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傾いた樽と真珠 ~おっさんマーケターが美少女に転生、気がついたらそこは場末の酒場兼娼館だった~  作者: 華雪β
第12章 手放す

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第51話 歩き始める

城門を抜けると、空気が変わった。


石畳の音が、土の音になった。道の脇に草が生えていた。風が、街の匂いではなかった。


(——あの日以来だ)


あのとき、フィナは城門の外で遠くを見ていた。「この先が、どんな場所か、想像するんです」と言った。


今日、そこへ行く。


---


フィナが先を歩いていた。


荷の持ち方が、自然だった。どちらの道を選ぶか、迷いがなかった。


「……慣れているな」


「外に出る機会が増えましたから」フィナが振り返らずに言った。「少しずつ」


そうか。フィナが外を好きになっていた。俺が知らないうちに。


---


旅の1日目は、日が暮れるまで歩いた。


道沿いに村がいくつかあった。家の数、煙突の数、市が立つ曜日を示す旗——自然と数えていた。


「何を見ているんですか」


「村の規模」


「なぜ」


「……なぜだろうな。村の規模を見ると、自然とそうなる」


フィナが少し笑った。「商人みたいですね」


「商人とは少し違う」


「同じに見えます」


そうかもしれない、と思った。


---


宿に着いた。フィナが主人と話を始めた。値段の話もフィナがつけた。こちらが口を開く前に、終わっていた。


夕飯を食べた。スープと黒パンだった。フィナが椅子を引いて座るのを待ってから、俺も座った。スープが熱かった。誰かが用意してくれた熱いものを、今日は受け取る側にいる。


——それだけで、十分だった。


旅人が何組か。商人らしい二人組。荷が重そうな男。子供を連れた女性。


みんな、どこかへ向かっている。


同じ旅人として、今日は俺もその中にいる。


悪くない、と思った。意外なほど。


---


翌朝、また歩き始めた。


日が出たばかりの道は静かだった。鳥の声。草が揺れる音。遠くで水が流れているような音。


「……あのとき、どんな場所だと思っていた?」


フィナが振り返った。「何ですか」


「城門の外で、遠くを見ていただろう。この先を想像する、と言っていた。あの日」


フィナは少し考えた。「……ここと似た場所だと思っていました。でも——少しだけ違う何かがある、と」


「どうだ。実際に来てみて」


「……似ています」少し間があった。「でも——違います。空気が、少し」


「どう違う」


「——うまく言えません」


それでよかった。うまく言えなくていいことが、ある。


---


午後に入ったころ、道の脇に、小さな石積みがあった。通り過ぎようとしたとき、足が止まった。


俺が止めたわけじゃなかった。


(——なんだ?)


石積みを見た。何かが引っかかった。この石の積み方を、見たことがある気がした。でも——この道を俺が通ったことはない。


フィナが先を歩いていた。声をかけようとして、止めた。


気のせいだ、と思った。


気のせいだといいな、とも思った。

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