第51話 歩き始める
城門を抜けると、空気が変わった。
石畳の音が、土の音になった。道の脇に草が生えていた。風が、街の匂いではなかった。
(——あの日以来だ)
あのとき、フィナは城門の外で遠くを見ていた。「この先が、どんな場所か、想像するんです」と言った。
今日、そこへ行く。
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フィナが先を歩いていた。
荷の持ち方が、自然だった。どちらの道を選ぶか、迷いがなかった。
「……慣れているな」
「外に出る機会が増えましたから」フィナが振り返らずに言った。「少しずつ」
そうか。フィナが外を好きになっていた。俺が知らないうちに。
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旅の1日目は、日が暮れるまで歩いた。
道沿いに村がいくつかあった。家の数、煙突の数、市が立つ曜日を示す旗——自然と数えていた。
「何を見ているんですか」
「村の規模」
「なぜ」
「……なぜだろうな。村の規模を見ると、自然とそうなる」
フィナが少し笑った。「商人みたいですね」
「商人とは少し違う」
「同じに見えます」
そうかもしれない、と思った。
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宿に着いた。フィナが主人と話を始めた。値段の話もフィナがつけた。こちらが口を開く前に、終わっていた。
夕飯を食べた。スープと黒パンだった。フィナが椅子を引いて座るのを待ってから、俺も座った。スープが熱かった。誰かが用意してくれた熱いものを、今日は受け取る側にいる。
——それだけで、十分だった。
旅人が何組か。商人らしい二人組。荷が重そうな男。子供を連れた女性。
みんな、どこかへ向かっている。
同じ旅人として、今日は俺もその中にいる。
悪くない、と思った。意外なほど。
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翌朝、また歩き始めた。
日が出たばかりの道は静かだった。鳥の声。草が揺れる音。遠くで水が流れているような音。
「……あのとき、どんな場所だと思っていた?」
フィナが振り返った。「何ですか」
「城門の外で、遠くを見ていただろう。この先を想像する、と言っていた。あの日」
フィナは少し考えた。「……ここと似た場所だと思っていました。でも——少しだけ違う何かがある、と」
「どうだ。実際に来てみて」
「……似ています」少し間があった。「でも——違います。空気が、少し」
「どう違う」
「——うまく言えません」
それでよかった。うまく言えなくていいことが、ある。
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午後に入ったころ、道の脇に、小さな石積みがあった。通り過ぎようとしたとき、足が止まった。
俺が止めたわけじゃなかった。
(——なんだ?)
石積みを見た。何かが引っかかった。この石の積み方を、見たことがある気がした。でも——この道を俺が通ったことはない。
フィナが先を歩いていた。声をかけようとして、止めた。
気のせいだ、と思った。
気のせいだといいな、とも思った。




