第52話 景色が変わる
3日目に入ったころ、道が変わった。
街道が森の中に入った。木が高くなった。日差しが薄くなった。土が柔らかくなった。
知っている感じと、知らない感じが、同時に来た。おかしな感覚だった。
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最初に気づいたのは、枝だった。
顔に向かってくる枝があった。目で確認するより先に、体が傾いていた。
(——俺が、やったか?)
一瞬止まって考えた。やっていない。体が勝手に動いていた。
「どうしましたか」
フィナが振り返った。
「……何でもない」
偶然かもしれなかった。
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水の音がした。
左の方から来ていた。体がそちらを向いていた。向こうを見ようと思う前に、もう向いていた。
「川、ですね」
フィナが同じ方向を見て、静かに言った。
川。そうだ。
なぜこの体は、俺より先に知っていたのか。
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「……大丈夫ですか」
昼過ぎにフィナが聞いてきた。
「何が」
「さっきから、少し止まる回数が増えています」
「道が悪いんだろう」
フィナが少し間を置いた。「……そうですか」
それ以上は聞かなかった。
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木の実があった。
道の脇に落ちていた。手が、伸びていた。
俺が、か?
違う。
その木の実が何の実か、俺には分からなかった。でも——この体には、分かるらしかった。
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夕暮れに差し掛かったころ、俺は一つのことを考えていた。
怖いかどうかと言えば、怖かった。自分が薄くなっていく感じ。「俺」の輪郭が少しずつ溶けていく。
でも。
イルゼに任せた。テクラに任せた。仕組みが動いている。あの店は、俺がいなくなっても回る。
——だから、手放せる気がした。
「……フィナ」
「はい」
「もう少し、かかるか」
「……王都まで、明日の夕方には着けると思います」
そうか。
明日——終わる気がした。




