第53話 別れ
道が、開けた。
木が少なくなった。空が広くなった。遠くに、平野が見え始めた。
「……王都の方角、ですね」
フィナが言った。俺も同じ方向を見ていた。
そうだな、と思った。
歩きながら、考えていた。
言うか、言わないかではなかった。もう決まっていた。今日、言う。
問題は、どう言うかだった。
何度か、頭の中で試した。「実はこの体には元の持ち主がいる」——説明になりすぎる。「私は消えるかもしれない」——大げさに聞こえる。「ちょっと確認したいことがあって」——違う。
どれも、しっくりこなかった。
(——なんだ。言葉を選ぶのが、こんなに難しいのか)
フィナの背中を見た。荷の揺れ方が安定していた。足がよく地面を読んでいた。
「……フィナ」
「はい」
「少し、止まっていいか」
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道の脇に寄った。フィナが振り返った。
「言っておきたいことがある」
フィナは何も言わなかった。待っていた。
「……王都に着いたら、私じゃなくなるかもしれない」
風が草を揺らした。
遠くで鳥の声がした。
フィナは答えなかった。少しの間、俺の顔を見ていた。
「……なんとなく、そんな気がしていました」
「いつから」
「……少し前から」フィナが言った。「旅に出てから、しばらくして——気づきました」
少し間があった。
「怖かったか」
「……はい。少し」と、フィナが言った。「でも——」
「でも?」
「消えるわけじゃない、と思っていました」
俺が何も言わないでいると、フィナが続けた。「……いなくなるんじゃなくて、どこかにいる、という気がして」
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そうか。
この子はずっと気づいていた。俺が気づかれていないと思っていた。
「……大丈夫だと、思っていたか」
「……はい」フィナが少し頷いた。
「最後になるかもしれない」
声に出すと、思ったより軽かった。「でも——見ているから」
フィナがゆっくり頷いた。
「……だから——行っても、大丈夫です」
道が、王都へ続いていた。
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また、歩き始めた。
平野が近づいていた。道の土が、少し固くなっていた。草の背が低くなった。
歩きながら、景色を見ていた。
何かが、違った。
この草の緑の濃さを——知っていた。地面の感触を——知っていた。空の高さを——知っていた。
俺が知っているのではなかった。
(——帰ってきている)
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感覚が、少しずつ変わっていた。
景色が遠くなるのではなかった。逆だった。景色がくっきりしていた。輪郭がはっきりしていた。でも、それを見ている「俺」が——薄くなっていた。
フィルターが消えていく感じだった。分析する目が、何かに溶けていく。
フィナが前を歩いていた。
声をかけようとした。
口が、動かなかった。
(——ああ)
怖くはなかった。
フィナの後ろ姿が、見えていた。
声は、もう出なかった。




