表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が家のペットは兵器である  作者: 御影冬馬
想刻の錬星術師
80/98

80 あっちこっち

「それで響真くん、今日の予定とはいったいなんだい」

「あっ! ですです。予定というからには、これとは別件なのですよね?」

 気恥ずかしさでまだ顔を合わせられないが、緋華さんが疑問に思ったことは私も同じなので問いかけてみる。

「いや? 話は繋がっているぞ。これから――ブリジット先生に会いに行こうと思っている」

 と、響真は誰もが想像もしえなかった事を語ってみせた。

「先月あたりから捜索していたんだけど、朝方ましろから連絡があったんだ。先生が見つかったってな。アリアからだいたいの場所を聞いていたから見当はついていたんだが、詳細な居所がわからなくてさ。以前住んでいた所は誰も、いや何もか。足跡すら残さず消えていたんだ。さすがに国外をうろつくわけにもいかなくて、あとはましろに託したんだけどね。あいつなら仮に捕まったとしても強制送還されるだけで済むし、頑丈だから怪我もしないだろうと思って。逃げ足も並の機巧人形より上で追いつける奴はいないと……なんでシエルが驚いているんだい。君に頼まれた事なんだけれど」

 詳細を説明していたらシエルが何の話をしているのだという顔を向けてきた。おかしいな、先生と仲違いしたからこの国に留まっていたはずだよね君。

「……え? 私が、ですか」

「うん。詳しい事は知らないけど、喧嘩したんじゃないの」

「あ、ああ! ですね、そうでした!! すっかり忘れていました。先生ったら酷いんですよ、キョーマの様子を確認しつつ隙を見て心臓を抜き取って来いとか言うんですもん。殺す気かって反論したら代わりの物だって適当なコアを放り投げてきて……まぁ、カルテもろとも紛失してしまいましたが。あ、勘違いしないでくださいね? 私はあなたを傷つけるために来たわけじゃありませんから。様子を見てすぐに帰ろうと思ってたんです。本当ですよ? 信じてください、ね。あまりに居心地がよくて、今までお世話になっていましたけれど……そうですね。先生が見つかったというのなら、私は帰った方が」

「なんでそうなる。君の居場所はここだ。誤解させてしまったのなら謝る、すまん。シエルのことが邪魔になって送り返そうとかしていたわけじゃないよ。ただ、仲違いしたままじゃいけないと思ったから探していただけなんだ。理由を聞いたら俺のせいみたいだし、これを入れ替える必要があるのならそうする」

 胸の中央に手を置いて、己が内に秘めた鋼の塊を意識する。

「待て。響真くんのコアは代用不可だぞ」

「どういうことですか? 同じ機械仕掛けの心臓なら、なんでも一緒なんじゃ」

「そんなわけないだろ。君の中に入っているソレは特別だ、他に同じ物なんて存在していない。なにより移植されてから既に何年経過していると思っている。もうコアの外殻と体組織が完全に融合しているはず、取り出すなら死を覚悟しなければならん。リスクが高過ぎるのだ、やらせはしない」

 言われてみればエネルギーラインや排熱用のコネクタなどもコアと接続されている。さらには骨格置換に伴い、動力炉とフレームが密接に混じり合っている。仮に上手く取り出せたとしても、新しいコアでは電力量が不足して体がまったく動かなくなる可能性すらあるな。最低でも運動能力の低下は免れないだろう。たしかにリスクはある。

 だが、そもそも何故ブリジット先生は俺の中にあるモノを欲しているか。より人間に近いモノを目指して創られた体、その四肢を移植されたのは理解している。もしかして、コアも通常の物とは設計が違ったのか? ありえる話だ。師匠が言う特別とは、きっと俺に在る拡張機能のことを指している。他の機械仕掛けの心臓は、最初に与えられた命令以外は実行しない。人間が人らしく在るための機能しか彼らは持たないのだ。つまり、俺のように機能が増えていくことは――絶対に、ない。

「私にだってそれくらいわかりますよ。今キョーマの中に在る物は、あなただけの物です。他の誰にも渡しません。たとえ先生であろうとも、けっして奪わせません」

 俺の手の上へ自分の小さな手を重ねてシエルは見つめる。

「わかった。これは俺の物だ、そして」

 重なった手を絡め、向き合う。

「君も俺のものだ。先生には、そうだな……こっちの国で暮らしていくことだけでも報告しておかないか? 一応君の保護者に当たる人物なんだろ」

 両親共に他界している彼女には、これまで家族と呼べる人は一人しかいなかった。それがステラ・ブリジット。先生ってわけだ。

「はい、先生は親代わりに色々教えてくれました。ですので、義理を通すという意見には私としても相違ありません。はっ、これが娘さんを下さいってやつですね! 憧れのシチュエーションの一つです!!」

「ふふ。じゃあ、そういうことにしよう」

「ですです!! って、先生は現在何処に住んでいるのですか? 私がこの国に来る時って一ヶ月くらいの長旅をしていた気がするのです……もしや、もっと遠くに行っているなんてことは」

 ビンゴ。君の予想は的中だぜ!

「この星を丸い球体だとしよう。で、俺たちが住んでいるのはここで――先生の居る場所は、ここになる」

 円で表すと国としては正反対の位置に彼女は居る。まったく、どれだけ離れているのだか想像もできない距離だ。ましろ、頑張ったんだな。帰ってきたら体を綺麗に磨いてやろう。

「ふぇ。だったら無理じゃないですか! 嫌ですよ私、たった一言報告するためだけに戦地を通ったりするなんてッ」

 シエルが怒るのも当然だ。目的の場所に行くにはどう足掻いても対立している国を通過する必要があるのだ。ようは、戦場の真っ只中を俺たちは駆け抜けなければならない。

 普通に行くのなら。

「こらこら、シエルくん落ち着きたまえ。響真くんがそんな考え無しな発言をするわけがなかろう。何か画期的な方法があるに違いない」

 さっすがししょー。俺のことをよくわかっているじゃないか。画期的かどうかはさておき。

「…………すみません。平和な日常に慣れすぎてしまったせいか、思い出すだけで動悸がします。うう」

 平和、ねぇ。シエルはたぶん表向きの面しか知らないのだろうな。師匠も俺と同じく複雑そうな顔をしている、事情を理解している者にしかできない表情だ。

「大丈夫か。ほら、お茶でも飲んで深呼吸しろって」

 緑色の温かい液体が入ったカップをシエルに渡すと、彼女はそれを飲み干してからスーハーと息を吸っては吐いてを繰り返した。

「にっが。私はあまり好きではないかも、緑茶とかいうのだよなコレ」

 師匠と味の好みが一緒じゃないだと!? うんまぁ、特に驚く場面ではないか。

「はい。響真とアリアは濃い目の物が好みらしいです……ふぅ、なんとか落ち着きました。すみません、お騒がせして」

「や、俺も配慮が足りなかった。とりあえず、行く方法だけ教えるな」

 少し涙目になっているシエルの頭を撫で、髪をくしゃくしゃとしてからリビングの端へと移動する。

「――なるほど。ドアを、使うんだね」

「? 居間に来てから不思議に思っていたんだが、なんで扉が何個もあるんだ。部屋数と合ってない気が」

「ああ、そういや師匠……ごめん、しばらく呼び方が以前のままになるかも」

「かまわないよ。響真くんの好きに呼んだらいい」

「うん、だったらなるべく名前で。えと、緋華がうちに来なかった間に家族分の部屋を増築したんだ。いったん外に出るとわかりやすいんだけど、夜にでも確認してくれ。それで、各部屋とこのリビングを繋いでいるのが目の前にあるドアってわけ」

「きょーま、説明するより、見せた方が早い」

 アリアはそう言って自室へと繋がるドアを開け、空間を繋いだ。

「は。なんだこれは」

 呟くように緋華は言葉を漏らす。驚きを通り越して、呆れを含んだ声だ。

「私の部屋も見るッスか? こっちデスよー」

 ガチャリと、リンネも自室のドアを開く。

「…………わーお」

 起き抜けに着替えたのだろう、下着などが床の上に広がっていた。ちょっと薄めの水色に光沢のあるシルクっぽいやつだ。フリルやらリボンが付いていて可愛らしいデザインをしている。

「マスター。本人が横にいるのに、よくもまぁじっくりと観察できるッスね。ある意味尊敬するッスよ。しっかし中身には興味ないくせして、布に欲情するのはおかしいんでは? ほれ、こっちにもあるッスよ」

 ぴらっとめくられたスカートの下から、白い脚と共にのぞくのは。

「ッ、すまんリンネ。降ろしてくれ、見なかったことにする」

「? おぉう、はいてなかったッス!! やっちまったぜ……上も着けてないや。新しいのを探すのが面倒で脱いだままにしていたんでした。てへっ」

 まったく。これでウサリーネさんじゃなかったらお礼を言っているところだぜ。ありがとう!


 若干のトラブルもあったが、幸いなことに緋華は気付いていなかったようだ。セーフ? う、アウトかな。シエルの視線が痛いの……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ