が普通だと思っていたのが馬鹿らしくなるぜ。狭い範囲だけを見て常識を決め付けていた自分が恥ずかしくなるよ。もしかしたら、本当に魔法使いも存在していたりして。あはは。


「もうそれでいいや……面倒だし」

 諦めよう。たしかに優れた科学は魔法だとも言えるからね。せいぜい伝説として語り継いでくれ。

「我が魔法により敵は討ち滅ぼされた! だが、あちらにいる者も我らと変わらぬ人間である。元々は一つであったタングステンを、今こそ再び。ウォルフラムは、ここに終わりを告げたのだー」

 もはや後半は棒読みである。しかし、王城に集まっていた国民は俺の宣言を聞き、手を空に突き出し声を張り上げた。

 はいはい、解決っと。

「ギリアム、これで問題ないよな? 勝手が過ぎるけど、ウォルフラム側の国民を見捨てないでやってくれ。いろいろと思うところがあるのは知ってる。だけど頭を抱えている暇なんてないんだぜ。あんたはタングステンの王様なんだからな」

「うぐ、責任重大ですねこれは。ですが、本当によろしいのですか? 響真様にだって、王になる資格は」

「知らね。政治に興味ないし。なにより、ここは俺のいるべき場所じゃない」

 戦地の近くにあったテント、そこにいたのは当然、ウォルフと彼の母親だけではなかった。王を守ろうとした者たちを、俺は。

 笑顔の裏には暗い影がある。これが現実であり、少なくない犠牲の上で人は生きている。否定をしてはいけない。受け入れるしか、俺に選択肢はなかった。

「大丈夫だって。ギリアムなら、うまくやれる……この俺、奏響真が保証してやるさ。あんたが自分を信じられないってんなら、俺を信じろ。どうしようもなくて困ったのなら、俺に頼れ。力がなくて挫けそうな時は、助けに来てやる。寂しい夜には――って、そこまで面倒はみきれねぇよ!?」

 自分で言いつつツッコミを入れちゃった。あと、なんでだろうか。ギリアムの匂いがとてもいい香りなので、思わず身をゆだねてしまいそうになる。いやいや、俺にそんな趣味はねぇよ! ない、はず。うぐぐ。

「とにかく! 裏からでよければ支えてやるから、あんたは安心して王様をやってろ。離れていた家族が戻って来て大変なのもわかるけど、使えるものは使え。ただ。弟の方が下手したらあんたより頭がいいくらいだ、逆に利用されないようにな」

 圧倒的な戦力差をもって敵を捻り潰す。なんとも安直な考えではあるが、実行するのは容易いことではない。あの場にいた機巧兵の数は、ざっと見た感じでも十万を超えていた。はっきり言ってとんでもない量産能力をウォルフラム国は秘めているのだ。設計、資材調達、指揮管理。これをトラブルなく行うには下地があったとしても立案者の才能がなければ成立しない。つまり、ウォルフを上手く取り込むことさえできればタングステンは安泰ということになる。

「ですが、あの子はまだ幼く」

「歳なんか関係ないよ。むしろ今の内に正しい力の使い方ってのを教えることだ。ま、深く考える必要はないだろ? 家族と仲良くしろってだけな話なんだからさ」

 敵を滅ぼすためでなく、家族を守るために。ウォルフに進むべき道を示してやるのはギリアムの仕事だ。


「さて、話もまとまったところで――俺はそろそろ限界です」

 なんか脚がガクガクしてる。あっれ、手の感覚も。

「ん。きょーま、帰ろう」

 後ろに控えていたアリアが前に回り込み俺を背に乗せ抱えた。もはや俺には自重を支える力すら残っていなかったのだ。

「すまん、アリア。重いかもしれないけど、このまま……少し、眠る」

「わかった。ゆっくり休んで」

 彼女の体温を確かめながら、俺の意識は完全に途絶えた。

「だ、大丈夫なのですか響真様は? 機巧兵とやらを殲滅したとは聞いていましたが、どこか怪我でも」

「心配ない。ちょっと疲れているだけ。丸一日動いていたら、誰でもこうなる」

 もう、きょーまったら何でも一人で片付けちゃうんだもん。私にも手伝わせてよね! あれくらいじゃ準備運動にもならなかったんだから。機巧兵のやつらを二百体くらい倒した時に電力不足になりかけたけど、お菓子を食べたらすぐに戻ったしへーきへーき! あとで駄菓子を補充しておかなきゃ。

「え、ああそうですね。響真様はすさまじい力をお持ちですが、体は見かけ通りの子供ということでしたか。忘れていました、彼もまた人間であるということを」

「そう。きょーまは、まだまだ、おこちゃまだからね」

 私からしたらだけど。あまり気にしたことはなかったけど、私はあの燈緋華よりもずーっと年上なんだ。もちろんきょーまだってそれは知っている。本契約をした彼には教えなきゃならなかったからね。


 とはいえ、内緒にしていることもある。

 それは私の有するコアが常にオーバークロック状態になっているということだ。ママに教えられて戦闘時に周波数を上げる使い方をしていたのだけど、いつからか元に戻らなくなってしまった。ま、戻ったら戻ったで動作が緩慢過ぎて使い物にならない体なんだけれどね。他の個体たちはどうして不満を抱かないのかといつも不思議に思う。

 もっと、もっともっともっと。私の意思に従い、コンマ一秒の遅れすら感じさせない動きで敵を討ち滅ぼす体になるんだ。きょーまを傷付ける奴は私が許さない。全力で、ぶっ潰す!


「あぅ、耳がくすぐったい」

 背に負う響真の吐息が耳にかかり、思わず身悶えしてしまう。


 タングステンを後にしながら、アリアは先ほどのことを考えていた。


 どの道もう一度来ることになるというのをギリアムに伝えたところ、彼は王城の中へと引き返していった。きっと家族会議でもするのだろう。分かたれていた国を再び一つに統合するのは大変な労力を必要とする。実現するためにはウォルフという小さき王の力を借りねばならないのだ。


「きょーまは簡単な事のように言ってたけど、大丈夫なのかな。ギリアムとウォルフ、兄弟だけど、初めて会ったばかり、なのに」

 母親が同じだろうと、共に生活をしたこともない者をはたして家族と呼べるのだろうか。人間の血の繋がりって、そこまで深いもの? よくわからないや。

「私が悩んでも、しかたない。きょーまが、大丈夫と言えば、大丈夫なんだ。心配するだけ、無駄」

 少なくとも自分にできることは無いと思う。どこまでいっても、ここは私たちにとって異国であり、この先どうなるかは彼ら次第だ。人間であるきょーまはともかく、私は深入りすべきじゃない。

「ギリアム、私と一度も目を合わせなかった」

 きっと、私が兵器だと知っているからだろう。畏怖しているのだ。人間とは、皆そうである。

「……きょーまだけ」

 彼だけが、初めて逢った時から。


 私のことを、女の子として見てくれていた。


「ふふ、可愛い寝顔してる」

 視線を横に向けると、大事なご主人様がいる。なんとも幸せな時間だ。

 普段は一緒に同じ布団に入ることはかなわない。誠に遺憾ながら、私の寝相が悪すぎるせいである。昨夜はシエルと緋華が同衾したと聞いて、とても悔しかった。

「まだあの二人はいい。百歩譲って許す、人間だし。でも」

 リンネだけは駄目。きょーまはあまり興味を持っていないみたいだけど、ああいうのが一番危ないって言ってた。お昼のドラマの中で!

「今度、こっそり布団の中へ潜り込んでみようかな」

 眠らなければ大惨事は起きない。そして、朝までに出て行けばバレることもない! 完璧だね!

 ……なんか求めていたものと違う気もするけど。


「ん。着いたけど――――」

 どうやって扉を開けたものか。


 洞窟にある居住スペース前へと戻って来たアリアは、響真を落とさないように抱え直しつつ思案する。


 まず、両手が塞がっている時点で詰んでいる。重い金属製の板をはめ込んだ物故に、唯一使えるであろう片足だけでは動かしたりできないはずだ。

 うん、やっぱり無理だ。足跡がついただけで終わる。


「ましろー。あーけてー」

 中にはママを連れて行ったましろがいるはずである。彼女なら、


 わふっ!


「え」

 背後から聴こえた声に、アリアは振り返る。

『なにやってるの? 鍵かかってないけど』

 白い獣が、尻尾で軽々と扉を開けて入っていった……。ははは、だよね。忘れてた。


「これ、横にスライドさせる構造だった」


 壊れた扉を響真が直す際に、内開きだった物をスライド式に交換したのである。

 なんでも、押し引きで開けるタイプだと外か内に異物があった時に閉じ込められる可能性があるとかで。


「ましろは、迎えに出ていたのかな」

 だとしたら、もう少し早く現れてほしかった。足が痛いの……


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