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第六話「きのこの将軍。」

命令を受けたマシュリンが飛び上がるのと、俺が身を屈めて駆け出すのはほぼ同時だった。


三体のマシュリンが空中で激突する。

俺はスライディングでその真下を滑り抜けた。


一拍遅れて背後で毒霧が炸裂する。


ギリギリ。

なんとか効果範囲外に出られたらしい。


あれは、マシュリンが上位種の指揮下に入っている状況でのみ見せる、凶悪な自爆突撃だ。

自爆と言っても、マシュリン自身にダメージはないのでMPの続く限り何度でも突撃してくる。

あれだけで防御重視のタンクなんかは簡単に瀕死に持っていかれる。やはり何度見てもえぐい。


だが、俺は鈍間なタンクじゃない。

飛び上がるように体を起こし、右左と襲い来る自爆兵どもを躱しながら風のように駆ける。


「攻撃力上昇!」


マシュリンの壁を抜けた。

余裕を見て、魔法も使用。MP4消費。問題はない。


そして、ついに巨体が眼前へ迫った。

急接近を許したジェネラル・マシュリンがわずかに身を反らす。

が、次の瞬間には目の前の矮小な生物を叩き潰さんと、腕を振り下ろした。


すべてがセオリー通りで助かる。

俺は速度を緩めずジェネラル・マシュリンの左側面へと飛び出した。

ズドンと地面が揺れる。


「…お…そいッ…!!!」


低い地点への攻撃。必然的に頭も下がる。

捻り上げるような右拳が、その顔面を正確に撃ち抜いた。


「グォォオオオオオオオ!!」


いいのが入った。

ジェネラル・マシュリンは追撃を恐れてか、腕で顔を守りながら数歩後退する。


実は俺がマシュリンを倒す時に叩いていた傘の部分は弱点ではない。むしろあそこはダメージが通りづらい部位だ。

マシュリン系のモンスターの弱点はケロピヨと同じ顔面。まあ、マシュリンはすっぽりと傘に覆われてしまっているのでわざわざ引っぺがしてまで狙うようなことはしないが、こいつは表に出てしまっている。


であれば狙わないリゲナーなどいない。己のデザインを呪え。

今回のダメージは『19.8』。


「んー、10点。」


ベテランリゲナーも唸る一撃だ。


13レベルのジェネラル・マシュリンの物理防御力は46。

俺の物理攻撃力は『攻撃力上昇』の魔法が乗って2分間は20%上昇し39になっている。

この場合の基本ダメージが8。


8 x 1.5 x 1.5 =18。さらに1.1倍で19.8。

つまりさっきのは今の俺に出せる最高のダメージだったわけだ。


まったく、格上相手にこの火力。

これこそ『Re : Genesis Online』。


まあ、急所にあたった時に超火力が出るのは相手も同じなんだけどね。


マシュリン系の物理攻撃力は雑魚なのでこいつも例に漏れず33しかない。

このレベルで?ぷーくすくす。


で、俺の物理防御力が13なので…。


基本ダメージ20!?

あれ、に、20の2.25倍は……45?


「すー……おれのHP上限44なんだけど。」


いかん。あいつの攻撃だけは受けちゃだめだ。

間違っても顔なんかで受けた日にはどこぞのパンのマンの如く顔が飛んで行ってしまう。


「だ、だが、まあ、当たらなければいいだけの話!!」


これはマシュリンに限らず植物系のモンスター全般に言えることだが、やつらは素早さが極端に低い傾向にある。

動きのパターンもなんとなく知っている俺からすれば、避けるのは容易。

だからこそ、俺はこいつとの勝負に出た。


「ッ…!」


長い腕から繰り出される大ぶりの攻撃を躱しつつ、胴体に一撃。

横目に返す刀が見えたので、これも確実に躱してもう一撃。

当たらないとわかっていてもその鈍い風切り音に肩がすくむ。


ジェネラル・マシュリンは胴体も硬い。ダメージが渋いな。


「あぶなっ!」


気づけば、さっき無視して通り過ぎたマシュリンたちが集まってきていた。

身動きがとりづらい。


「邪魔だな…。」


ここはセオリー通り下がるか。

俺はどうしても『一撃一殺』ちゃんを活躍させたくて突っ込んだが、本来はスピードタイプがマシュリンの周りを走り回って自爆を誘発。MP切れを起こさせて無力化、数を減らし、ジェネラル・マシュリンを狩る、という手順が定石となっている。


あわよくばと思ったが、堅実なルートに乗り換える。


しかし、上位種でさえ俺の速度には追い付けない。

ましてやただのマシュリンが俺を捉えるなんて不可能だ。


「行くぞ…。」


走り出した俺に反応して、次々と『ポイスト』が唱えられる。

斜陽の差し込む森の中、深緑の爆煙があたりを彩る様はさながら花火のよう。

その美しさに思わず口角も上がる。


何度も何度も、挑発するように木々の間をめぐる。

かろうじて目で終えているのはジェネラル・マシュリンくらいだ。


そして、煙が晴れていく。

と、いうわけで。


「おしまいだ。」


毒を出せなくなったマシュリンなど、愚鈍なきのこだるまに過ぎない。


<マシュリン(Lv7)を倒しました。>

<経験値(25)を取得しました。>


<マシュリン(Lv9)を倒しました。>

<経験値(31)を取得しました。>


<マシュリン(Lv8)を倒しました。>

<経験値(27)を取得しました。>


片っ端から蹴散らす。

途中で攻撃力上昇が切れたが、それでも、周囲を一掃するのにさして時間はかからなかった。


<マシュリン(Lv7)を倒しました。>

<経験値(25)を取得しました。>


<ノイン・レーゲンシュラインのレベルが上がりました。5→6>

<スキルポイント(1)を取得しました。>


マシュリンが残り一体になったとき、俺のレベルも上がった。



==========================



ノイン・レーゲンシュライン


メインクラス:拳闘士(Lv5)

サブクラス:聖職者(Lv5)


Lv:6

HP:46/46

MP:13/27



==========================



キャラクターレベルとクラスレベルの差はほとんどないはず。

こいつを倒せば、クラスレベルも上がるだろう。

だが、それができない理由があった。


ジェネラル・マシュリンは指揮下のマシュリンを全員倒されると、『怒り』という状態異常がついて、範囲攻撃魔法を連発してくるようになる。



==========================



ジェネラル・マシュリン


Lv:13

HP:46.8/84

MP:20/25



==========================



あのMPじゃ4回は撃ってくるだろう。

今の俺の速度でもさばききれるか怪しい。

それにあいつは物理より魔法の方が強いんだ。


マシュリンさえ残っていれば、間合いを詰めることで近接戦闘に持ち込むことができる。


だから、こいつは残す。

ジェネラル・マシュリンの胞子でこいつのMPは徐々に回復していくが、一体なら警戒する必要もない。


「てな、わけで、タイマンだ。」


「グゥ……。」


低い唸り声があたりを包む。


「グォォオオオオオオ!!」


それはいつしか咆哮へと変わり、地面を揺らす足音とともに襲い来る。

胸の前で構えられた枯れ木のような腕がミシミシと音を立てた。

そして、放たれた裏拳。空気を割く音がその威力を物語る。だが、そこにはもう俺はいない。


深くしゃがみこんだ姿勢から、がら空きの横っ腹へ蹴りを入れる。

さすがにひるまないか。


集中だ。微かな動きから次の攻撃を読む。


…左の足で踏み込んだ。

右の膝蹴り。


「ふっ……!」


俺は地面を蹴るように右側へ飛ぶ。


ジェネラル・マシュリンの右膝は、先刻まで俺の頭部があった場所を貫く。


よし、いける。見えている。

そのうえで冷静に判断ができている。


右腕が上がった。内側に入り込む。


攻撃の反動で胴体が傾いた。ここしかない。

耳元で空気が揺れるが意に介さず顔面へと拳を叩き込む。

もう一発来る。さっきと同じ攻撃パターン。


避けて…殴る!


「よし…。」


紙一重の攻防が続く。だが、避けるのは不可能じゃない。

それに今の二発はでかいぞ。


このまま冷静に、。


「グォォォォオオオオオオ!!!!!」


「!!」


ゼロ距離での咆哮で一瞬集中が途切れた。

その油断をついてジェネラル・マシュリンの両腕が振り下ろされる。


何とか直撃は避けた。が、大きな衝撃とともに地面が沈む。


「くっ!」


俺はわずかにバランスを崩し回避の機会を失った。

それを見逃すはずもない。舞い上がる粉塵を切り裂くような蹴りが飛んでくる。


俺は咄嗟に腕を構え、地面を踏む足に力を込める。


「肉体硬化!!」


スキルの発動を知らせる淡い光が全身を包んだ。

凄まじい衝撃が腕に走り、俺は後方へと吹き飛ばされた。


かろうじて肉体硬化が間に合ったらしい。

致命傷ではない。


立ち上がり、自分の位置を確認する。


「まずっ!!!」


血の気が引いた。今の一撃で、俺は思いのほか飛ばされていたらしい。

ジェネラル・マシュリンがその腕を地面へと突き刺している。


あれは魔法の発動モーション。

『マイセリウム・ランス』が来る。


「攻撃力上昇!!!」


走り出すと同時に叫んだ。

戦闘後のことを考えてMPは温存しておきたかったが、もはやそんなことを言っていられる状況ではない。


全力で走る。それに追従するように後方から音と振動が迫ってくる。

何が起こっているのかは見なくてもわかる。

間に合わなければ串刺しだ。


俺は跳んだ。決死の覚悟で。

そして、ジェネラル・マシュリンの顔面目掛けて右足を突き出した。


飛ぶときに、地面がわずかに隆起しているのが見えた。


全身に衝撃が走る。

あの魔法が自分を貫いたのか、それとも自分が地面に落ちただけなのか。

それすらわからなかった。


天を仰ぐ巨体から、僅かに黒い煙が漏れ出しているのを確認するまでは。


<ジェネラル・マシュリン(Lv13)を倒しました。>

<経験値(95)を取得しました。>


<拳闘士のクラスレベルが上がりました。5→6>

<クラス専用ポイント(1)を取得しました。>


<聖職者のクラスレベルが上がりました。5→6>

<クラス専用ポイント(1)を取得しました。>


「お、おおっ、勝った……勝ったぁぁああああああ!!」


心臓が破裂しそうなほど鳴っている。

今のは、本当に死ぬかと思った。

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