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傾いた樽と真珠 ~おっさんマーケターが美少女に転生、気がついたらそこは場末の酒場兼娼館だった~  作者: 華雪β
第11章 新しい店と噂

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第50話 出発前

翌朝、テクラに声をかけた。


「王都に行こうと思う。来月から」


テクラが振り返った。「フィナから聞いたよ」


「そう」少し間を置いた。「前に——見つかったら教えて、と言っていたから」


「見つかったんだ」


うなずいた。


「良かったじゃん」テクラは軽く笑いながら、肩をたたいてきた。


---


その日の夕方、クレメントを呼んだ。


イルゼも席に着いた。フィナも来た。


話を整理した。カルロが王都で見た店のこと。役人が言っていた需要のこと。フィナが知っている通りのこと。


クレメントが聞いていた。


「目的は調査だけですか」


「まず確認したいんです。王都にできた、ここと似た店が——どのくらい似ているのか、誰がやっているのか、うちにとっての脅威になるのかどうか。相手がわからなければ、何もできませんから」


「期間は」


「往復で二週間、現地で一ヶ月を目安に。長くなっても二ヶ月で戻ります」


クレメントが指輪を回しながら、少し考えた。「現地の段取りはこちらで出来ます。王都に繋ぎがあります」少し間を置いた。「宿はこちらで。着いたら名前を出してください」


イルゼが口を開いた。「店はどうする」


「テクラと一緒に常連の対応をお願いできますか。個室の鍵はクレメントさんに預けます。昼の段取りはそのまま続けてもらえますか」


クレメントが言った。「人手が要るなら出せます。一人か二人なら」


イルゼが腕を組んだ。少し間があった。「わかった。ただ——戻ったとき店が変わってても文句言うなよ」


クレメントが言った。「戻ったら報告を。何があったとしても」


うなずいた。


---


準備に二週間かけた。


書き付けを作った。常連の顔と好み。仕込みの順番。個室の換気のタイミング。細かいことを全部書いた。


テクラに渡そうとした。


「昼の仕込みは——」


「わかってるって」


「個室の換気は——」


「わかってるって」


それ以上言えなかった。


書き付けが、行き場をなくした。テクラを見た。テクラが少しだけ笑った。「行ってらっしゃい。新しいやりたいこと、見つかるといいね」


軽かった。でもその軽さが、信頼の重さと同じだった。


---


出発の前夜、広間に少しだけ残った。


厨房が静かだった。テクラが最後の片付けをしていた。フィナには先に家へ帰って荷造りをしてもらっていた。


王都、と頭の中で呼んでみた。


胸の奥が、何かを返してきた気がした。この体ではなく、この体の持ち主が知っている場所が——どこかにある気がした。


---


出発の朝、フィナと二人で店を出た。


イルゼが扉の前に立っていた。何か言うかと思った。


「行ってきます」


イルゼが短くうなずいた。


フィナが隣で「行ってきます」と言った。声が、少し弾んでいた。


歩き始めた。この旅が何になるか、まだわかっていない。


---


> "If your business depends on you, you don't own a business — you have a job."

> 「あなたに依存するビジネスは、あなたのビジネスではない。それはただの仕事だ。」

> ― Michael E. Gerber


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