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47 リンネ


『……認証。エクストラ・ゲート、オープン』


 帰宅するとさっそく増築作業に取り掛かることにした。とはいってもやることは単純なのですぐ終わったけどね。


 収納した時とは反対に黒い穴からせり上がってくるように現出する家屋。今更だけど、この部分だけはトートバッグやポーチと違うんだよな。あれは中に入れた物を手で掴まないと出したり出来ないし、こんなふうに指定した物体が自動的に上がってくるとかありえない。端末で操作してるから――そう言われるとたしかにそうなんだけど……その現出に際する、今の場合だと上に上がってくる上昇力? ってやつを何処から得ているのかが不明なんだ。端末には扉の開け閉めとカートリッジの制御しかシステムに組み込んでいないはず。つまりは想定外の動きをしてしまっている事になる。それだとやはり安全性に難があるから、実用化には程遠いかもね。セーフティロックも動作が安定していないと掛けられないからさ。


 結局、元の家の両隣にアリアとリンネの新居を移設し、庭へシエルの物置……おっと、失礼。棲家、寝室……にしか使えないだろうなサイズ的には。それを配置することになった。


「そんじゃ、少し待っててくれ」

 まだ一仕事残っている。エクストラ・ゲートを開いたままの今しか出来ない事がね。


 元の家にひとまず入り、母さんに手伝ってもらいながらドアを三枚、何も無い壁面へと新たに設置する。


「息子、これに何の意味がある」

 真顔で、いや、いつも通りの顔で俺に疑問を投げかけてくる。

「意味なんて後から加えれば良いだけだろ?」

「……なるほど。一理ある」

 納得しちゃった!? これだけで理解するとは、さすが母さん……面倒で考えるのをやめたらしい。仕事が終わったらすぐさまテーブルにある煎餅を食べに行ったぞ。俺にも一枚くれ、バリバリ。あ、これ新発売のカレー味だ! 美味いな、もっと買ってこよう。


 と、まぁ。


「そんなわけでただいま」

「意味がわかりません!?」

 ですよね。だって説明してないもん、わかるはずがな――

「ん。元の家と、新しいの、繋ぐ」

「なんでこれだけの情報でわかるんだよアリアは!」

「いや、マスターが驚いてどうするんスか。あれッスか。先にネタバレされちゃってオコなんデスか」

 くっ、まったくそのとおりなんで反論できねぇ。

「ごめん、なさい?」

「やめてあげるッスよ黒猫ちゃん。これ以上マスターの自尊心を傷付けちゃ可哀そうッスからね」

「いえ、たまには良いんじゃないでしょうか。キョーマの悔しがっている姿も中々見れるものではありませんし」

 最後の良心であろうシエルまで……

「俺に味方はいないのか。ううっ……でも頑張る」

 スイッチ、オン。


『マジックボックス、起動します』


 手にある端末から音声が流れ、元のを含む三軒の家と物置が光に包まれる。


『座標特定、空間干渉率上昇』


 キシキシと何かが歪み、そして――


「む、静かになった?」

「そうだな。無事に繋がったみたいだ」

 万が一のことがあってはいけないので母さんは家から連れ出している。右手に煎餅、左手にお茶の入った湯のみを持ちつつ俺の隣で寛いでいた。

「もぐもぐ、むぐむぐ」

 そして、アリアまで口をリスみたいに膨らませている。

「美味いよな、それ」

 コクコク。


『動作良好、セーフティロックOK。最終チェック中……コンプリート。エクストラ・ゲート、クローズ』


「さて、それじゃ中を確認しに行くか」

 端末を操作して開かれていた扉を閉じてから本家へと皆を引き連れていく。


「あれ、こんな所にドアなんてありましたっけ?」

 リビングに入ると、やはりと言うべきかシエルが一番に差異に気付いた。

「ない。少なくとも、さっきまでは」

「なんで壁にドアなんて付けたんスか。やっぱりマスターはアホなんスねー。って、え」

 リンネが笑いながらドアの一つを開け放つ。

「………………」

 何が起こったのか理解出来ず、一旦ドアを閉めたあと、もう一度開いて――その先を覗き込んだ。


「なんか家が繋がってるッスーーー!!!!!?」


 いい反応をしてくれるぜ。リンネみたいに感情が素直に表に出てくるタイプは好ましいな。わかりやすい分あれこれと悩まずに接する事ができる。


「ん。きょーま、さすが」

「なるほど。さっきのピカピカは、これのため」

 ほら、この二人は理解してるのかどうか不安になるだろ。いいけどね、それが彼女たちの個性なんだから。俺の説明不足が原因と言われたらしょうがないし、文句は言わないさ。


「――うーん、違和感がありませんね。空間を超過移動、それもタイムラグ無しの高速転移ですか。こんなの机上の空論だと思っていました」

 リンネが開いたドアとは違うドアで出たり入ったりを繰り返しつつ、感想を述べるシエル。たしかにその意見も間違ってはいないんだけど、ちょっと仕組みは違うんだよなぁ。

「正確にはドアとドアの間にあった空間、その距離を0にしているって感じかな。このドア自体はここにしか設置してないんだけど、壁側の方がちょうど新居に現出するように設定してあるんだ。施工の手間も省けるし、この方が二枚を繋ぐより安定するからね」

 部屋と部屋、出口と入り口のドア。その両端を繋ぐのは俺が考えた結果、不可能だと解った。捻じ曲がった空間を移動しようとすると、対象が破損するのだ。こう、グシャっと。テスト段階で俺の右手が失くなりかけたのはここだけの秘密だ。

 そこで俺が次に考案したのが、このドアである。

 これはドア自体の位相を捻じ曲げることにより、指定した座標に同じドアを現出させるっていう……ようはこの一枚のドアと同一の存在を離れた二箇所の場所に設置することが出来るってやつだ。元は普通の何の変哲もないドアにエクストラ・ゲートの位相干渉力を付加させ、ドアのこちら側とあちら側を繋ぐ――家を箱と仮定して、その箱を魔法のような力でくっつけるから『マジックボックス』。我ながら適当にも程があるとは思うが、どうせ今回だけの特別仕様なんだ、大目に見てくれ。

 なお、一度座標を固定してしまえば該当のドアを破壊しない限りは空間が乱れることはない。それは当然ながら実験済みだ。危険な物だったらこうして家になんて置いておけないしね。

「距離をぜろに……? いまいち何を言っているか理解しかねますけど、現に成功しているのですよねぇ。本当にすごいです、キョーマ」

 若干首を傾げてはいるが納得してくれたようだ。もっと褒めてくれ、俺は褒められて伸びる子だから。


 一通り驚き終わると各々自分の私物を増築された新居へと運ぶ作業に取り掛かる。


「ましろ、今日から、私といっしょ」

「わふ、わふん……」

 アリアは着替えなどと一緒にましろを抱えてドアの向こうへと消えた。連れて行かれたましろは少々不満そうだったが、仕方ないだろう。女の子同士仲良くやってくれ。

「うわっほい! 自分の家ーーー!! ひゃっはーッ!!!!!!」

 リンネはまぁ……嬉しそうだからいっか。テンション高すぎて心配になるけど、二、三日もすれば落ち着くだろ。


「んっしょ、と」

「シエルの荷物って、ほんとに少ないよな」

 風で飛ばされない程度に補強したあと、物置内へと布団一式を運び込む。

「あはは。そうですねぇ、先生と旅をしていたせいか余計な物を持つというのは出来ない体になってしまいまして」

 それにしたって少なすぎるだろう。布団の他に持ち込んだ物と言えば替えの服とそれを包むローブだけだ。最初に出逢った時以来着ているのを見ていなかったが、まさかこんな使われ方をしていたとは。シエルの体形からすると大きめのローブだが、誰かからの貰い物なのか?

「あ、これ実は先生のお下がりなんです。貰ってからだいぶ痛んでしまったので捨てようと思ってたんですけど、中々機会がなくて……」

 俺の視線に気付いたのか説明をしてくれる。

「そっか。たしかにこれだけ解れちゃうと街中じゃ着れないよなぁ」

「はい、今はキョーマがくれた服もありますからねぇ。こっちの方が何倍も着心地がいいですから、直してまでローブを着る意味ないですし」

 そう言ってシエルは着ている服の裾を手で掴みヒラヒラと揺らす。くっ、見えそうで見えない。

「でも、こうして役に立つ時もあるので一応とっておきますか。寒いときに羽織るだけなら使えなくもない……?」

 何故疑問系なのか。


 その後、部屋の整理が終わった面々はリビングに集合していた。


「本日よりお世話になりまス、兎美りんねッス。よろしくお願いしまース!」

 テーブルを囲んで椅子に座る皆に対し意気揚々とリンネが挨拶をする。沙耶と母さんにはちゃんと自己紹介してなかったからな。これから一緒に生活するんだし、己がどんな人物なのかを知ってもらった方が良いだろう。

「よろしく。娘が増えて、嬉しい」

「兎美様、よろしくお願いします」

 二人は受け入れました、という体で返事をするが

「はいッス、ママさんに妹ちゃん! あ、私のことはリンネって呼んでくださいネ!!」

 ピョンピョン跳ね回るようなリンネのテンションの高さについていけていないようであった。

「りんね、ごはん、冷めるよ?」

「おっと、そうでした! でわ、いただきまース!! もぐむぐ、辛ぇッスねこれー」

 唯一アリアだけは冷静に……いや、普段通りか。うん、現在は夕食中だったね。俺も早く食べ始めよう。

「むむ、リンネさんは甘口派でしたか。すみません、次回からは調整しますね」

 あれから大した時間もかけずに作ったにしてはかなり美味いと思うけどなぁ。ちなみに今日のメニューはみんな大好きカレーライスである。煎餅で食べたじゃんって? アレを一緒にしてはいけない。あっちはあくまでカレー風味(・・)だからね。俺の中では完全に違う食べ物に分類されている。

「うひー、水みず。んぐんぐ……いや、これは好きな味だと思うッス! 初めて食べたのでビックリしただけッスよー」

「そうでしたか。よかったです、お口に合わない物を出したら怒られちゃいますからね」

「ん? シエルが作る料理に口出しする奴なんてこの家にいないと思うぞ」

「そうです。シエルさんのカレーは最高です」

「もぐもぐ、おかわり」

「私は、もう少し、小盛りが、いい。うっぷ」

 ほら。……アリアは別な、味じゃなくて量の問題らしいから。やっと言えたよって顔してるし、今まで無理してたのか。家族なんだから遠慮せず意見を言うべきだと思うけど、案外我慢しちゃうタイプなのかもな。

「アリア、食べ切れなかったら残していいんだぞ? あとは俺が引き継ぐから」

「ん。ごめん、じゃあ、任せる」

 今日のは特に大盛りだったからな。俺もそこまで大食漢じゃないけど、まだ多少なら余裕がある。いけるいける。

「はぅ……お義母さんや沙耶さんに合わせてついつい大盛りにし過ぎちゃってました。今度から減らしますね。みなさんも何か意見があったらどんどん言ってください。改善いたしますので」

 完璧主義もほどほどにな。気配り上手なのはいいが、君だって俺の大事な家族なんだからさ。


 夕食が終わるとアリアとシエルは新居へ、沙耶と母さんは自室へと向かう。


 で、リビングには当然


「あの、マスターは何をしているのでしょうか」


 俺とリンネ、二人だけになる。


「………………」

「いやいや、そんな見つめられても困るッスよ。それとも、私の顔に何かついてるんスか?」

「うん。可愛い顔がついてるな」

 現在、俺はリビングに置いてあるソファの上でリンネに膝枕をされつつ横になっていた。

「はぁ。そんなにこの顔が好きなら本登録するッスか?」

「それとこれとは別」

「あはは、ひでぇ」

 むにむにとリンネの頬を軽く掴み感触を確かめるように動かす。

 実はアリアの残り物まで食べたらさすがに腹の限界を超えたのか動けなくなってしまったので、こうしてリンネに膝枕されつつ休息しているのであった。

「顔だけなら本当に理想そのものなんだけどなぁ」

「そ、そんなにウサリーネのことが嫌いだったんスか……ぐすん」

 おう、泣き顔も可愛い。

「いや、好きだよ。ウサリーネさんのことはね」

「だったら」

「ごめん。俺の中でまだ解決していない……というか、飲み込めてないことがあってさ」

 だって、彼女のこの体は本来なら――――

「……燈様のこと、ですね」

「む」

「なんとなくは気付いてましたよ。だって、そんなに都合よく機巧人形の素体が余っているわけないじゃないですか。きっと、この体は燈緋華が使うために創り上げた物――それなのに私を助けるために、大事な、とんでもなく大切な物を犠牲にしてまで」

 そこまで言うとポロポロとリンネの瞳から涙が零れ落ちてくる。

 たしかに彼女の言うとおりだ。ウサリーネという存在を救うため、燈緋華はチャンスを一回無駄にした。

 しかし、ただそれだけのことだ。

 それでウサリーネ、ここに在る命……兎美りんねが死なずに済んだのだから、それでいいじゃないか。

「師匠は、まだ死なない」

「でも」

「それにさ、リンネのおかげで助かったっていう可能性もあるんだよ。師匠が言うには機巧人形と人間のハイブリッド化には問題があるらしくてさ。そのためのデータが取れたって」

 データがあっても、問題を解決するには到らない。こんな時に限って俺の閃きも働かないのだから、役立たずだと思われているだろうな。その罵倒は甘んじて受けよう、事実なのだし。

「…………そう、ッスか」

「ああ。だから、リンネが気に病む必要は全くないんだ。俺の気持ちの問題ってだけでさ」

 その気持ちが切り替えられないから困っているんだがな。なんというか、リンネに好意を寄せるのは師匠への裏切りだと思えてしまってしかたない。この顔だって、俺に好かれようと師匠が頑張って作製した物なんだろう。そうでなければこんなにも……。

「マスターは、」

 リンネが瞳を閉じ、しばし逡巡したあと、言葉を紡ぐ。

「奏響真は、ウサリーネを……恨んではいないッスか」

 そんなの当然だ。きっと俺が師匠と同じ立場だったとしても彼女を助けただろう。恨む理由なんてありはしない。

 リンネの問いに静かに頷く。

「わかったッス。それならいいんです。嫌われていないのなら、それで」

「はは。正義のヒーロー、ウサリーネは皆から愛される存在だろ」

「うへへ、それもそうッスね! さ、そろそろ楽になったっしょ。私はもう帰らせてもらいまスね」

 リンネは俺の額を一撫ですると、そっと立ち上がり自室へと行ってしまう。


 独り、ソファの上で丸まり考える。どうするべきなのだろうか、と。


「……死ぬ気で勉強、か」


 ましろに教えられた、理想の未来を掴む最善の方法。


 神秘の創造。


 人智を超えた行い、それを成し遂げた者は世界にただ一人しかいない。


 ブリジット先生。


 彼女に再び会えれば、何か変わるのか。


「…………………………」


 保証はない。絶望する現実を突きつけられるだけかもしれない。


 だが、


燈緋華(ししょう)のためなら、俺は」


 その絶望さえも超えてみせよう。



……はい。というわけで、第二部終了です。

第三部に関しては活動報告にて追って連絡を。たぶん再開は早くても二週間後になると思います。

やっと全体の一割ってところなので、この先どんどんと――おっと、ネタバレは禁止か。

明るく、楽しく、唐突に! これからも続きます。よろしくね!!

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