49 友人
リンネのやつ、俺とアリアが訓練している間になにやらゴソゴソと作業をしていたようだが、これを設置していたのか。
暇つぶしで作ったにしては本格的な、木の枝と蔦などを編んで鳥かごのようになった物に奴は捕縛されていた。
「マスター、これ、焼いたら食べられますかねー? じゅるり」
おっと、リンネが野生の目をしているぞ。罠を作るのはギリギリ許可するが、せめて食用の物を捕まえてくれ。たしかに野生動物からみれば人間も食物ではあるけど……あれ、だったらリンネはセーフなのか?
「……そうだな。よし、とりあえず焼いてみるか」
「いや、よしじゃねーって!? あれか、さっきのあの赤いので美味しくこんがり焼いちゃうのかー!? オレは食べても美味くねーぞ! なっ、そうだろ奏」
木に吊るされた鳥かごの中で逆さになりながら、涙を流しつつ必死に命乞いをする。
「秘密を知られたからには、始末しないと。きょーま、知人でも容赦しては駄目だよ。こういうのは野放しにすると絶対に後悔するから。ほら、はやくイグニスで消し炭にしちゃおう。骨も残さず燃やし尽くせば証拠なんて残らないから、ね」
「そうですね。先ほどの戦闘訓練を見られていた場合を想定すると、アリアの意見には同意です。この人が私たちの味方とは限らないわけですし、不穏分子は排除しましょう」
「にょわーーー!? いや、あかんて!! オレは味方だよ、奏に危害を加えることなんて絶対しないから!」
「本当です? 油断させて背後から刃物でブスリッてしようとか思ってません? もしくは服の下に爆発物を仕込んでいて近付いてからキョーマもろとも木っ端微塵に――」
なにそれこわい。ブルブル。
「お前、そんなこと考えてたのか……」
「え、信じちゃうの!? ちょ、そこまで距離をとらなくても!」
ゆっくりと後退りながら逃げようとしていたんだがバレてしまったか。
ま、可哀そうだしそろそろ降ろしてやるか。
リンネには悪いがこいつは食べられないからな、味以前に共食いになっちまうし。それに、こんがり焼いてしまったら殺人になってしまう。アリアが言ったみたいに燃やし尽くすって事も出来るけど、この世から消し去りたいほど嫌っているわけじゃないし。なにより。俺の感情一つで人の生死を決められるわけないだろう。敵対関係ならともかく、こいつは――カズキは俺の親友とも呼べる存在なんだから大事にしないとな。
「うぅ……奏に裏切られた……」
予想以上に頑丈に作られていた鳥かご、いやこれだと檻だな。それを開けるのに多少手間取ってしまったが、なんとか救出に成功した。
檻は落ちないようにするためか枝に絡まっていたので、罠自体はそのままにして中身だけ抱えて下に降りる。
「ったく、ちゃんと助けてやっただろ。文句言うなよカズキ」
「そうだけど、まさかオレよりあの子たちを信じるとは思わなかったよ……済んだことだし別にいいけどさ。で、どの子が奏の彼女なんだ? オレの見立てでは桃色が一番奏のタイプだと推測するー」
桃色? ああ、リンネのことか。
「顔だけなら合ってるな。リンネは俺の理想そのものだし? だけど、残念ながら俺に彼女はいない」
言ってて悲しくなるが、実際そうなんだからしかたない。
アリアとリンネの二人とは主従関係だし、シエルは――家族の一員だ。
「ふーん。ちなみにオレは?」
「ただの友達。それ以上でも、それ以下でもない」
内心では親友だと思っているが、口に出すのは恥ずかしい。
「ははッ、常に対等な関係ってことか! 良いねぇそれ。オレのことよくわかってるじゃんか奏ぇ」
そう言いながらカズキはベシベシと背中を叩いてくる。勝手に解釈してくれるのはありがたいのだが痛いぞ。
「さて、着いたぞ。降りろ、いいかげん重くてしょうがない」
「ふぎゃッ! 痛いなぁ、もうちょい優しくしてくれよー」
木の根元に着くと抱えていたカズキを地面に放り投げる。本当はたいして重くなかったけどね。なんとなくだ。
「キョーマ、大丈夫なんですかこの人。さっきも言いましたけど、見られていたのは色々とマズイのでは? アリアのことはともかく、キョーマの体は……その」
まったくシエルは心配性だなぁ。そう思わなくもないが、否定することはできないんだよな。俺の体に入っている心臓は特別製で、一部の人しかその秘密を知らないわけだし。
…………カズキは別だけど。
「む? 内緒話してるところ悪いんだが、オレは奏のここに何が入ってるか知ってるぞ」
トントンと。カズキは俺の胸の中央へ軽くノックするように手を当てる。
「! それは本当ですかキョーマ」
「カズキが言うならそうなんだろうな。俺は言った覚えがないけど」
「はい? キョーマが教えてないのに、なんでこの人が知っているのですか。わけがわかりません」
だろうね。でも、それが現実なのだから認めなければ。一応説明はするけれど。
「あー、なんて言ったらいいのか……こいつは出会った頃からこうなんだよ。妙に鼻が利くというか、心を読んでるみたいな言動が多くてさ。特に隠したいことに限って絶対に知ってたりするし、ほんとまいっちまうぜ」
やれやれと肩を竦める。こいつと付き合う上で唯一気をつけないといけない所だな。カズキに対して嘘をついても冗談を言っても、その言葉に隠された真意は見透かされてしまう。それを迷惑と思う人もいるだろう。実際うちの妹である沙耶だってカズキのことを嫌忌しているしな。だが、俺はそんなこいつのことが嫌いではない。だって、言わなくても伝わるんだぜ? 俺にとっては逆に都合がいいね。嘘がすぐにバレてしまう? だからなんだ。最初から真実のみを話せばいいだろう。と、そんなふうに思えるからこそ友達としてやっていけるんだよな。変に気負わなくていいから楽だし。
「あはは。ごめんなー奏。もしかして、知ってても言わない方がよかったか?」
「いや、お前に隠し事される方が困るよ。友達なんだし、秘密は共有していたっていいだろ」
「そっかー。うんうん、でも――――命だけは助けてくれると嬉しいかな」
どういうことだ。
「シエル、殺しちゃ駄目だよ。きょーまが許可を出さない限りは、その手を動かすことはお薦めできないかな」
アリアがジッと見つめる先を見ると、そこにはカズキの首筋へと薄い刃の付いた細長い棒、手術用のメスを押し当てるシエルの姿があった。どこから出したのか、そもそも何故普段から持ち歩いているのかなんてどうでもいい。
どうして、シエルはそこまで俺の秘密に拘るのか。それだけが疑問に思えてしまう。
「わかっています。ただ、このままというわけにもいかないでしょう? キョーマは楽観視していますけど、この人……カズキさんが敵である可能性だって捨て切れないはず」
敵。うーん、敵かぁ……いったい誰と戦っているんだ俺は。
よくよく考えたら戦闘訓練だってそうだ。強くなる必要はあるのだろうか? このままで十分ではないのか。うごご、頭が痛くなってきたぞ。
いやまあ鍛えるのはいいのか。ブリジット先生に会いに行くという目的がある以上、国外に出なければいけないわけだし、その道中で戦場を通ることだってあるだろう。ど真ん中を突っ切るわけじゃないから大丈夫だとは思うが、最低限身を守れるくらいには強くならなければな。
って、違う。今はそんな話をしているんではなくて――
「マスター。苦悶してるところ悪いッスけど、私帰っても良いッスかね? ステージ2を攻略するのに最適の方法を思いついたんで早く試したいんス。罠の再設置も終わりましたから、ここにもう用はないデスし」
「え、あ、うん。どうぞ」
「ほーい。それじゃ、私は先に帰らせてもらいまスねー」
リンネ、なんて空気の読めない子! でも、それでこそウサリーネさんだわ。おかげでピリピリしていた場の雰囲気が和らいだ。シエルなんてポカーンと口を開けているしな。
帰宅するべく背を向けて歩き出したリンネを見送ったあと、俺は未だにカズキを離さないでいたシエルに、ずっと言いたかったある言葉を投げかけたのだった。
「シエル、ほっぺにパンくず付いてる……」




