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第七話「同伴者。」

痛い。俺の体はボロボロだ。

戦闘中はそこまで感じなかった痛みだが、今になってじわじわと襲ってきた。

動けん。


「…。」


ああ。


さっきの女の子が俺の顔を覗き込む。

完全に忘れていたが、俺は2人を助けるために戦っていたんだった。


目が合うと「ひゃっ…生きてる!」なんて小さな悲鳴をあげる。

一応命の恩人なんだが、随分な反応だ。


そして、霧散するジェネラル・マシュリンの残骸を呆然と見つめて「本当に倒しちゃった……。」なんて呟いている。これはちょっと気持ちいい。


いや、しかし、そんなことより。


「あの。」


「はいっ!!」


「こいつどうにかしてもらえます?」


俺の視線の先には一体のマシュリン。寝転がる俺の傍、寄り添うように立っている。

そう、残しておいたあの一体だ。


体が震えてる。おい…おいおいおい待ておま…。


ボフン。


緑。


「あっ。」


「けふっ………う、気持ち悪い。」


「ああああ!ごめんなさい!!」


女の子は咄嗟に剣を抜いて流れるようにマシュリンへ突き刺す。

HPは減らしていたので、その一撃で簡単に崩れ落ちる。


その後も彼女はひどく動揺した様子だったので、落ち着かせる意味も込めて互いに自己紹介をした。

女の子の名はリーア、男の子はトマというらしい。


リーアは意識のないトマを俺の横に寝かせると、抜き身の剣を握りしめたまま周囲の警戒にあたってくれた。

俺はそんな彼女の好意に甘えて、毒が抜けるまで動かないでいることにした。


状態異常が切れる頃には体の痛みも落ち着いてきて、少しだが動けるようになった。


俺なんかよりよっぽど重症なトマの容体を確認する。


==========================


トマ

種別:人類・人属


Lv:7

HP:2.5/11(51)

MP:8/8


状態異常:

致命傷 出血 気絶


==========================



『致命傷』の状態異常がついている。

これはまあ読んで字の如くだが、致命判定がつくと付与される状態異常で、各ステータスの減少を招くうえ、放っておくと徐々にHP上限が減少。さらに進行すると気絶し、そのまま死に至る。


自然に回復することはないし、俺の持っている回復魔法『ヒール』でも治療はできない。

特級相当の回復手段か、街での治療で解除するしかない。


「…。」


とはいえ、何もしないのも気が引ける。

まあ、気休め程度にはなるか。


「ヒール。」


薄緑の光が彼の全身を包む。かざした手のひらがほんのり温かい。

とりあえず、現状の上限である11までは回復した。


俺もまだ少しふらつくが、これ以上ゆっくりはしていられない。立ち上がって体の調子を整える。


「リーアさん!街まで戻ろう!」


マシュリンがこっちに来ないよう、少し離れた場所で交戦していたリーアに呼びかける。


「…はーい!」


ちょうど戦闘も終わったらしい。

こっちに手を振りかえして応える。


「一応、ヒールはかけておきました。」


「本当にありがとうございます。」


彼女は深々と頭を下げた。

まだ、同伴者の件については話せていない。

森から街までは少し距離もあるので、道中で交渉をしなければ。


「あっ。あれはいいんですか?」


どう切り出したものかと考えながら、街への帰路に着こうとした時、リーアに呼び止められた。

その細い指が示す先。地面の上に輝く塊が見える。


「あっ、忘れてました。」


あれは魔石。今まで見てきた欠片のようなサイズのものとは比べ物にならない、れっきとした塊。

おそらく『魔石(中)』だ。


魔石は換金に使えるほか、錬金術や鍛冶にも使用できる。

中には魔石を使用して魔法を行使するクラスや、魔石を埋め込んだパペットを使役するクラスなどもあり、何かと汎用性の高い素材だ。


とはいえモンスターを倒せば必ず落ちるので、無くて困ったなんていう状況になることはまずない。


「おおっ…。」


野球ボールくらいのサイズのそれを拾い上げる。予想より僅かに重い。

表面は黒曜石のような暗色をしているのだが、内側に緑色の光を携えていて、回すとキラキラと光る。


沈みかけた夕陽が差し込むとより一層美しく、見惚れてしまいそうになったが、そんな時間はない。


インベントリへしまう。


「ん…?」


宙にぽっかりと空いた穴の先。

地面にまだ若干残骸が残っているが、その中に何かが埋まっているのが見えた。

それを掴んで引っ張り出してみる。


「これは…。」


いわゆるレアドロップというやつだった。

落ちたのは『マッシュルームキャップ』というきのこの傘のような見た目をした帽子。



==========================


マッシュルームキャップ ※推定Lv:10

<高品質><魔法耐性+5><MP回復(微)>

 きのこの傘を模したかわいらしい帽子。胞子の効果によってMPが徐々に回復する。健康被害の報告はない。今のところは。


==========================



この装備は、見た目のインパクトも相まってよく覚えている。魔法をメインで使用するプレイヤーに人気があったアイテムだ。

効果が非常に優秀なので、強化を繰り返して中盤まで使っているプレイヤーもいたくらいだ。


小さな女の子のキャラがつけてると、キャラも立ってたしかに可愛かった。

ただ、まあ俺は……。


「うん。」


街の名物おじさんになるつもりはないので、そっとインベントリにしまった。


「い、いまのレアドロップですか。」


戻ってきた俺の顔を見ながら、リーアが呟くように聞いてきた。ゴクリと喉がなっている。


「ああ、そうみたいですね。要ります?」


リーアの戦い方を見るに、彼女は魔法剣士だ。

詳しいビルドまではわからないが、俺よりかは使いこなせるんじゃないかと思う。


「い、いやいや!!貰えませんよ!!!」


だが、全力で否定されてしまった。

まあ、あの見た目じゃゲームでギリだよな。


「…そろそろ行きましょうか。」


「ああ、そうですね。」


「……あのぉ。」


「?」


「………やっぱりアイテム詳細だけ見せてもらえませんか?」


俺たちは街への道を歩き出した。


道中はとくに手強いモンスターが出るようなこともなく、問題も起こらなかった。

俺が街に入れなかった話をすると、快く同伴者の件も受けてくれた。


本当に情けないが、お金がないということも伝えて、ひとまずということで『マッシュルームキャップ』を差し出したが、やっぱり断られた。


むしろ、手数料はお礼として払わせて欲しいと言われたが、おじさんが10代にお金を出させるわけにもいかないので、後日ギルドで待ち合わせて払うというところで着地した。


しかし、あんな啖呵を切っておいてなんだが、ギルドの一般受付(未登録者向けの受付)はすでに閉まっており、素材の換金ができないらしく、宿代を借してもらうことになった。


こんな歳になって10代にお金を借りる日が来るとは。

なんとも恥ずかしい。


門についたとき、あのおじさんに一言挨拶をと思ったが、当番が変わっていた。

よってこれは後日とする。


トマを教会に隣接する診療所に届けてから、リーアとも別れた。

その際におすすめの宿を教えてくれた。本当にどこまでもいい子だ。


「いらっしゃい。」


勧められた宿に入ると、受付と思しき場所に人の良さそうなおばちゃんが立っていた。


「どうも。お部屋ありますか。」


「ええ、空いてますよ。何泊のご予定で?」


「とりあえず一泊でお願いします。」


一泊分の代金しか借りていないので当然一泊。素泊まりだ。

ぽんぽんぽんとチェックインの手続きが進む。


正直限界だった。

俺は部屋に着くなりベッドへと倒れ込む。


ゴンッ。という寝具にあるまじき音がしたが、もはやそれすら気にならない。


「ふう。」


今の俺には羽毛布団と変わらないほど心地いい。

全身の力が抜けていくのがわかる。


「さあ、寝るか。」


寝る。


寝る…?


……。


いや、待て待て待て。

何普通に寝ようとしてるんだ。


『寝る』という単語で思い出したが、何かおかしくないか?いや、おかしい。

ずっと違和感は感じていた。


「…これ……本当に夢か?」


あまりにも長すぎる。しっかり半日は経ったぞ。

そのうえあらゆる感覚がはっきりとしすぎている。


明晰夢っていうのは見たことがないけど、案外こんなものなのか?


それとも、何かが起こって全く別の世界。それこそ『Re : Genesis Online』の世界に来てしまったとか…。


うん。


「まあ……なんでもいいか。」


よくよく考えてみると、仮にそうだったとして俺に損があるわけじゃない。

むしろ嬉しい部類に入る。


それに、いくらベッドの上で悩んだって答えが出るわけでもなし。

ただあるのは、夢にしろ現実にしろ、俺がまだこの世界にいるという事実だけだ。


「うし、寝るか。」


普通に爆睡した。


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