シーズン2第6話:母の優しさと、残された選択
いつもお読みいただき、たくさんの応援をありがとうございます!
第6話では、瞬が残していった紙袋の中身を通じて、宮乃の心に小さな変化が訪れる様子を描きます。
憎しみと優しさが入り混じる複雑な感情の中、彼女が下す小さな決断とは――。
リビングのローテーブルの上に、瞬が置いていった紙袋がぽつんと置かれていた。
中から取り出したベビー服は、どれも大切に使われていたのか、きれいに洗濯されて柔軟剤の優しい香りがほんのりと残っている。
そして、その下に添えられていた瞬の母親からの手紙。
震えるような文字で綴られていたのは、事故以来、一言も謝罪に行けなかったことへの苦悩と、宮乃や赤ちゃんの体を心から気遣う言葉だった。
『こんな私たちが、あなたに顔を合わせる資格なんてないことは分かっています。だけど、どうか自分の体を一番に大切にしてください。結衣ちゃんがすくすく育つことを、陰ながらずっと祈っています』
手紙を握りしめる宮乃の指先が、わずかに震えた。
被害者である自分たちがこれほどまでに苦しみ、すべてを奪われたというのに、加害者側の家族もまた、それぞれの地獄を背負って生きている。
許してなどいない。
あの事故のせいで、健太が帰ってこないという現実が消えるわけではない。
だけど、あの紙袋に詰められていたのは、紛れもなく「人間としての温もり」だった。
それが余計に、宮乃の心を複雑にさせ、どうしようもない切なさを生み出していた。
「……どうして、こんなもの置いていくのよ……」
ぽつりと呟いた言葉は、誰に届くこともなく部屋の空気に吸い込まれていった。
数日後。
宮乃は結衣をベビーカーに乗せ、再びあの住宅街の坂道を歩いていた。
心の整理がつかないまま、どうしても返さなければいけないものがあったからだ。
瞬の家の近くまで来ると、心臓がバクバクと激しく音を立てた。
またあの時のように、瞬が飛び出してくるかもしれない。そう思うと足がすくみそうになったが、宮乃は意を決してその家の郵便受けの前に立った。
持ってきたのは、瞬が置いていった紙袋だった。
洋服や手紙はそのままに、瞬が個人的に買って添えていたミルクや栄養補助食品だけを綺麗に抜き取り、代わりに一枚のメモをそっと忍ばせていた。
『服と手紙は受け取ります。お気持ちも、分かりました。
だけど、これ以上関わらないでください。お願いします』
震える手で封筒を郵便受けに入れ、宮乃はすぐにその場を離れようと背中を向けた。
その時、背後でガチャリと玄関の引き戸が開く音がした。
「……宮乃ちゃん……?」
振り返ると、そこには驚いた表情をした瞬の母親が立っていた。
白髪が増え、以前よりもすっかり小さくなったように見えるその姿を見た瞬間、宮乃の足がピタリと止まった。
瞬の母親は宮乃の顔を見ると、ハッとしたように目を見張り、そして次の瞬間、その場に崩れ落ちるように深々と頭を下げた。
「宮乃ちゃん……! 本当に、本当にごめんね……! うちの者が、あんなことをして……お前をさらに苦しめて……本当に申し訳なかった……!」
絞り出すような、か細くも切実な謝罪の声が、春の静かな空気の中に響いた。
その姿を目の当たりにした宮乃は、喉の奥がキュッと締め付けられるような痛みを覚えた。
怒鳴りつけたいわけでも、泣かせたいわけでもない。
ただ、どうしてこんなことになってしまったのかという深い悲しみが、再び宮乃の胸を満たしていくのだった。
第6話をお読みいただきありがとうございました。
瞬の母親と直面した宮乃。
憎むべき加害者の家族でありながら、同じように苦悩する母親の姿を前に、宮乃は何を思うのか。
物語はさらに深く、それぞれの登場人物の心理へと切り込んでいきます。
次回、第7話もお楽しみに!




