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第五話「強敵。」

「あれか!」


木を一本二本と抜けていく。

人影の正体を完全に目視できるようになるまで、そう時間はかからなかった。


一人かと思ったが二人だ。若い女が、同い年くらいの男を背負って走っている。

男の方はかなりの重症で意識も朦朧としている様子。


「大丈夫ですか!」


俺は2人に近づくと、並走しながら呼びかけた。


「たっ、たすけ……。」


女もすでに疲弊しきっていたのか、俺の姿を捉えるなりその場に崩れ落ちてしまった。

俺は「おっとっと。」なんて間抜けな声を出しながら二人のもとへ引き返す。


「…ケホッ……ケホッ……あ、あなたは…?」


相当無理をしていたんだろう。脚が生まれたての小鹿のように痙攣している。歳は…10代後半?西洋風の顔立ちでわからんが、そんな子が人一人を担いでこの森を走ってきたのか。

咳込みながらも冷静に俺の素性を確認してくる。


しっかりしてるなぁ……なんて感心してる場合じゃないか。


「あーと、通りすがりの……通りすがりです。」


ああ、くそ、特に何も用意してなくて頭痛が痛いみたいになってしまった。

ギルドカードも持ってないし冒険者とも言い難いだろう。

変に嘘をついて後で警戒される方が面倒。俺の目的はあくまで街に入れてもらうこと。仕方ない。そう、これは仕方ないんだ。


「…。」


俺の言葉に女が顔を上げる。

そして服装を見て、失望の色をあらわにした。


「……通り…すがり…。」


地面に縋るように俯くと、ぽつりと言葉を落とした。

まるで自分の運命を悟ったとでも言いたげだ。

まったくもって失礼な話だが、まあ、死にかけの状況じゃ無理もないか。


「敵は?」


俺は二人の背中側に立って、おそらく敵が来るであろう方向、森の闇の中をじっと睨みつける。


「え…?」


女は呆気に取られたように俺の顔を見上げてくる。


「襲われたんですよね。」


「む、無理よ。あなた武器も持ってないじゃない。ごめんなさい、もういいの。あなたまで死ぬことはないわ!追いつかれる前に……あ…。」


女の声が声とも呼べないような掠れた音に変わる。

震えているんだろう。視線こそ向けられないが、身につけている細身の剣がカチャカチャと音を立てるのでよくわかる。


「なるほど、こいつは…。」


かくいう俺も、嫌な汗が背中を伝う。

無遠慮に地面を揺らしながら現れたそいつは、体長にして2m前後。すらっと伸びた体に、何よりも特徴的な傘を乗せた不気味な人型。



==========================


ジェネラル・マシュリン

種別:走菌(そうきん)類・将茸(しょうじょう)属


Lv:13

HP:82.5/84

MP:25/25


状態異常:

なし


==========================



俺が会いたくなかった方のきのこだ。


「レベル13……。」


二倍以上のレベル差に思わず漏れ出た声。


少しだけ減っているHPに交戦から逃走までの生々しい惨状がありありと見て取れる。

俺も不用意に格上の縄張りへと踏み入って、命からがら逃げ帰ったことが何度もあった。

先達として彼らにエールを送りたい。


しかし、今回は厳しい戦いになりそうだ。

上がっていく心拍数を落ち着かせるため、一旦俺のステータスも確認しておく。



==========================


ノイン・レーゲンシュライン

種別:人類・人属


メインクラス:拳闘士(Lv5)

サブクラス:聖職者(Lv5)


Lv:5

HP:19.2/44   MP:26/26

物理攻撃力:33  物理耐性:13

魔法攻撃力:10 魔法耐性:12

素早さ:18  持久力:14

精神力:21    幸運:10


状態異常:

なし


装備:

布の服 皮の靴


スキル:

肉体硬化 攻撃力上昇 素手戦闘の基本


==========================



「HP19.2……。」


レベルアップの上昇分で少し余裕があるとはいえ、これは…。


「いやいや……楽しくなってきたじゃないか…。」


「え…?」


俺が吐き捨てたセリフ。女の視線が背中に刺さる。

見えはしないが、声色というのは存外表情を写すらしい。


これは怯える彼女への気遣いや、虚栄の類ではない。

俺の心は、この圧倒的な力量差の前で確かに踊っている。


だが、あいつの攻撃力を考えると今の俺じゃ一撃であの世行きもありえる。

このままではあまりにも分が悪い。


「クラスボード。」


大丈夫。あいつの行動パターンが『Re : Genesis Online』の仕様のままなら、こちらから攻撃しない限り襲いかかってくるまでにまだ時間があるはず。



==========================


ノイン・レーゲンシュライン

Lv:5


(使用可能ポイント:5)


メインクラス:拳闘士

Lv:5


(クラス専用ポイント:4)


<初級拳闘術(0/10)>

<初級鉄鉤術(0/10)>

<持たざる者の矜持(3/15)>

<足技(0/5)>

<一撃の型(0/10)>

<連撃の型(0/10)>

<鉄壁の型(3/10)>

<攻撃力上昇(0/50)>

<素早さ上昇(0/50)>


サブクラス:聖職者

Lv:5


(クラス専用ポイント:4)


<初級長杖術(0/10)>

<初級短杖術(0/10)>

<初級槍術(0/10)>

<初級聖魔法(0/10)>

<初級回復魔法(0/10)>

<初級支援魔法(3/10)>

<道を歩むもの(0/15)>

<聖リーベの訓え(0/10)>

<聖ユスティーの訓え(0/10)>

<精神力上昇(0/50)>

<魔法耐性上昇(0/50)>


==========================



クラスレベルが上がっているので、クラス専用のスキルポイントが手に入っている。

これは通常のスキルポイントと同じように使用できるが、該当クラス以外への使用はできない。


通常ポイントとクラス専用ポイントがあった場合は、仕様上クラス専用ポイントの方が優先的に使用される。


まあ、他のクラスに使えないので温存しててもしょうがない。


<一撃の型が(3/10)に上がりました。>

<パッシブスキル『一撃一殺(壱)』を取得しました。>


<初級回復魔法が(3/10)に上がりました。>

<アクティブスキル『ヒール』を取得しました。>


「なんならもっと早くとってもよかったな。」


これは俺の悪い癖だ。

レベルを上げてスキルポイントを貯め一気に使う。

あの快感がどうにも忘れられなくなっている。


だが、まだ一つもビルドが出来上がっていない状況でやることではないな。


「ヒール。」


反省しつつも時間がないのでヒールを使用。

柔らかな暖かさが全身を包む。


「と、同時に。」


あまりの心地よさに一瞬意識が持っていかれそうになるが、持ち堪えてスキルの確認。



==========================


一撃一殺(壱)<パッシブ>

 かつて、たった一撃に魅せられた男がいたという。理由は不明。ただの思いつきに過ぎなかったのかもしれない。ただ、誰よりも強く、誰よりも速く、誰よりも硬く。ひたすらにその一撃を追い求めた愚かな野望はついに結実し、ここに語り継がれるまでの伝説となった。30秒間一切の攻撃をしなかった場合、次の一撃は1.1倍のダメージを与える。


==========================



1.1倍。壱じゃあまだこんなものだが、いずれ取る必要のあるスキルだった。


ちなみにこのスキルもプレイヤーからは過小評価を受けている。

いや、過小といえるのだろうか。30秒攻撃ができないという制約があって1.1倍じゃあ妥当か。普通に殴り続けたほうがダメージが出る。ここについては俺も庇えない。


その上、対を成すように配置されてる連撃の型の『連撃連勝』は攻撃を当てれば当てるほどに速度が上がる(上限はある。)わかりやすく強いスキル。


なんというか、不器用だけどちゃんと才能はある。でも双子の弟がわかりやすく天才だからその陰に埋もれちゃう不遇な兄って感じだ。


「だけど、俺には君が必要だよ、一撃一殺ちゃん。」


「…。」


あ、人がいるの忘れてた。

やめてください。無言が痛い。ダメージはないけど。すごく痛い。


「…さ、さあ、こっちの準備はOKだ。」


カサカサカサ。


「…ひっ!」


木の影から無数のマシュリンが姿を現す。

どうやら相手も準備が整ったらしい。


ジェネラル・マシュリンの口らしき部分がパキパキと音を立てて裂ける。


「グォォオオオオオオオオオ!!」


ぽっかりと空いた穴から、深い洞窟にこだまするような不気味な重低音が響く。

ジェネラル・マシュリンの固有スキル。

『全茸突撃(ぜんじょうとつげき)』が開戦のゴングとなった。


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