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我が家のペットは兵器である  作者: 御影冬馬
スクールライフ
48/98

48 鍛錬

「せいッ、はぁぁあああ!!」

 標的に対して一直線に突き進み、その勢いを殺さずに正拳を放つ。

「ん、速さは合格。でも」

 パシンっ、ぐるん。

「え」

「狙いが正直過ぎる。それでは、戦場で役に立たない」

 放たれた右の突きは空を切り、次の瞬間には俺の体は宙をクルクルと回っていた。

 ドッ、ぐしゃり!

「うごッ……ぐぇ」

 受身もとれず、地面に吸い込まれるように叩きつけられる。その衝撃で肺から空気が漏れ、呼吸が止まる。

「早く立て。そのまま寝ているのなら…………殺すぞ」

 俺を投げ飛ばした黒髪の少女が冷たく、そう、まるで本気の殺気を秘めたかのような言葉を投げかけてくる。

「! く、あ」

 ゴバンッ!! 息が出来ずに苦しい中、ふと開いた視界の端に影が落ちる。危険を感じそれを避けるが、代わりに――俺が先ほどまで居た地面が抉られ、岩盤もろとも砕け散るのが見えた。

 やばいやばいやばいーーー!! ころ、ころされちゃうッ!?

「ふふ、殺意は理解できるんだね。じゃあ、これならどう?」

「………………」

 黒髪の少女は笑いながら、いや、顔は無表情なんだが声が絶対楽しんでやがる。うん、その彼女が俺の服を掴み自身へと引き寄せる。

「はぁぁぁあああ」

 ドズン。ガッ、ゴゴウ! ブチ、バパンッ、ミチャ…………だんだんと己の体が壊れていくのがわかる。

 このままでは、確実に死んでしまうだろう。

「……ふん」

 彼女もそれに気付いたのか、とどめを刺さずに、それも唐突に興味を失ったかのように俺を地へ捨て落とす。

「ぐはッ、げ、ごほっ」

 ようやく一息つけるな。

「ねぇ、きょーま。ねぇねぇ、きょーまきょーま」

 だと思ったのに。黒髪の少女、金色の双眸をした彼女は跪く俺の眼前にしゃがみこんで責めるような視線を送る。

「な、なんでしょうか――アリアさん?」

「ん。戦闘訓練をしたい、本気でやらないと怪我するぜ! って、きょーまが言うから期待してたのに、なんなの、馬鹿にしてるの? それともなに、わざわざ手を抜いてボロボロになるのが目的だったの?」

「い、いやそんなことは」

「きょーまって、ほんと口だけだよね。俺がアリアを守るんだ? そんなこと出来るわけないじゃない。私は機巧人形(マシンドール)であなたは人間。わかるでしょ。能力が違い過ぎるんだよ、根本的にね。そりゃ多少は強いと思うよ、義体を装着しているんだし。だけど、それすら生かしきれていないきょーまはクズだと思う。自分の身体能力すら把握していないくせに、力任せに動こうとするからこうなるんだ、よ」

「あ、う……」

 言い返す言葉もありませんです、はい。

 ふふふ、体だけでなく精神まで容赦なく叩きのめしにくるとはさすがアリアだぜ。

「あ~、あれ? なんで私はこんなこと言って……ごめんね、きょーま。まだ少し慣れてなくて」

「ん? そっか、いいよ別に。本当のことだし、気にしなくても」

 しかし、アリアは自分が言った罵詈雑言に対して首を傾げてしまう。

「むぅ、あとでシエルに調整してもらう」

 その方がいいだろうな。俺はともかく、彼女の本来の性格を知らない人がこんなこと言われたら絶対傷付くからな。

「…………くまさん」

「え……?」

 おっと。視界に白い布に描かれた可愛い柄が映っていたようだ。

 だが、俺の失言はハッキリとアリアの耳に入っていたらしい。カッと顔が赤くなるのがわかった。

「こ、これは違うの! えと、そうッ! たまたま、偶然なの。シエルが選んだ物だから! 私の趣味じゃないからぁ!!」

 ポカポカ、ゴスッ。痛いいたい、顔が歪むからやめてください。


 アリアがいつもより感情表現豊かなのはひとえにシエルのおかげであった。

 以前より口下手なのを気にしていたアリアはシエルに内部システムの調整を頼んだらしく、その結果、少々パワーダウンする代わりにこうして会話につまずかないようになれた。ちょっとパラメータのバランスが悪い気もするけど、これはこれで味があるってもんだ。……け、けっして罵られるのが好きとかじゃないよ?


「フシャー、続き、やるよ!」

 うん。やるのはいいんだけどね。たださ、

「おっけー、っと」

 俺、そのパワーの下がったアリアにさえ勝てないんだよね。言葉に出しては言わないけど、やっぱり機巧人形は動きが精緻だ。寸分違わずに俺の打撃を受け流すんだもんなぁ。どうせダメージなんて入らないのに丁寧に避けるのは、力量の差を理解させるためでもあるのかね。本物の戦場を知っているアリアからすれば、この訓練だって遊びにすぎない。だが、それでも俺を鍛えるという意志は本気だった。

 バネで弾むかのように起き上がり、再度アリアと向き合う。

 今度はこっちの番だ。ズルいかもしれないが、切札を使わせてもらおうじゃないか。


『エクステンド/イグニス・ハート』


「む?」

 俺の左手に装着された真紅のグローブに訝しげな目を向けるアリア。

「身体能力じゃ勝ち目がないのは理解した。だから、少しだけ……な」

 そう言った瞬間、俺の姿はアリアの認識の外まで消える。

「ダブルアクセル――ブラストダッシュ」

「きょー、ま……?」


『エクステンド/アクセル/ヒート・ナイフ』


 拡張デバイスであるイグニスの能力を二段階上げ、炎を噴射することによる爆発的な加速にて移動。

 その後、ナイフを宙に二本現出させ待機。


「くっ、やっぱり胴体が痛むな。普通に移動するよりはマシだけど」

 ようはジェットエンジンみたいな感じだな。イグニスから瞬間的に放てる炎の熱量は通常だとそれほど多くはない。あのドラゴンブレスだってチャージする時間が必要なくらいだからな。しかし、アクセルをかけギアを上げることで擬似的にだがその時間を無くすことが可能になる。で、エネルギーを放出する際に指向性を持たせることによって前だけではなく、後方へ移動する慣性へと変換するってわけだ。ダブル以上でないと発動そのものができないが、普通に義体を酷使して超過駆動するよりは胴体にかかる負担が少ないのがメリットである。最初に試しで使った時は左腕がバキバキに折れ曲がったけどね。あはは。

 ナイフは現出時にアクセルをかけてから出すことでラグを極力減らしていた。こちらは物質自体を構成するせいかダブル以上は結局満足に使えないのである。どうにも人間の脳では処理がしきれないみたいでさ。ダブル……いや、その上のトリプルを使うなら脳神経が焼ききれるのを覚悟しなければならない。

 そういやイグニスにおけるアクセルもかけ放題というわけではなく――――


 キュルキュル、カシャン。


 腕に装填されたカートリッジの一つが使い終わる。

 そう、イグニスにアクセルをかけると速攻で消えるのだエネルギー残量が。これでは気軽には使えないだろうな。今回の場合は単純にアリアから距離を取るためだったからいいけどさ。


『目標物捕捉、ヒート・ナイフ射出します』


 アリアに向かって炎により熱せられた二本のナイフが飛んでいく。速度は銃における弾丸と同程度。精密な操作は無理だが直線での発射なら簡単だ、目測である程度着弾点も予想できるしな。


「――――ふ!」

 カカッ、キィィィ……ン。

「おいおい、マジかよ」

 顔と胴体さえ傷付かなければ機巧人形は修復が容易だ。そのため、もしアリアが防御や回避をできなかった場合に備えて腕と脚を狙ったのだが、それが裏目に出てしまったようだ。

 アリアは両手に一本ずつナイフを抓むようにして見事にキャッチしていた。

「………………っ」

 まあ、すぐにポイしたけどね。予想外に熱かったのか、涙目になってるし。温度控えめなので大丈夫だとは思うけど。

「くそ、それなら――」


『ヒート・ナイフ、ダブルアクセル』


 アリアが捨てた地面に落ちている方のナイフを消失させ、新たに自分の眼前へと計四本のナイフを現出させる。


「いっ……耐えろ、これくらいならいけるはずだ」

 脳に針を刺すような感覚がする。しかし、それだけだ。ダブルはまだ耐えられないというほどでもない。

 だが、その数秒の思考の停止が命取りになった。


『目標物、ロストしました』


「――――な!?」

「奇襲は一度で成功しない場合、即時退却。これ、戦場での基本」


 いつの間にか距離をつめていたアリア。

 彼女の強烈なデコピン一発で、俺の意識は刈り取られ――――――




「いやはや、無駄に規模の大きい戦闘でしたッスねぇ」

 響真たちの訓練を離れた所で眺めていた桃髪の美少女、リンネがそう感想をもらす。

「まったくです。体術はいいとして、イグニスを使うのは反則かと思いますよ? 結局、余裕で防がれちゃいましたけど」

 同意するのは明るい茶色の髪をした小柄な少女、シエルだ。クセっ毛が風に揺れてなんとも可愛らしい。

「もぐもぐ、む? ごくん。ちょっと、やけどした……けど、許すよ。あとでプリン一個買ってくれるなら、だけど」

「はい。本当にすみませんでしたッ! くぅ、勝てると思ったんだけどなぁ」

 現在、俺たちは訓練を行っていた大きな木の生える広場で朝食を食べていた。

 シエルお手製のサンドイッチは何個でもいけるな。もぐむぐ、おっとそれは俺が狙ってたやつだぜアリアさん?

「きょーま、負け犬。私、勝者。つまり、えらい」

 そうだね。大人しく譲ろうじゃないか、はは。次は負けねぇからな!

「落ち込むことないッスよマスター。反則行為をして勝てなかったくらいでなんデスか! もっと早く諦めましょうよ!」

 慰めてるのか貶めているのか。どっちでもいいけどね、事実だし。

「はぁ、結構鍛えてきたつもりなんだけどなぁ」

 シャツの裾を捲って腹を出して叩く。そこにあるのは見事に割れた腹筋だ。四肢の義体を支えるため胴体はかなり念入りに筋トレしていたのでこんなふうにバキバキになってしまったのである。

「む、いい仕上がりッスねぇ。ちょっと叩いてみていいッスか?」

「いいけど、軽くな」

 リンネも一応機巧人形だ。アリアほどでないにしろ、気軽にぶっ飛ばされてはかなわない。

「りょーかいッス。では……えいっ」

 ペキョ。

「ふむ、折れたッス」

 えええええ!? どんだけひ弱なんだよリンネぇぇぇえ!

「冗談はほどほどにして、そろそろ帰りますよー」

「ほーい。なんだか手がプラプラしてるッスけど、きっと気のせいッスよね? さて、家に帰ってゲームでもするッスよマスター」

 いやいや、さっき自分でも言ってたし折れてますよねそれ。まあ、すぐ直るだろうから心配いらないだろうけどさ。

 ちょうど俺も食べ終わったし、荷物をまとめて一度帰宅しよう。

「むぐ?」

「……ゆっくりでいいぞ、アリア」

 と思ったが、アリアはまだ口を膨らませて咀嚼中だったみたいだ。ほっぺをつついてみる。ぷにぷに。

「――――ッ!?」

 メキメキ、ゴリ。

「あーっはっは! マスターってば黒猫ちゃんに反撃をもらってるッスー」

 痛い。マジ痛い。

「んぐ……ごくん。ふぅ、ごめんごめん」

 そんな無表情で謝られても反応に困るんだがな。

「何やってるんですか、キョーマったら。って、あれ」

 俺とアリアのコントを見て失笑していたシエルが、俺の背後を見て首を傾げる。なんだ、幽霊でもいるのか、信じないぞ俺はそんな非科学的なこと! 見えない、なーんにも見えないもんね。

「そうではなくて、あそこです。影になっていて見え難いですけど、何かぶら下がってませんか?」

「あー、あー、俺は何も信じな――――ん、本当だな。人間、か?」

 手で目元を覆いながらも指の隙間から覗き見ると、シエルの指差す方向、先ほどまで俺たちがいた広場にある大木の太い枝に一人の見覚えのある奴が――捕まっていた。

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