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傾いた樽と真珠 ~おっさんマーケターが美少女に転生、気がついたらそこは場末の酒場兼娼館だった~  作者: 華雪β
第12章 手放す

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第52話 景色が変わる

3日目に入ったころ、道が変わった。


街道が森の中に入った。木が高くなった。日差しが薄くなった。土が柔らかくなった。


知っている感じと、知らない感じが、同時に来た。おかしな感覚だった。


---


最初に気づいたのは、枝だった。


顔に向かってくる枝があった。目で確認するより先に、体が傾いていた。


(——俺が、やったか?)


一瞬止まって考えた。やっていない。体が勝手に動いていた。


「どうしましたか」


フィナが振り返った。


「……何でもない」


偶然かもしれなかった。


---


水の音がした。


左の方から来ていた。体がそちらを向いていた。向こうを見ようと思う前に、もう向いていた。


「川、ですね」


フィナが同じ方向を見て、静かに言った。


川。そうだ。


なぜこの体は、俺より先に知っていたのか。


---


「……大丈夫ですか」


昼過ぎにフィナが聞いてきた。


「何が」


「さっきから、少し止まる回数が増えています」


「道が悪いんだろう」


フィナが少し間を置いた。「……そうですか」


それ以上は聞かなかった。


---


木の実があった。


道の脇に落ちていた。手が、伸びていた。


俺が、か?


違う。


その木の実が何の実か、俺には分からなかった。でも——この体には、分かるらしかった。


---


夕暮れに差し掛かったころ、俺は一つのことを考えていた。


怖いかどうかと言えば、怖かった。自分が薄くなっていく感じ。「俺」の輪郭が少しずつ溶けていく。


でも。


イルゼに任せた。テクラに任せた。仕組みが動いている。あの店は、俺がいなくなっても回る。


——だから、手放せる気がした。


「……フィナ」


「はい」


「もう少し、かかるか」


「……王都まで、明日の夕方には着けると思います」


そうか。


明日——終わる気がした。


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