シーズン2第9話:夕暮れの坂道と、追いついた想い
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第9話では、息を切らして瞬の家へと走る宮乃の姿と、変わり果てた彼の家で目の当たりにする現実を描きます。
二人の運命が再び交錯する、緊迫のワンシーンをお楽しみください。
息を切らし、肺が焼けるような苦しさを覚えながら、宮乃は住宅街の坂道を必死に駆け上がっていた。
「頼むから……まだいて……!」
頭の中で何度もその言葉を繰り返す。
あんなにも冷たく突き放しておきながら、いざいなくなると知った途端に追いかけている自分の矛盾に、情けなさと焦りが入り混じる。
それでも、このまま彼を何も言わずに送り出してしまったら、自分は一生後悔することになると、本能が告げていた。
やがて、見覚えのある古い平屋の家並みが視界に入ってきた。
――そこにあったのは、宮乃の足を完全に凍りつかせる光景だった。
瞬の家の前には、見慣れない一台の白い引越しトラックが停められており、男たちが慌ただしく段ボール箱を荷台へと積み込んでいる真っ最中だった。
庭先には、かつて瞬が綺麗に拭き掃除をしていた使い古された軽トラックの姿はなく、すっかり片付けられたガレージは、まるで最初から誰も住んでいなかったかのようにガランと寂しく冷え切っていた。
(うそ……もう、荷物を運び出してる……?)
心臓がドクリと激しく波打ち、宮乃はその場に立ち尽くした。
間に合わなかったのか。
自分のせいで追い詰めておきながら、最後まできちんと向き合うことすらできなかったのか。
絶望感が波のように押し寄せ、目頭が熱く疼いたその時――。
家の玄関から、重い段ボール箱を両手で抱えた瞬の姿が現れた。
春の夕暮れの薄暗い光の中、その横顔は以前よりもやつれ、どこか遠くを見つめているかのように生気が失われていた。
着古したパーカーの袖をまくり、必死に荷物を運ぶその背中は、かつての気心の知れた幼馴染のそれではなく、重すぎる十字架をたった一人で背負い続けた、痛々しい青年そのものだった。
「瞬……っ!」
気づけば、宮乃の口から掠れた声が漏れていた。
その声に反応したのか、荷物をトラックに積み込もうとしていた瞬の手がピタリと止まった。
ゆっくりと、まるで壊れてしまう機械のように、瞬がこちらを振り返った。
宮乃の姿を認めた瞬間、瞬の瞳が信じられないものを見るように大きく見開かれた。
抱えていた段ボール箱が、ドサリと足元の地面に音を立てて落ちた。
「宮乃……? どうして、お前がここに……」
瞬の掠れた声は、夕暮れの冷たい風にかき消されそうだった。
二人の間には、わずか数メートルの距離しかなかったのに、まるで果てしない隔たりがあるかのように、しばらくの間、どちらも言葉を発することができなかった。
息を整えながら、宮乃は震える足で一歩、また一歩と瞬の方へ近づいた。
胸の奥で渦巻く感情が溢れ出しそうになりながら、宮乃は必死に声を絞り出した。
「……本当に、引っ越すの……? 学校も辞めて、この街を出て行くって、本当なの……?」
瞬は気まずそうに目を伏せ、苦しげに唇を噛み締めた。
「……ああ。決まったことだからさ。……迷惑かけて、ごめんな。もう二度と、お前の前に現れないから……安心してくれ」
その寂しげな、すべてを諦めたような笑顔を見た瞬間、宮乃の中で何かがプツリと音を立てて弾けた。
「……ふざけ、ないでよ……!」
宮乃の震える声が、夕暮れの静かな住宅街に響いた。
瞬がハッとして顔を上げると、そこには涙をこぼしながら、自分をまっすぐに見つめる宮乃の姿があった。
第9話をお読みいただきありがとうございました。
引っ越しの最中、間一髪のところで瞬に追いついた宮乃。
「もう現れない」と言った瞬に対し、宮乃の胸に込み上げた本当の想いとは――。
物語はいよいよクライマックスへ向けて大きく動き出します。
次回、第10話もお楽しみに!




