11 恩人
色々あって流してしまっていたが、シエルは俺の命の恩人である。
特に、手が左右逆に付いていないのは彼女のおかげだ。
「シエル、ありがとうな」
唸り続けるシエルに真面目な顔を向け、俺はそう告げた。
「ふぇ? なにか私、お礼を言われるような事しましたか?」
当の本人は昔の事なんて覚えていないかのような反応だったが。
「いや、今日最初にあった時は誰だかわからなかったんだけど……さっきから話をしてて、君が昔俺を助けてくれた人だって気付いたからさ……改めてお礼を言っておかないとと思って」
「ああ。そのことですか」
そのことなんだけど……なんか反応が薄いな。やっぱり最初の出会いで気付かなかったのはまずかったかな。でも、俺昔助けられた時は目が見えなくて……柔らかさと声くらいしか覚えてないんだよな。
「私が直接あなたを直したわけじゃないですし、先生がいれば私なんていてもいなくても……どっちでも構わない存在なんです。そうです。結局私なんて役立たずのドジッ子なんですかりゃ……なんですから」
噛んだ。そして言い直した。
「そんなことないと思うけどな。シエルがいなければ、この手が逆に付いてた可能性が高い。それに、あの時――俺が発狂せずにいられたのは君のおかげだ」
それは確かな事実だ。既に記憶がおぼろげだが、シエルに触れている間は痛みが引いていた覚えがある。あれがなければ痛みで俺の精神は壊れるか病んでいたことが確実だろう。
「それは……まぁ、そうだとは思いますけど……」
「とにかく! 俺は君に恩義を感じている。だから、今回の事は気にしなくて良いからな。ちょっとばかり首が飛んだくらい……下手したら死んでたけど、そもそも、ここでこうして生きていること自体が俺にとっては奇跡みたいなものなんだから」
そうだ。昔、彼女たちに助けられなければ――俺はこうして平凡な日々を過ごす事が出来なかったんだ。
そういえば、俺を助けてくれた『先生』は何処にいるんだ?
近くにいるなら彼女にもお礼が言いたい。俺のこの体を直してくれたのは先生なんだから。
「ぅう~……むむむ」
自分がした功績とドジった事について葛藤しているシエルに訊くべきか迷う。
だが、訊かないといけないだろう。先程の口ぶりからして、あの『先生』と仲違いしている可能性がある。そうだとしたら、何か助けになることをしてやらねばなるまい。二人はどちらも俺の恩人なのだから。
「なぁ、シエル」
肩に手を置き、正面で向き合う。
「はい? な、なんでしょうか!」
いや、別に変なことしようとしてるわけじゃないから……そんな警戒しないでくれ。
「先生と喧嘩でもしたのか? 仲直りしたいなら手伝うぞ?」
もう率直に訊いてみた。どうにも回りくどいのが苦手でね。実直過ぎて空気が読めない奴だとはよく言われるけど、そういう人間だもの。性根は中々変わるものじゃない。
と、変な顔でもされるかなーとも思うなか
「はい……出来ればお力添え願えると幸いです」
普通に頼られた。
次話から新章突入です。
これまで会話メインでしたが、次章は説明が大半になるかも……です。




